フィリス・ガランの近衛生活

かざみはら まなか

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第5章 コーハ王国の近衛には、わがまま姫がいる。フィリス・ガランという子爵家子息。コーハ王国のイイ男を侍らせて、手玉にとっているらしいよ?

471.『ラウル、ラウル、どこ?早く来て。ラウルの抱っこじゃないと、ボク、ダメなの。』

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ミーアーニ王女殿下の周りの人は、一斉にバカ笑いを始めた。

ボクは、だんだん悲しくなってきた。

言葉は通じているのに、誰とも意思疎通ができないの。

止めて、てお話しているのに、誰も止めてくれないの。

タオルを踏み出した最初の人だけじゃなく、他の人も、フミフミし始めた。
フミフミする前に、ボクを指差して笑うの。
「さっき、なんて言ったか、聞こえなかったなー、もう1回言ってよー。」と言いながら。

飲み物がなくなって、空になった容器に次々と唾を入れ始めたの。
「ちょうどいい痰壺があった。」
とか言うの。
「後で返してやってもいいぜ。頑張って綺麗に出来るかなー。」
と言って、ボクに見せるの。

バケツは、投げる振りをして投げなかったり、投げてみたり。
バケツもね、当たると痛いの。

それに、何より、心が痛いの。

ボク、どうしたら、いいのかしら?

フィリップ殿下のところに拉致されて、ボクの言葉を聞いてくれる人が1人もいなかったときみたい。

辛いの。

苦しいの。

胸がぎゅうっと締め付けられる。

「ラウル。ラウル。どこ?早く来て。」

もうダメ。涙が溢れそう。
皆の姫が、こんなに弱かったら、申し訳ないの。
でも、もう目の前が滲んでしまいそう。

「ラウル。エスター。ラウル。ラウル。」

かぎ慣れた香り。
温かい体温。
いつも抱きとめたり、抱きしめたりして支えて、励まして、甘やかしてくれた。
ボクの体をぎゅっと包み込んでくれる。

「遅くなった。姫。よく持ちこたえた。もう大丈夫だ。」
頼もしいラウルの声。

「ラウル。」
ボクの目からは涙が止まらない。
「ボク、ちゃんと出来ていた?」

「立派に姫だった。安心しろ。」
とラウル。
いつも、優しくて、力強く、頼もしいラウル。
もっと、温かくして。

「抱っこして。ラウルの抱っこじゃないとだめなの。」
ラウルの胸にくっついたままで、腕を伸ばす。

「首に腕を回せ。」
とラウル。
ボクがラウルの首に腕を回すと、お姫様抱っこにしてくれた。

額、まぶた、頬の順番に口づけして、慰めてくれる。

「ラウル。」
安心したら、また涙が出そう。

ラウルはボクを抱っこして歩き始める。
エスターと、サブリーとユージュアルも。

「ラウル、用意していたのが、全部、だめに。」
ラウルに伝えないと、と思うのに、思い出すと胸が苦しくて、嗚咽になっちゃう。

「あちらは、セドリックに任せた。レイモンド、ダンシェル、ロウウェルもいる。」
とラウル。
「俺は、1人で頑張った姫をたくさん甘やかす。」
「ラウル?」
「甘すぎなくらい。」
「ラウル。大好き。」
ラウルの温かい体。
心のこもった言葉。
優しく強い気持ち。

ラウルは、いつも、ボクを幸せにしてくれる。
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