フィリス・ガランの近衛生活

かざみはら まなか

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第5章 コーハ王国の近衛には、わがまま姫がいる。フィリス・ガランという子爵家子息。コーハ王国のイイ男を侍らせて、手玉にとっているらしいよ?

515.お姫様っぽいから、呼びかけが、姫、になったと妹に知られるのを、兄は回避したい。お姫様救出ゲームの姫役なら、今日だけだし、誤魔化そう。

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フィリスは悩んだ。

ティリリ王国に来て、日常になってしまっていた姫呼びを誤魔化すには、姫役の話をするしかない。

「ボク、姫役だからね、今日だけ、姫なの。」
今日を強調する。
「今日だけ。いつもは違うの。」

「お兄様は、立派に姫役をなさったのですね。」
とマーゴット。

「いやいや、姫役が1人でいたらおかしいだろう。助け出したのは誰だ?どこだよ?」
とティリリ王国の近衛。

「帰ったから、知らない。」
とフィリス。

「いやいや、ゲームだろうが。勝手に帰るなよ。」
とティリリ王国側の近衛。

「姫がいていい場所を用意してないのが、悪いの。
地面は、ドロドロのベチャベチャで歩けない上に、草はトゲトゲなの。」
とフィリス。

「お兄様、なんて苦労を。」
とマーゴット。

「お兄様は、可憐な姫君でいらっしゃるのに、そんな場所にいていいわけがありません。」

「帰ってきて、正解です。」
とマーゴットは、フィリスの判断に大賛成してくれた。

マーゴットは、いつも、フィリスの味方だ。

マーゴット前では、マーゴットの自慢できる兄でありたい。


「ダメだろう。救出する姫役が不在じゃ、ゲームそのものが成り立たねえじゃないか。」
とティリリ王国側の近衛。

「お兄様に対する扱いが、敗因ですね。自業自得です。」
とマーゴット。
「お兄様は、可憐な姫君。姫君は、綺麗な花と音楽のある場所で、穏やかに助けを待つものです。」

「世の姫とは、本来、そういうものだが、近衛だろう?」
と、納得のいかないティリリ王国側の近衛。

「近衛という枠組みで、語れないのが、お兄様の姫らしさ。」
とマーゴット。
「お兄様に接するときは、可憐な姫君として、敬愛する心で、壊れ物を扱うかのように、丁寧に。基本です。」

マーゴットに、姫の呼びかけを誤魔化せたはずなのに。
フィリスは、なんだか、安心できない気持ちになった。

「基本かよ。」

「コーハ王国側の姫はこちらにいるので、勝負は終わり。」

「お兄様とコーハ王国側の拠点に向かうので、道をあけなさい。」
とマーゴット。

「いや、姫が1人でほっつき歩いているんだから、捕まえ直す。」
とティリリ王国側の近衛。

マーゴットは、新しい手下に命令する。

「試しに、あの一帯をやりなさい。」

マーゴットの側で控えていた禍々しいナニカと、
軍服集団と一緒におりてきた禍々しい仲間のナニカは、

ティリリ王国側の近衛のいない方向を向くと、ゴオオオと赤黒い炎を吐き出した。

見渡す限り、一帯が赤黒い炎に包まれている。

炎も禍々しい。

「道をあけなさい。」
とマーゴット。

ティリリ王国側の近衛は、左右に分かれて、真ん中を開けた。

人1人分の隙間には、首を横に振って却下したマーゴットだが、大通りくらいの幅に広がったのを見て、よし、と頷く。

マーゴットは、新しい手下に炎を吐かせるのを止めた。

赤黒い炎は、ずっと燃えている。

「お兄様。ご一緒に。」
とマーゴット。

フィリスは、赤い軍服の2人に両側を挟まれながら、マーゴットに並ぶ。

マーゴットは新しい手下を伴い、ゆうゆうと歩いていく。
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