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第4章 異世界転生した少年少女がガラン領を永久追放されて王都に移送後、何があった?

63.ダンシェルは最愛のフィリスと一緒にいたい。

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指導係から全然優秀さが感じられなかったのは、なぜだったのか。

良からぬ噂は、幾度も耳にした。

「フィリス・ガランはフィリップ王子の贔屓で近衛の入団が無試験で決まったが、何年かけてもなかなか1人前にならない。」

「あのような出来損ないを認めるなど、伝統ある近衛の歴史に泥をぬる愚行だ。」

「フィリス・ガランに意見や忠告を与えると、フィリップ殿下とその側近がくる。」

「権力者に取り入るけしからん奴だ。」

「殿下も側近も、贔屓しすぎて、どんな願いも聞き入れるらしい。」

「ふむ。近衛にしたのは、公妾の役目の目眩ましか?」

「だとすれば、近衛を随分侮ったものだ。」

「あのなんの変哲のない地味で貧相な体が良いとは、やんごとなき方のご趣味は高尚過ぎて下々には難しい。」


時間が経ってから思い返してみると、
噂を話し、噂に踊っていたのは、国の中枢にいない貴族だった。

家のトップが肝心の情報を収集できなくて、判断を誤ったか、
心情的に、子爵家の4男ごときがちやほやされているのを目の当たりにして、ムカついちゃったか。

噂は燻り続けた。
「近衛に入るなら、フィリス・ガランに気を付けて。」
ダンシェルに言ってきた他人は数えきれない。
だが、その他人は、その後、1人も要職についていない。

噂は、ふるいにかける目的で、鎮静化させなかったのかもしれない。

噂から真実に辿り着くか、噂を知った後どんな行動をするか。

注意深く、見極めが行われていたのだろう。

ダンシェル達が噂に踊らされているのを上層部は承知の上で、噂のフィリスを指導係に抜擢した。

近衛期待の新人と持て囃されているダンシェル達が、どう動くかお手並み拝見、と観察されていたのか。

もし、あのまま噂を信じて、指導期間が修了してしまったら、近衛としての未来はなかった。

3人の先輩が、見捨てずにいつも寄り添おうとしてくれていたのは、それも理解していたのだろう。
噂に踊らされている後輩の未来を心配して、手を伸ばせば届く距離にいようとしてくれた。

当時、迷惑をかけた人達が寛容だったのは、フィリス達が見捨てない姿勢を鮮明に打ち出していたからだ。

フィリス達の奮闘に免じて、見込みがありそうなら様子を見る、と見守りに徹してくれた。

当時、優秀な新人と持て囃されていたし、自分でも優秀だと思っていた。

今でも、自分は同年代で抜きん出ているとダンシェルは思う。

近衛の経験を積み、成人貴族子弟として、社交の場に出て、社会人人生を歩んでいるうちに、わかってきたことがある。

15歳当時は、一兵卒としての優秀さに驕っていた。
戦の戦力として優秀な一兵卒には、指揮官や大将としての優秀さがわかっていなかった。

組織の上と下で、求められる能力が同じなわけがないのだ。



国境の守りの要とされているガラン子爵家と、その支えとして位置するノア男爵家、ベイモン男爵家。

この3つの領は、基本的に中央に関わらない。中央が迷走しているときは、殴って正気に戻すくらいはするが、普段は領地の発展と安寧のために領地経営に忙しい。

3つの領地か繁栄して強い程、コーハ王国は強くなる。

理解している中枢の人間は、3つの領地から近衛として国に仕えることになった3人の子息を粗雑に扱うことはない。

コーハ王国の国境守護の要になる領地から、当主の息子が1人ずつ欠ける意味がわからないなら、中枢に居場所はない。



現在、ダンシェルは19歳。
フィリスと出会ったときのフィリスの年齢に追いついた。

19歳になってみて思うこと。

今のダンシェルには、足りないことが多い。

あの事件の日。
全員の帰還のために、頭脳を使い、体をはったフィリスに全くおよばない。

フィリスの隣にいるためには、一兵卒では足りない。

上へいかないと。


姫っぷりが著しい先輩近衛。
命の恩人。
ダンシェルの最愛の人。

これからも共に生きたい。

手を取り合って。
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