フィリス・ガランの近衛生活

かざみはら まなか

文字の大きさ
上 下
739 / 1,437
第6章 コーハ王家の第4王子と高位貴族子弟の近衛は、同じ近衛である地味平凡の子爵子息の魅了で逆ハーレムを作っている、との情報が!

739.選ばれるための努力は美しい。自分が選ばれなくても、ライバルが選ばれたなら、敗者としての己を受け入れられた。でも、現実は。

しおりを挟む
「私達が、どれ程心待ちにしていたと?」

いや知らんがな。

「結婚生活のための準備も怠りはしませんでしたのよ?」

もっと知らん。
目当ての男をおとしてから、準備すりゃ良かったんじゃないのか?

ご令嬢方によれば。

アンドリュー達をフィリスの魅了から救うために毎回用意した魔導具は、自腹だったという。

一般的ではない魔導具を取り揃えるために、懐がたいそう寂しくなった。

従来にない、未解明の魅了を解除するための魔導具を作り出せたら、天才以外の何者でもない。

新手の魅了を駆使し、婚約者のいる男を誑かして、研究所送りになったミドリン・パーマーで臨床実験を行いながら、研究を重ねてきた。

その研究費用、ご令嬢方の持ち出し分が大半になった。

研究所の題材に沿うテーマは、研究所の予算でまかなうが、ご令嬢持ちの望むオプションを魔導具に付与するための研究や実際の付与にかかる費用は、ご令嬢方がまるまる負担する契約になっていた。

その話を聞いたサブリーとユージュアルの心の声は1つ。

『あこぎな商売。』である。

ご令嬢方は、いつ出会う機会がきても、最高の出会いにするため、常に美しくあろうと心がけてきた。

魅了解除のための魔法の訓練も毎日欠かさなかった。

お金と時間と労力を注ぎ込んできた。
望み通りの男との結婚を目指して。

目当ての男との結婚のために注ぎ込んできたものが大きすぎた。
男と結婚しない未来など、ご令嬢方の将来設計に入っていなかった。

どんな過程を経ても、男と結婚する未来しかない。
ご令嬢方もその周りも、一丸となって、同じ未来へと邁進してきた。

ご令嬢方は互いにライバルだった。

足を引っ張ったり、出し抜いたり、当たり前に競い合った。

目当ての男との結婚を手に入れるため。

ご令嬢方は、互いにライバルの手の内を推し測りながら、魅了の解除に挑み続けた。

だから。

同じように魔導具を用意して日参していたご令嬢の中の誰かが選ばれていたなら、ご令嬢方は、悔しくても納得がいった。

自分の力が及ばなかったと、敗者であることを受け入れられた。

でも。
国の出した結論は、女は対象外で、男が対象だから、女は下がれ、男に当たらせる、だけ。

ご令嬢方は、好みの男を新しい婚約者として迎える目標を持ち、家族や家人と一丸になって、突き進んできた。

幕引きにしては、あまりに唐突。

行き場のない感情を持て余しているのは、ご令嬢方だけではない。

ご令嬢方と共に突き進んできた家人もである。

ご令嬢方に囲まれたサブリーとユージュアルは、ご令嬢方の恨み言を拝聴している。

拝聴したいわけではないが、移動できないので、仕方がない。

同じ話しかけるなら、優しく話してほしいなあ。

視界にいると虫酸が走るなら、近寄らなければいいんじゃない?とか

2人は、胸の内で呟くのみ。

ハニートラップを仕掛けられて楽しむ生き方は、していないので、相手にされないなら、されなくてもいい。

でも、八つ当たりしても許されると考えられるのは、業腹だ。

どうしようかなあ。

「そもそも、魅了なんて、誰が言い出したんだよ?」
とサブリー。
「コーハ王国で魅了事件が起きていたところで、関係ないハンティア王国が介入してきたらおかしいと気づかないかなあ?」

「魅了がどうだと言っているけれど、ハンティア王国の貴族子女とどうにかなる未来が、あるわけない。嫁探しに来ているわけじゃないんだから。」
とユージュアル。

「国の方針の狙いをよく考えもせず、自分に都合よく運びそうだから、とホイホイ乗せられて、はしごを外されたわけ?」
馬鹿じゃんと言わんばかりのサブリー。

「婚約者がいなくて、切羽詰まっていたとはいえ、ハンティア王国の都合しか考えていない計画が成功すると思うなんて浅はか過ぎるよなあ。」
と正直なユージュアル。

2人がご令嬢方の顔を見ながら話していると、ご令嬢方が全員後ろに下がった。

飽きた?
解放?

サブリーとユージュアルの期待は儚く散った。

入れ替わりに体格のいい上背のある男達がどすどすとやってきて、2人を取り囲んだ。

「「え?誰?」」

「「「「「やっておしまい。」」」」」
とご令嬢方。

「なにそれ!」

「めちゃくちゃじゃん。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

食堂の大聖女様〜転生大聖女は実家の食堂を手伝ってただけなのに、なぜか常連客たちが鬼神のような集団になってるんですが?〜

にゃん小春
ファンタジー
魔獣の影響で陸の孤島と化した村に住む少女、ティリスティアーナ・フリューネス。父は左遷された錬金術師で村の治療薬を作り、母は唯一の食堂を営んでいた。代わり映えのしない毎日だが、いずれこの寒村は終わりを迎えるだろう。そんな危機的状況の中、十五歳になったばかりのティリスティアーナはある不思議な夢を見る。それは、前世の記憶とも思える大聖女の処刑の場面だった。夢を見た後、村に奇跡的な現象が起き始める。ティリスティアーナが作る料理を食べた村の老人たちは若返り、強靭な肉体を取り戻していたのだ。 そして、鬼神のごとく強くなってしまった村人たちは狩られるものから狩るものへと代わり危機的状況を脱して行くことに!? 滅びかけた村は復活の兆しを見せ、ティリスティアーナも自らの正体を少しずつ思い出していく。 しかし、村で始まった異変はやがて自称常識人である今世は静かに暮らしたいと宣うティリスティアーナによって世界全体を巻き込む大きな波となって広がっていくのであった。 2025/1/25(土)HOTランキング1位ありがとうございます!

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

処理中です...