フィリス・ガランの近衛生活

かざみはら まなか

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第5章 コーハ王国の近衛には、わがまま姫がいる。フィリス・ガランという子爵家子息。コーハ王国のイイ男を侍らせて、手玉にとっているらしいよ?

503.ダンシェルとロウウェルの仲良しコンビが、ダンシェル大好き魔法使いに山中で追いかけ回されて、ご対面した。恋愛の地雷は、人それぞれ。

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ダンシェルとロウウェルは、都会っ子だ。

近衛の仕事で、コーハ王国の王都を出る以外は、王都から出ずに生活している。

都会っ子の2人に、山野で身を守りつつ、フィリス達を救出に向かうのは荷が重かった。

山での行軍に不慣れなため、開始早々に魔法使いに見つかった。

すぐに追い詰められてしまう。

セドリックの指示、
『戦いで無理をするくらいなら、時間切れまで隠れてやり過ごせ。』
に切り替えるタイミングを自分達で作り出せなかった。

「どうしたの、怖い顔して。」
と魔法使い。
「追いかけてきたよ。全然会いにきてくれないから。」

ダンシェルは、迫られても、黙ってやり過ごすことも少なくない。
ダンシェルを好きなタイプは、ダンシェルに構われたい、優しくされたい、特別扱いされたい、という欲望を持っていることが多い。
ダンシェルに嫌われたくないから、無理強いはしない。

かたや、ロウウェルの子ども時代は、欲望をたぎらせた不届き者がひっきりなしに良からぬ企みを実行しようとしている環境だった。

ロウウェルを思うままにむさぼり食いたい、弄びたい、好きにしたい、という欲望を持った人がロウウェルの周りに多くいた。

ロウウェルは、好き好き言いながら、一方的に自分の欲望を押し付けるやつは、老若男女問わず嫌いだ。

「好きだっていうなら、好きな人の生き方を邪魔するな。」
とロウウェル。
「お前じゃないんだ。嫌がらせは止めろ。」

ダンシェルしか見ていなかった魔法使いは、ダンシェルを背中に庇って威嚇するロウウェルを虫けらのように見た。

「あんた、彼の何?」
と魔法使い。

「幼馴染。」
とロウウェル。


ダンシェルとロウウェルは、2人の関係をよく聞かれる。

ダンシェルが色気ダダ漏れ系で、ロウウェルが可愛い系なので、仲の良い様子から、恋人同士に見えるらしい。

ロウウェルがダンシェルより背が低く、並んでいると、いっそう恋人っぽく、絵になるらしい。

近衛になって、仲良くなった同僚から、
『ダンシェルとロウウェルが幼馴染カップルだと思っているやつも、何人かはいるが、実際は?』
と聞かれる度に、
『幼馴染なだけだ。』
と訂正してきた。

ダンシェルもロウウェルも、カップル扱いされることには、慣れていて、実害がない限りは放置している。

ダンシェルとロウウェルは、2人の関係を聞かれる度に、
幼馴染、親友、同僚の3択から、相手に合うものを選ぶ。

幼馴染は1番拒否感が出ない答えだ。

貴族社会なので、家同士の繋がりがあって、仲が良い、と伝わるからだ。

実際は、ダンシェルとロウウェルが勝手に仲良しなだけだが。

今回も、いつものように、『幼馴染』を選んで魔法使いに答えてみた。

しかし、魔法使いは、『幼馴染』という回答に、激しく反応した。

2人の予想に反して。


魔法使いは、移民の子ども。
平民の両親から生まれた平民で、魔法の腕を取り立てられて、王家と国に仕えている。

貴族階級の外側から、王侯貴族を助ける仕事をする。

魔法使いがティリリ王国の生まれで、ティリリ王国の国民であったから、王侯貴族に仕える仕事を得たわけだ。

平民の移民の子どもにしては、大出世である。

しかし、魔法使いは、働きだして、がっかりした。

王侯貴族に仕えることは、貴族社会に居場所ができることだと思って就職した魔法使いは、貴族との明確な線引に不満たらたらであった。

高給取りでなければ、気づいたその日に辞めていた。

貴族社会は、生まれが大事。

自分は、親ガチャに失敗したと言い出した魔法使いの親への不満は、働きだして急加速した。

そんな経緯のある魔法使いにとって。

好きな人が外国貴族階級であることは都合が良かった。

国を出て、新しい人生が始まる予感に大興奮した。

でも、好きな人はツレナイ。

その上。
好きな人の上司だとか言い出した平凡地味な男は、好きな人と魔法使いが仲良くなるのを邪魔をした。

やっと、上司を排除出来たと思ったら、好きな人の側には、親しげにしている似合いの男がいる。

そいつは、よりによって、好きな人の幼馴染だった。

憧れてやまない貴族階級に生まれて、好きな人の幼馴染として、堂々と横にいる可愛い顔の男を好きな人が大事にしている様子は、魔法使いの心を抉った。

貴族階級に生まれていれば、ぼくだって、あんたなんかに負けていない。

貴族階級に生まれて、顔も良くて、好きな人に幼馴染として、大事に扱われている男には、妬ましさと羨ましさと憎らしさしかない。

ロウウェルが『幼馴染』と答えたとき。

魔法使いのロウウェルへの敵意が、明確な殺意へと振り切ったのだ。
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