フィリス・ガランの近衛生活

第4章 異世界転生した少年少女がガラン領を永久追放されて王都に移送後、何があった？

190.本日、うちの弟を見かけましたか？もう帰ってきていてもいい時間なのに、迎えにきてとも言ってこないんです。お友達のお家にいませんか？

ガラン子爵家の王都邸の使用人は、フィリスと交友関係が認められていた家に使いを出していた。

使いから戻ってきた者によれば、成人の儀の昼の部にフィリスは父ダルクと出席していた姿は目撃されているが、父と別れたその後の姿を見た者はいなかった。

ジーン、シドニー、ラウル、エスター、ノーマ、シエル。
6人とも、成人の儀の昼の部、昼の部の閉会後も含めて、1日中、フィリスとは接点を持っていない。

また、6人は、フィリスについて、互いに確認し合ったり、問い合わせをしたりしていない。本日、6人はそれぞれ、客人の対応に追われていたことが分かった。

ノーマとシエルは、成人の儀の参加者として会場にいたが、式典後、それぞれ、声をかけてきた相手と話すため、速やかに別室へ移動していた。

ジーンは、父が国王陛下の従兄弟なので、回ってくる可能性がほぼないが、ぎりぎり王位継承権持ちである。

父は、国王の従兄弟、兼、現役の公爵家当主として、父の跡を継ぐのは、兄なので、兄は嫡子として、成人の儀の日は、昼の部も夜の部も出席する。

『ジーンは、夜会、気楽に楽しんでおいでよ。コレは！というのを見つけたら、捕まえて、連れてきて。』
と、ジーンの父の夜会にかける情熱は、そんなものである。

ジーンが、夜会のみの出席なので、シドニーもそれに倣って、夜会のみ。
昼の部の閉会時間頃から、訪問予約があり、ジーンもシドニーも、それぞれ、自宅で来客対応をしていた。


ラウルは、切実な王位継承権持ちである。
国王陛下の実弟が父なので、今の王家が下手を打てば、後始末ごと王位が転がりこんでくる。そうなれば、ラウルの姉は、侯爵家の跡取りとして、弟の後ろ盾になるだろう。

ラウルはジーンより王位に近いので、昼の部も当主の母、嫡子の姉と友に出席していた。

ラウルの側近のエスターは、ラウルの斜め後ろに控えていた。

成人の儀では、参加者が国王陛下の前で誓いとなる抱負を述べる。国王陛下は、誓いの言葉に『励むように。』と答えるまでが、一括り。国王陛下のお言葉によって、参加者の抱負は誓いとして承認されたことになる。

しかし、フィリスが述べた抱負に対し、国王陛下は、フィリスの名前を口にしただけだった。

どっちだ？
誓いの言葉が、想定していたものではなかったから、驚かれただけで、認められているのか？

それとも。
フィリスの誓いの言葉を国王陛下は、認めなかったのか？

『フィリス・ガラン。』
と名前を呼んだことに隠された意味は何だ？

参加者と列席者に疑義を植え付けて、成人の儀の昼の部は閉会した。

ラウルとエスターは、フィリスのところへ向かおうとしたが、次々に、人がやってきて、対応に追われている間に、フィリスの姿を見失っている。

会場にフィリスの姿が見当たらなかったため、ラウルもエスターも、フィリスは既に帰宅したのか、と、それぞれで判断し、夜会に備えて、各々、屋敷に戻っている。