フィリス・ガランの近衛生活

第4章 異世界転生した少年少女がガラン領を永久追放されて王都に移送後、何があった？

313.『ハーマルお兄様とフィリスお兄様と私に対するお兄様の奥方の態度を知らないのは、お兄様だけです。お兄様は、奥方の手綱をとれますか？』

『フィリスに飛び火するのか？嫁姑問題が。』
とデヒル。

『デヒルの妻は、デヒルの愛情にどっぷり浸かっていると、自分自身で感じたいし、愛され妻だと周りから認められたいの。』
とミノカサゴ。

『愛情にどっぷり、か。』
と考え込むデヒル。

『デヒルから愛されていると実感したいし、デヒルに愛されて、いいなあ、と周りから羨ましがられたいのよ。』
とミノカサゴ。

『求められている形は、分かったが、息子が成人して一人前になってからでないと、手が回らない。
愛してない、とは言わないが、求められているものが大きすぎる。数年以内の実現は難しい。』
とデヒル。

『デヒルは、現実的な範囲で、無理なく愛情を伝えているわ。』
とミノカサゴ。

『デヒルの愛情表現は、デヒルの母みたいなタイプには、十分なのよ。
ただ、不幸なことに、デヒルから与えられる愛情が、デヒルの妻にとっての合格レベルに到達していないの。
結果、デヒルの妻は、夫の愛情に満たされていないという思いを募らせているわけ。』
とミノカサゴ。

『1度、願いを叶えれば、満足するか？』
とデヒル。

『1度出来たら、次も、その次も欲しがるわ。すがりつく女は、愛情を図るから。感謝じゃなくて、どんどん欲深くなる。』
とミノカサゴ。

マーゴットが口を挟んだ。
『奥方は、デヒル様はわたしのものなんだから、弟妹には遠慮してもらいたい、という思いが最初からありましたよ。』

『マーゴットに対してもか？当主の父上が留守がちの現状で、弟妹を疎かにするなど、するわけがない。妻は、ガラン家当主の子どもの意味するところが分かっていなかったか。』
とデヒルは渋い顔をする。

政略結婚上等の家系なので、ガラン家は、嫡子以外の子どもも大事に育てる。
年下の未成人の弟妹を成人済みの嫡子のデヒルが大事に育てるのは、家族愛以外にも、理由がある。弟妹に注いだ愛情と築いた絆こそが、政略結婚で活きるからだ。
実家に恨み辛みを抱えて政略結婚をしたら、敵対する未来しかない。

『私が今より幼いとき、何をしても、何を言っても、理解しないだろうと私のことをナメきっていましたわ。』
とマーゴット。

『デヒルお兄様だけが、奥方の素行に気付いていないのです。』
とマーゴット。

『私は、1番幼いから、母の側にいることが多いので、実害はありませんでしたわよ、さほどは。』
ニコリとわざわざ笑ってみせるマーゴット。

『リドリグお兄様に対する奥方は、いつも良い顔をしていましたわ。』
嘲笑うマーゴット。

『奥方は、ハーマルお兄様には、近寄りません。用事がある場合は、誰かに頼んでいます。』
悲しげなマーゴット。
それから、マーゴットは、真剣な顔になった。
『フィリスお兄様に対しては、一方的に潰しにきていますわ。』

マーゴットは、デヒルをひたりと見据えた。

『デヒルお兄様は、奥方の手綱をとれますか？』