フィリス・ガランの近衛生活

かざみはら まなか

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第5章 コーハ王国の近衛には、わがまま姫がいる。フィリス・ガランという子爵家子息。コーハ王国のイイ男を侍らせて、手玉にとっているらしいよ?

461.仕事中は、我慢。4歳上の先輩で上司の大好きな人に意識して欲しいから、仕事が終わったら、後輩の顔はお休み。本気だから、我慢しない。

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高級ホテルの最上階。

フィリスが魔法使いを威圧し、魔法使いは、ダンシェルに助けを求めて、ダンシェルは、魔法使いを無視している。

「「交流試合、終了。」」
2つの拡声魔法が届いた。
1つは、ティリリ王国の発信。
もう1つは、コーハ王国の近衛の発信。

「魔法使いは、第2王子を治療するの?」
とフィリス。
もう、声に魔力は乗せていない。
必要ないから。

「はああ。僕、血が嫌いなんだ。この部屋にいるだけで気分悪いから、自分に防御魔法使っているんだよ?」
と魔法使い。
「でも、彼の言う事なら、聞いてあげる。」
と、魔法使いは、ダンシェルをチラチラ見る。

「ボクのものに手を出さないで。」
とフィリス。

いつもの姫に戻った!
とロウウェルは思った。

フィリスの近衛モードは、本日店じまいしたようだ。

姫っぷりの激しいフィリスに、大事なお仕事のときは、近衛モードに切り替える練習をさせてきたジーン、シドニー、ラウル、エスターの努力の賜物。

フィリスが対外的に話す必要がある場合、近衛モードになる。

「はああ。あんた、男を食いまくってるんでしょ?彼には似合わない。僕は一途だから。」
と魔法使い。

フィリス本人に、男を食いまくるあんたより自分が相応しいと面と向かって言う男を至近距離で見ることは、珍しくはない。

相応しいとか、相応しくない、とか詰め寄っている男女は、だいたい、意中の相手から敬遠されている、とレイモンドは思う。

相応しいとか、相応しくない、とか決めるのは、この場合、ダンシェルなのに、なぜダンシェルに聞こうとしないのか。


ダンシェルは、そもそも、フィリス以外の男は対象外なので、魔法使いは眼中にない。

フィリスが近衛モードに入っているときは、大事なお仕事中なので、我慢していた。
15歳のときとは違い、お仕事中は我慢することをダンシェルは覚えた。

フィリスの近衛モードが解除されたので、ダンシェルの我慢も解除。

ダンシェルがフィリスの側に来たので、フィリスはニコニコしてダンシェルを見ている。

「姫。」
とダンシェルがフィリスに呼びかけた。
フィリスは急いでダンシェルを止める。
油断していた。
フィリスの中では、姫呼びの件は、なかったことにしたが、ダンシェルは忘れていなかった。

姫呼びの件は、4人だけで、後で、話し合うように伝えよう。
他の人に、わからないように。

「今、他に、人がいるよね。だから、その、後でね。」
とフィリス。
「分かった。」
とダンシェル。
「約束がほしい。」
とダンシェル。
「約束する。」
とフィリス。
姫呼びを定着させる前に阻止は絶対。
「言葉だけじゃ足りない。」
とダンシェル。
「どうして欲しいの?」
とフィリス。
姫呼びを阻止するための協力なら、いくらでもするよ。
「手を。」
とダンシェル。
よく分からないが、手を貸すくらいなら、喜んで。
フィリスは、右手をダンシェルに差し出した。
ダンシェルはフィリスの手を受け取ると、フィリスの目を見つめながら、フィリスの手の甲の指の付け根に口付けた。

ん?ん?
ダン?

フィリスの手の甲に口付けたまま、ダンシェルはまっすぐにフィリスを見つめている。

ボク、どうしたらいいのかしら?
何か言ったらいいの?
事態を飲み込めないフィリスは、ダンシェルのなすがままで、止まっている。

「姫。約束してくださいますか?」
とダンシェルは、1度唇を離して聞いてきた。

何故か、ダンシェルの瞳には、色気が漂っている。

ダン?
今、色気出している?ねえ?

「ボク。」

「姫。姫との約束が欲しい。」
とダンシェル。

姫の呼び名、使い過ぎだから。

これから、人が増える。
人が増える前に、姫呼びを止めないと、誰かに聞かれたら、大変。

「ボク、ダンと約束する。」
約束する。姫の件は、必ず話し合いしようね。

ダンシェルは、ふわっと色気をはらませて、フィリスに笑いかける。

そのまま、フィリスの右手を持ち上げると、その指先に口付けた。


「まじかー。マジもんの姫かー。」
戻ってきたらしいオジサンの声が、部屋に響く。

え?え?
フィリスは、そうっとダンシェルの目線の先を辿った。

いつの間にか、たくさん人がいた。
ティリリ王国の人とコーハ王国の人が、たくさん。

「ダン。」
ボク達、注目の的になっているよ?
気付いていた?

「姫。」
ダンシェルが満面の笑みでフィリスを見てくる。

勿論、ダンシェルは気付いている。目撃者が増えるタイミングを狙ってやったのだ。

フィリスにとって、ダンシェルは可愛い後輩。
まさか、色々画策しているなんて、露ほども思わない。

ダンのこの笑顔には、逆らえない。お願いを叶えてあげたくなっちゃう。

「うん。」
とフィリスは頷いてしまうのだ。
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