フィリス・ガランの近衛生活

第5章 コーハ王国の近衛には、わがまま姫がいる。フィリス・ガランという子爵家子息。コーハ王国のイイ男を侍らせて、手玉にとっているらしいよ？

519.セドリック、シュクナと拠点に残って、フィリスを抱きしめて逃さないようにしているレイモンドのサブリーとユージュアルへの思い。

レイモンドは、フィリスを抱きしめながら、遠方を見ている。

遠くに何箇所か、赤黒い炎が広がった。

火のついた場所が増えたようだ。

何を燃やしているのか分からないが、火は消えることなく燃えている。

フィリスは、大人しく、レイモンドの腕の中におさまっている。

レイモンドのことを『レイ』と呼ぶこともあるフィリスは、何を思ったのか、何も考えていないのか、時々、レイモンドの顔を見上げては、ニコニコしている。

後輩（男）に抱きしめられて、身動き出来なくされていながら、ニコニコしている先輩（男）。

容姿はよく似ているが、印象は真逆の兄妹だとレイモンドは思った。

赤い軍服のフィリスの妹とフィリスは、2人とも茶色の髪と瞳。

小柄で細身、くっきり二重、優しげな顔立ちに隠れているが、整った目鼻立ち。

フィリスの妹の威圧感は、フィリスには出せないとレイモンドは思う。

フィリスの妹は、セドリックが閣下と呼ぶのを拒否するどころか、当たり前のように受け入れていた。

フィリスが心配になったから、軍隊を派遣したと言われても納得のいく差配だ。

フィリスの妹がセドリックと話すのをきいていたが、両者ともに、フィリスの妹の方が上の立場で話していた。

妹の大物ぶりが、簡単に理解できる。

子爵家の一般のご令嬢は、近衛の侯爵家子息に、威圧などしない。

強かさではなく、純粋に強い。

フィリスの妹は、レイモンドの腕の中におさまるようなご令嬢ではなさそうだ。

レイモンドは、腕の中のフィリスを見つめる。

フィリス、サブリー、ユージュアルは、よく、地味平凡とそしられる。

しかし、レイモンドに言わせると、
周りにの美形率が高すぎて、地味に見えるだけで、3人とも元は悪くない。

3人の周りを高嶺の花とか、優良物件が囲んでいるせいだ。
やっかみと嫌がらせが3人に直撃し、『地味平凡』と3人が罵られる場面を見るたびに、見る目がないと思う。

近衛別働隊の衣装を着て、歌い踊る様子は、3人とも似合っていて、惹きつけられる。

フィリスもサブリーもユージュアルも、地味平凡を否定しない。

でも、レイモンドは、3人ともカッコいいところもある、と知っている。

可愛くて、情けなくて、かっこよくて、頼れる先輩達。

フィリスは、無事に戻ってきた。

サブリーとユージュアルも無事でいてほしい。

ダンシェル、ロウウェル、ラウル、エスターも心配だけど。

サブリーとユージュアルは、何でもない素振りで、いつも、自然に守ってくれるから。

とても心配だ。

笑顔で、冗談を言いながら、無理をしていないか、考えてしまう。

今のレイモンドに、2人を助ける技量はない。

いつか、2人の片腕だと任せてもらえるくらいになりたいとレイモンドは思う。