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第6章 コーハ王家の第4王子と高位貴族子弟の近衛は、同じ近衛である地味平凡の子爵子息の魅了で逆ハーレムを作っている、との情報が!

759.失ってみて初めて気づくこともある。

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シャリン王子は、ベリウンヘルツの在り方を思い出した。

ベリウンヘルツの決まり。
王家の子どもは、暗殺者から生き延びたら王になる。

シャリン王子は、この村に来てから、暗殺者を見ていない。

朝、昼、夜。
何の変化もない生活。
安心して暮らしてきた。

シャリン王子は、成人したら、村から出るつもりでいたから、真剣に考えてこなかった。

今、胸に渦巻く疑念を無視してはいけない。

大事な何かを掴めそうだ。

15歳を過ぎて、至福の微笑みを浮かべながら、意味のない会話をする村の大人。

何の個性もなく、毎日幸せそうにしているが、その状態は生きていると言えるのだろうか?

ベリウンヘルツとは縁が切れていて、別の場所で生きていくんだとシャリン王子は思っていた。

しかし、ベリウンヘルツと縁が切れたと思っているのはシャリン王子だけ、ということはないだろうか?

この村にいれば、安全で安心?本当に?
何を根拠に?

誰にも、言われてたことがない。

シャリン王子が、思い込んでいただけでは?

シャリン王子が15歳になって、至福の笑顔でノルマをこなし、意味のない会話をするようになったら。
シャリン王子は、ベリウンヘルツの王にはなれまい。
それは、王家の子どもの死の要件を満たしたことになるのだろうか?
次の王家の選出は、始まるのだろうか。

それとも、シャリン王子がベリウンヘルツから逃げ出した時点で、王家の選出が始まっているのだろうか?

この村で、毎日のノルマをこなしている間は、ブラックホールに吸い込まれることはない。

ノルマをこなさないと、ブラックホールに吸い込まれる。

それは、他ならぬ命を握られていることにならないだろうか?

直接的な危害は加えられなくなったが。

村の決まりに従わないとブラックホールに飲み込まれるような村では、村の決まりに従うように自分で行動を制限しなくては死んでしまう。

ベリウンヘルツにいて、暗殺者に怯える日々と何が違う?

ベリウンヘルツにいたら、暗殺者から生き延びた者が、王になることを認められた。

暗殺者に狙われるのは、辛かったが、したいことを我慢したり、自分以外の意思に従うことを余儀なくされることはなかった。

この村には、そんな自由が1つもない。

決まりに従わないと死ぬ。

決まり以外にすることがない。

新しく何かをしようとすることは著しく歓迎されない。

15歳を過ぎると、個性を失う。


比べてみなければ、気づかなかった。

ベリウンヘルツにいたときよりシャリン王子の環境は、悪化していないだろうか?

暗殺者から生き延びて王になるのではなく、王にならないことで生き延びたいと考えて、ベリウンヘルツの決まりを破ったシャリン王子に用意された罰なのか?

この村にいることは、婉曲的な死を意味するのではないだろうか?

シャリン王子は、愕然とした。

この村に来る前は、逃げられるなら、逃げたい、とそればかり考えていた。

逃げたがるシャリン王子に丁寧に説明してくれた大人は、意地悪を言ったわけではない。

心から向き合ってくれたのではないか?

当時は逃げることしか頭になかったために、頭から拒否してしまったが。

シャリン王子が、ベリウンヘルツの王子に生まれたことは選べない。

暗殺者から生き延びなければ、王になれない人生だと知らされて、嫌だ嫌だと毎日不満たらたらで過ごしてきたシャリン王子。

しかし。
人生のルールが決まっていて、それに則った生き方を強いられることなんて、共同体にいる限り逃れられないのではないだろうか。

シャリン王子の胸は、後悔でいっぱいだ。

よく知らない旅人の助言を聞いたときは、それしかないと視野狭窄に陥っていた。

なぜ、自分は、旅人の意見に飛びついてしまったのだろうか?

この世界には、クーリングオフや未成年者の契約だから無効だと保護者が乗り出して、契約を最初からなかったことにする制度がない。

シャリン王子がここにいることを知っている者は、シャリン王子が外の世界に戻りたいと願ったとき、戻してくれるのだろうか。

旅人にはこの村に来てから、1度も会っていない。

シャリン王子がこの村にいることを、シャリン王子の侍従も教育係も両親も知らない。

旅人の助言を頼りに、誰にも何も言わずに、出てきてしまった。

心配しているだろうか?

探しているだろうか?

シャリン王子は、ベリウンヘルツを出てから初めて、ベリウンヘルツに残してきた人達を思った。

もう会えないのだろうか。

会いたい。

会って、心配かけてごめんと言って、また一緒に暮らしたい。

ベリウンヘルツの決まりの中で、大切に育ててくれていたことを知ろうとしなくて、ごめん。

そして、ありがとう。

ベリウンヘルツの決まりは、前世の記憶があるシャリン王子には拒否感しかなくて、他のことに目がいかなかったけれど、この村での暮らしを経験した今なら分かる。

家族も使用人も、シャリン王子を大切に見守り、育ててくれていた。

どうしよう。

この村を出たい。

ベリウンヘルツには、もう居場所がなくなっているかもしれないけれど、帰りたい。

帰って、勝手してごめんね、今までありがとうと伝えたい。

そして、可能なら、これからもよろしく、と。
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