フィリス・ガランの近衛生活

第4章 異世界転生した少年少女がガラン領を永久追放されて王都に移送後、何があった？

418.知恵を使って悪巧みをする者は、自分が首謀者だと発覚しないように立ち回る。スケープゴートの側で何食わぬ顔をして、切り捨てる準備は万全。

「コウノワタル。ボクの質問に正直に答えるなら、今すぐ答えなさい。」

「コーハ王国で、売春宿の管理人をしていたのはコウノワタルね？」

モルトル・ヨーリキがビボワ国にある自分の執務室だと疑わなかった、売春宿のVIPルーム。

同一の部屋が空間転移したり、リンク機能が加えられていたりしたのに、主な使用者のモルトル・ヨーリキは、異変に気付かなかった。

使用者に疑われないように采配する人物が、使用者の側にいないと出来ないよ？

采配するには、使用者のスケジュールを把握して、他の出入りする人間の予定を管理する必要がある。

コウノワタル以外、誰に出来た？

「コーハ王国を選んだ決め手は何？」

モルトル・ヨーリキの入国した記録があること、だけではないでしょ？
モルトル・ヨーリキが出国記録を残さなかった国は、コーハ王国にもあったはず。
うかつで、思い立ったが吉日という慎重さにかけていたモルトル・ヨーリキだからね。
大きく失敗しないと学習しないタイプだから、同じことを繰り返したと思うの。

いくつか候補地はあったはず。

その中で、コーハ王国を選らんだ。

異世界転移者が、コーハ王国へ空間転移できたとき、誰が連れてきたか、が問題になった。

売春宿のVIPルームは、モルトル・ヨーリキの執務室そのもの。

モルトル・ヨーリキの執務室に、各所へのリンクが貼られていて、執務室を経由して、移動ができた。

異世界転移者がリンクを使ったのは、コーハ王国に現れた1度きりだと思う。

リンクに制限をつける技術は、コウノワタルにない。
魔法が使えないから。

異世界転移者が、日常でリンクを使う機会はなかったと思うの。

宗派の人間は、異世界転移者の集落から、人が出ていく話をしなかった。

同時に、異世界転移者の集落におけるコウノワタルの手際を認めていた。

異世界転移者が、集落から出たのは、コーハ王国に出現した1回だけ。

リンクの使用は、最終手段としてたった1回、使うように用意してきたと思うの。

リンクを何回も気軽に使えることが分かれば、コウノワタルの優位性がなくなる。

モルトル・ヨーリキと異世界転移者の接点が、異世界転移者からの働きかけによって増えると、コウノワタルがモルトル・ヨーリキを貶めて、自分への信頼にスライドしたことが発覚する。

異世界転移者にリンクを開放して、外界との自由な行き来を助けると、コウノワタルは、両者からの信用を無くすことになる。

だから、異世界転移者にリンクを使わせるのは、たった1度の片道のみ。

リンクを使って集落を出た異世界転移者は、生きて戻ってこないという確信のあるとき。

異世界転生者は、モルトル・ヨーリキの話しぶりで、モルトル・ヨーリキの下にいるが、他の誰かの部下だと匂わせていた。

コウノワタルが権力を使えるのは、モルトル・ヨーリキの影響を受ける相手に限られる。

異世界転生者は、モルトル・ヨーリキの元に送り込まれた、各陣営、各勢力の手下。

モルトル・ヨーリキの虎の威を借れる相手ではない。

信者は、モルトル・ヨーリキの話は聞いても、モルトル・ヨーリキの愛人にすぎないコウノワタルには従わない。

異世界転生者と信者を動かしたのは、コウノワタルではない。