フィリス・ガランの近衛生活

かざみはら まなか

文字の大きさ
上 下
101 / 1,439
第4章 異世界転生した少年少女がガラン領を永久追放されて王都に移送後、何があった?

102.親が我が子と仲良くさせたいと思っても、うまくいかないこともある。

しおりを挟む
時間経過を追って行く方がわかりやすいだろうと父は言った。

「先代国王陛下とガラン子爵家の先代当主は、軽口を叩きあっていたよ。ガラン子爵家当主は、先代国王陛下が困ったときに、1番に駆けつけてくれたそうだよ。」

「良い関係を築けていたんですね。」

「先代国王は、父親同士が気さくな間柄だから、子ども同士も交流させて、家族ぐるみで付き合いたいと考えたが、断られたそうだ。」

「どうして、でしょうか?」

「先代のガラン子爵家当主の子どもは、当代の当主以外、女のお子さんだ。
ガラン子爵家に嫡子として生まれなければ、政略結婚で国から出ることが決まっている。
ご令嬢である以上、異性の交友関係は、将来、そしりを受ける可能性がある。嫁入り前の関係を疑われては、政略結婚に差し障る、とね。」

「確かに、当代のご当主の兄弟は、姉1人、妹2人ですが、3人とも国母でいらっしゃる。」

「娘は出さないが、息子は本人がその気なら、王都に出す。交流するかしないかは、息子自身の判断に任せる。息子と実際に会ってから、互いに考える時間を作るのが良い、と先代当主は言っていた。兄もわたしも、豪胆な先代当主が楽しくて好きだったから、彼の息子に期待していた。」

話が出てから、どれくらい経っていたか、覚えていないが、と懐かしむように、父は目を細めている。

「先代のガラン子爵家当主から、息子のダルク殿が王都に滞在すると聞いて、先代国王陛下は楽しみにしておられた。」
父の目には、その情景が甦ったのだろう。

「ダルクは、初めて、国王陛下や王子、王女に会っているのに、全く物怖じしなかった。」
当時を語る父は、楽しそうだ

「父上は、ダルクと呼んでいるんですか?」

「ああ。そうだよ。」
と父が微笑む。

「先代国王陛下は、ダルクを気に入ってね。兄や私と交流させたがった。」

「しなかったんですか?」
とラウル。

「私は、今より体が丈夫ではなかったから、機会があれば、くらいだった。」

「先代国王陛下は、兄とダルクに、自分達のような関係になってほしいと常々考えていた。」

「ならなかったんですよね?」
と姉。

「兄は、父が喜んでいる姿を見ているから、ダルクと仲良くなるつもりでいた。
父親同士、仲が良いなら、相手も当然、自分と同じ関係を望むだろうと思っていたようだ。」

「何かあったんですか?」

「何もなかったんだよ。」

「意味がわかりません。」
とラウル。

「兄もダルクも互いに、交流を持とうとしなかった。」

「仲良くする気、どっちにもないの丸わかりですよ。」
と姉。

「兄は、自分から働きかけるつもりもなく、その必要性も感じなかったらしい。」

「どうやって仲良くなるんですか?」
とラウル。

「ダルクから、お伺いがきたり、文が届いたりするのを待っていたそうだ。」

「構ってくんかよ!」
と姉。

「当代当主は、何もしなかったんですよね。どうしてか、ご存知なんですか?」
とラウル。

「王都に顔を出して、顔を会わせたから、それ以上はいらなかったそうだよ。」
と父。

「交流会に出る前の話でしょ?
十にもならない子どもよね?
父親の顔をたてて、父の友人家族のところへ、親の付き添いもなく、1人で顔を出す。十分だと、わたしも思うわ。」
と姉。

姉は、憤慨して続けた。
「自分都合で、年齢一桁の子どもを親元から引き離しておいて、『あの子ども、俺らに、なんの誘いもしてこない』とか文句言う親子は、生まれ直した方がいいわよ。
むしろ、いち早く、親元に送り届けてあげなさいよ。」
父は、姉のこの気質が微笑ましくて仕方ないらしい。姉が落ち着くのを待った。

「ある日、兄は、先代国王陛下に、ダルクとどの様に過ごしているのか、尋ねられて、次の交流会で会うと答えた。食事の席だったので、耳にした使用人もいただろう。」

父は、苦い顔をした。
「先代国王陛下は喜んで、そっと様子を見にいくと言ったので、兄は、ダルクに交流会への参加を命じた。」

「いきなり、命令しちゃう?自分勝手過ぎるんじゃない?」
と姉。

「交流会の日、ダルクはいなかった。」

「兄は、ダルクは来れなくなったからいないと先代国王陛下に謝った。先代国王陛下は、次の機会があるだろう、とその場は流した。」

「兄は、交流会の度に、ダルクに来るよう命令したが、ダルクは姿を見せなかった。交流会は、そもそも、命令されて来るものではないからな。」

「ガラン子爵家の王都邸に人を送っても、梨のつぶてだったようだ。」

「年齢一桁の男の子が、親元から引き離された原因に、遊びに来いと言われて喜んで行くわけないじゃない。
普段から世話しているどころか、呼び付けて、放置。フザケてるでしょ。そりゃ、使用人も全力で坊っちゃまを守るわよ。」
と姉。

「ダルクのいない交流会が続いて、先代国王陛下も不思議に思ったようだ。兄ではなく、わたしに、ダルクの話をふってこられた。」

「交流がないので、わからないとわたしははっきり申し上げた。」

「すると、『気晴らしに誘ってみたらよかろう』とおっしゃられてね。」

「気晴らしって、お父様の?」
と姉。

「そうだよ。」

「親元から、引き離した子どもは、大事な友人の子どもよね?その子を我が子の気晴らしに使うという発想についていけない。」
姉は心底、嫌そうな顔をした。

「兄も、わたしの気晴らしにこそ、と言うので、一応、声はかけてみることにしたんだ。」

「お父様の控えめさに好感度アップ。」
と姉。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...