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第4章 異世界転生した少年少女がガラン領を永久追放されて王都に移送後、何があった?
39.公権力から隠れて活動している集団に10代の女の子が1人参加したら?
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話し合って、5人とも、5人だけを選んだ。話を聞くだけで利になる話なら、他人に知られるのは避けたい。
クーノはサカモの影響をばっちり受けているが、呼ばれた5人はサカモとそれなりに距離がある。
「5人には、1人ずつ、領民の有志が用意した手切れ金がある。金額は、今日から1ヶ月、この家で1部屋借りて、1人で住めるように、1ヶ月分の家賃満額だ。
5人に手切れ金を渡す有志から、今生の別れとして、特別に伝言があるので、希望者には伝える。」
ナズは、1番に手をあげた。
「聞きたい。お願いします。」
ナズは、追放処分で王都にいる。
これは、ナズ自身が望んだ結果だ。
前世、日本人の記憶を持つナズは、サカモの言動が最初から嫌いだった。
ナズはサカモの手下になった覚えはない。一方的に親分風をふかしてくるから、舌打ちしてしまうこともある。
ナズがサカモと行動を共にした理由は、ナズ自身の考えがあってのこと。ナズは、サカモを信頼も信用もしていない。今までもこれからも。
ナズ自身のことで、サカモに主導権を握らせるつもりは欠片もない。
ナズがサカモと組んだ理由は、単純明快。
子爵家の部下として使われる立場じゃなく、自分自身の意思と才能で、平民が堂々と王都に住んで自由に仕事を選べる世の中にしたかった。
ナズと地味ーズなら、王都で王侯貴族相手に仕事が出来る。
王侯貴族が身分上不可能なら、平民の富裕層相手だったら、イケるはず。
サカモが子爵家のやり方に一石投じる、子爵家は地方領主として、怠慢なので、交替させるか、実権を手放させて、おれらが統治する、と仲間を集めていく様を陰から観察し続けたのだ。
サカモの作戦が成功しそうだ、と思ったから、ナズは協力を申し出た。
負け戦に加わるつもりは最初からない。
サカモに協力することで、平民であるナズと地味ーズが正々堂々と王都に出る近道にならないなら、好きになる要素が皆無のサカモと組んだりしない。
ナズにとっては、サカモは、自分の野望を叶える踏み台だから、役に立たないなら、いつでも棄てる気満々。
だから、サカモに近づいたときも、対等な立ち位置を要求した。
ナズの名前は、地元じゃ、それなりに知られていたから。
サカモがナズの手をとり、ナズは自分の力で、サカモの集団での地位を得た。
今だって
ナズは、サカモに騙された結果、王都にいるわけではない。
調子こいているサカモをナズが手玉にとった成果だと思う。
ガラン領で、地味ーズと過ごした日々はナズの一生で1番輝いていた。人生で、何度も思い返すことだろう。
王都で、仲の良い女の子の4人組を見つけたら、自分が無くしたものを重ねて、泣いてしまうかもしれないとナズは思う。
寝る前、夢の中、目覚めた瞬間。
ナズの人生の分岐点になった日のことは、決して忘れない。
もしも、と考えそうになって、思考を停止する。叫ぶ代わりに涙を流す。
ナズにとって、分岐点となった日は1つだけ。
その日のことは、何もしなくても、1人1人の台詞や表情、細かい動きまで脳裏に蘇ってくる。
その日は、晴天で、空が透き通っていた。
「サカモに協力したら、平民が、領主の顔色を気にせず、当然の権利として、場所も仕事も自由に選べる世の中がくる。
そうなったら、アタシと地味ーズは、王都に行って、好きを仕事に出来るよ。」
ナズは地味ーズの3人を説得したが、何度話しても理解してもらえなかった。
「ナズ、ナズの本当にしたいことを忘れていない?サカモのやろうとしていることは、実現出来るか、よく考えて?」
「ナズ、甘言に騙されないで。現実をみて。私達、今、十分楽しいわ。ナズとこれからも一緒にやりたい。」
「最短じゃなくてもよいじゃない。サカモの手を取らなくても、焦らなければ大丈夫だから。だって、私達は、目標に向かって、一歩一歩前進しているわ。」
地味ーズの3人は手強い。見た目は地味だけど、心意気は3人ともナズに負けていない。
流石、ナズが認めた女達。
ナズは地味ーズのことを思うと鼻が高い。
ナズの説得にすぐハイハイ言うような頭の軽い女じゃナズとは合わない。アタシの友達だから当然デキる女なわけよ。
だから、説得に苦戦しているんだけど、ともナズは思う。
「今じゃなきゃ遅いの。流行はあっという間に変わるのよ。女神の前髪は、追いかけている内は掴めない。一歩前にいなくちゃ。アタシも地味ーズと一緒が好き。今、時代が動く瞬間に立ち会っているの。このチャンスを逃したら、一生、日の目を見ることがないのよ。」
言ってみれば、リアル幕末?
違うか。
どっちかというとフランス革命が近いのかな?
サカモは現行体制を引っくり返して、貴族から実権とりたいんだもんね。
アタシは、正直、誰が、アタマにいようが、アタシの邪魔さえしないでくれるなら、気にしない。
1番手っ取り早く、成功に近いから、サカモの思惑にのる。
それだけだから。アタシはサカモごときに心酔したりしていない。
地味ーズは一生懸命ナズを行かせまいとしている。
「ご領主様方は、あっという間に流行らなくなって、閑古鳥がなくような仕事を私達に回したりなさらないわ。」
「じっくり腰を据えて、とりかかれば、新しい伝統になるのよ。」
「思い出して。今までに、同じ様な先達がいるじゃない。」
「ほんのひとときで終わる私達じゃないわ。先は長いけど、私達まだ10代よ。10年や20年くらい、余裕で待てるでしょう?」
ナズはキッパリ断った。
「そんなに待てない。」
地味ーズの3人はナズの頑なさに泣きそうになっている。
「ナズ、どうして?」
「なんでそんなに焦っているの?」
「このまま続けていけば、夢が叶うんだよ。」
「「「4人で夢を叶えようよ、ナズ。」」」
ナズは温めていた計画を話すことにした。
仲間なんだから、いつまでも隠すのはね。
「10年、ましてや20年なんて。アタシの可愛さを活かせるのは、精々、あと5年。
可愛さが通用しなくなったら、イタいだけ。
今の路線だけで通用するのは、あと2年くらい。
残る3年で、少しずつ、キレイめに路線変更して、軌道にのせないと。」
ナズの意気込みを聞いた地味ーズの3人が悲しんでいる。
ここは、未来に向けて肩組むところよ、とナズは思った。
「ナズが辛くなる方法は良くないわ。今のナズ、全然楽しくなさそうよ。」
「ナズ、楽しく精進していれば、道はひらけていくのよ。」
「そういう風にしてくださるから。」
「誰が?ご領主様が?」
ナズはフンと鼻を鳴らした。
「ご領主様じゃ話にならないの。
アタシには、アタシと地味ーズの作るモノは、天下とれるとわかる。
アタシと地味ーズの傑作を世に出すのが、アタシ以外だなんて、絶対に認めない。」
ナズはふいっと顔を背けた。
「ナズ。」
「何よ?」
ナズの顔は横向いたまま。
「ナズは、外見に自信を持ちすぎだし、口が悪いけど、最高の仲間で友達だわ。」
「自信満々で可愛さを追求しているのは、清々しかったわよ。」
「真っ直ぐに、自分の思いを実現するために突き進むナズは、考えなしだけど、仲間思いなのよね。」
「あ、ありがとう。アタシも地味ーズのことは大切な仲間で一生の友だと思っている。」
「「「ナズ、考え直して。サカモと仲間にならないで。仲間になったら、もう一緒にはやっていけなくなる。お願いだから。」」」
ナズは、地味ーズを置いていくことにした。
納得していない友達を仲間に引き入れたりはしない。
「大丈夫。アタシが地味ーズの分も合わせて、4人分の仕事してくる。アタシと地味ーズで大手をふって王都に行くよ。大船に乗ったつもりで、営業にいく準備して待ってて。」
「「「ナズ、ナズ」」」
地味ーズの3人に別れを告げると、3人は本気で泣いた。
「今生の別れじゃないんだから。」
ナズはそう慰めたけど、あれが顔を合わせて話をした最後になった。
全部終わったら、王都に行って、一旗あげて、地味ーズを呼び寄せる。それから、4人で好きなだけ、一緒に仕事するんだから。
その夢は破れ、ナズは、周りの証言とナズ自身の言動から、犯罪者の主犯格の1人として捕まった。
「あの娘は夢を追いすぎて、夢と現実の区別がつかない馬鹿者なだけなんです。」
「領主様の暗殺とか、畏れ多いことを考えるには、頭の中身が足りていません。どんなに教えても、興味のないことは頭に残っていないんです。」
血を吐かんばかりの両親の命乞いをナズを知る者は、誰も笑わなかったという。
「突き抜けたバカなんです。」
「バカ過ぎて、極めてしまうほど、バカなんです。」
「頭が足りないだけで、才能だけは確かなんです。」
ナズと地味ーズを知っている人の嘆願は、一貫していて、
「バカだけと、才能はあるから、お慈悲を下さい。」
を手を変え品を変え書き連ねて、署名を集めたと聞いた。
『才能がありすぎてバカだから、助けて欲しいという嘆願通り、才能があるのは確認した。
しかし、動機が正常ではない。
お前の発想は、お前の中で一本筋が通っているがゆえに、破綻していない。
国家転覆に繋がる目論見になると理解していても、重大さがわからないとはな。』
取り調べにあたった調査官は疲れていた。
「罰として、王都に追放される人はいますか?アタシ、王都に行きたいんです。もし、いるなら、一緒に追放してください。」
ナズは、王都に出て、仕事がもらえるようになったら、地味ーズを呼ぶんだ、と話した。
「王都に追放されたら、友達とはもう会えないぞ。」
疲れ切った調査官の台詞に、ナズは笑顔で返していた。
「一生友達でいる約束したから!」
今、時間が経ったから自覚できることもある。
思い返すと、捕まったときは、人生に疲れ切っていた。目を開けたくないくらいに、体が休みを欲していた。
ナズが意気込んで参加した集団は、早々にナズの思い描いていた集団からかけ離れていった。
怠慢領主を引きずり下ろせ、を旗頭に集まった連中は、崇高な志の持ち主ばかりではなかったのだ。
現状に不満がある連中が、怠慢な領主から領民を解放するという大義名分に乗っかってきた。寄らば大樹の陰と言わんばかりに、集団と一体化していく。
連中の数は日を追って増えていく。
サカモの呼びかけに集まった同志の数を逆転すると、連中は完全に本性を表し始めた。
大義名分を掲げて人集めと資金集めをしながら、無法集団へと変容していく。
勇気を出して、連中の行動を咎めたり、止めようとした人間が、大けがしたり、脅迫されたり、辱めを受けたりするのを見て、まともな倫理観の人間は何も残さず逃げていった。
残ったのは、理由は違えど、集団の深みにはまって引き返せない者、または、帰る場所がない者。
初期構成員の離脱が相次ぎ、子どものサカモに従う者はいなくなった。
連中は、サカモが何を言ってもゲラゲラと笑い者にする。
サカモが、集団をコントロール出来なくなると、サカモに心酔していた若者や子どもを中心にサカモ派に寝返らないかという働きかけが始まった。
サカモ自身は目立った動きをしない。
黒幕っぽく、駒を動かすように裏で人を動かしていたんだろうとナズは思っている。
サカモ派の切り崩し工作は、暴力と数の力に屈して終わりを向かえた。
ある朝、切り崩しに動いていた青年と子ども達幾人かが晒し者にされていたのだ。
晒し者になっていたサカモにとりわけ忠実な者達の体は、息を引き取るまで暴力を受けていたのが明らかにわかる程、変形したり、変色していた。
どのご遺体にも切り傷は一切なかった。全員殴り殺されている。
連中は、人を複数殺すことに躊躇いがなく、殺すのに武器も必要としないのがよく伝わってきた。
ナズが詳しく知っているのは、ナズが調べたからではない。
晒し者にされたご遺体に言葉を失っているサカモを尻目に、連中が寸劇を始めたからだ。
「おや、酷い有様だ。」
「もう息はしていないようだ。」
「どうしてこのようなことが。彼は前途有望な青年で人望もあったのに。」
「それを言うなら、子ども達も、素直な良い子でしたよ。」
「一体、何が起きたんでしょう?」
「ふむ、体を調べてみましょう。切り傷や刺し傷はないですね。」
「骨が折れたり、目玉や鼻が潰れたりしてますね。内蔵もやられてそうです。」
「結果をどうぞ。」
「全員、拳で殴り殺されています。」
「兇器は拳ですか。人間とは、手さえあれば、殺せてしまうんですね。」
その後、1時間もしないうちに、サカモの周りから人が消えた。
命大事で去った者。仇討ちに向かわないサカモに失望したもの。
サカモの周りには、クーノをはじめとする数人が残った。
この日、集団の頭と幹部が完全に入れ替わった。
サカモ派は、無力で賢くない子ども数人のみ。
連中は、集団を完全に乗っ取っることに成功。
集団が捕まるまで、サカモは生かさず殺さず、端っこで飼われていた。
表向きは、サカモが集団の頭のまま。
サカモの乗っている神輿は、とても軽い。
担ぎ手は、神輿を守らない。
追いかけられたら、神輿を高い台に載せて、サカモが身動きとれないようにして、サカモが捕まっているうちに、逃げのびるのだろう。
頭脳を使う犯罪集団は、逮捕騒動があると、アタマと下っ端は捕まって入れ替わる。
ナンバー2以下の幹部は、新しいアタマを探してきて、新しい団体を作り、同じことを始めるのを繰り返す。
乗っ取りは予期出来たはず。対策をとらなかったサカモの失策だ。
人の数を増やすことを重視しすぎて、内側から、足元を切り崩されていくことに対処が追いつかなかった。
連中は、少しずつ、隠していた獰猛さをむき出していったのに。
大義名分のために、と好き放題する連中は、
予行練習と称して無関係な集団を襲撃したり、組織内の弱者をリンチしたり。
ナズは、保護者もなく、信頼しあえる仲間がいないため、1人で奮闘していた。
コトが始まると誰も助けてくれない。1人終われば、また1人増えている。
連中は、抵抗すると、面白がってナズを痛めつけてくる。
ナズは、睡眠時間を確保したかった。
皆に優しく、品行方正の鑑みたいな幹部に助けてくれと訴えた。
何とか体を休めるようにと言われ、休んでいるところを当の幹部に襲われた。
「丁度良いところに穴があった。共用なら、気楽に楽しめる。」
崇高な志とやらを掲げていても、やることは一緒だ。集まっているのは同じ穴のムジナ。
ナズの目尻から涙が流れていようと構う者はいない。
革命を志して集まった者も、連中に簡単に染まった。
現状に不満を抱え、鬱屈にまみれている。
現状に満足している者は、
大義名分を知ってもこの集団に足を踏み入れて来ない。
情報が出回ったのだろうか?
連中は、いつも発散場所を探していた。
自分を正当化して正義感に酔いしれたり、難癖つけて押さえつけては、強くなった気分を味わったり。
公権力の及ばない空間では、1人1人の倫理観が頼みの綱になる。
権力のある保護者もなく、盾役の屈強な彼氏もいない、可愛いだけの10代の女の子。
それが、ナズの評価。
地味ーズと組んで、コツコツと可愛いを形にしてきたナズは、何もない女の子より少しばかり有名だった。
「地元のちょっと変わった可愛い女の子。」は「誰かが、なんとなく知っている可愛い女の子。」になっていた。
公権力が堂々と介入してくる定住者として、親元で地味ーズと活動をしていたら、倫理観が存在しない男どもと、ナズに接点はあっただろうか。
ナズのいる集団は、転々と移動しながら、仲間を増やしていく。
権力に逆らうために集まったから、公権力に存在が見つかる前に移動する。集団の目的が反逆罪に該当するとなれば、安易に捕まるヘマはしない。どんな犯罪をおかそうと、この集団の中にいれば、バレて捕まる心配がないのだ。
ナズを見る男どもの顔が、品性も何もない下劣なものだとナズは早い内から気付いていた。
ナズには、蛮行への男どものやる気を失わせるものを持っていない。
代わりに差し出せるものもない。
ここへきたのは、身一つ。
男どもは、ナズの偉業になんか、これっぽっちも興味がなく、理解する気もない。
ナズが何をしてきたか、何を成し遂げたいか、ナズの人生の目的も、内面も関心がない。
「お邪魔虫のいない無力な10代の世間知らずな女がいる。
誰も問題にしない女だ。」
ナズは1人だ。逃げるのも、かわすのも、隠れるのも。
万策尽きて、捕まった。
男どもはナズを囲んで笑った。
「サイコロふって、出た目で回数決めよう。」
ナズは何の回数か分からないほど、おぼこくもない。
前世も、今世も、こんな思いをしたことはなかった。
両親も近所の人も、可愛いナズが怖い思いをしないように、人知れず守っていたのかもしれない。
不条理な暴力に尊厳を脅かされる恐怖。ナズはずっと部屋の隅で震えていた。
「6だが、構わないよな?」
「大丈夫だろ?」
「こんなところに1人でいるのが悪い。」
「いつも一人ぼっちだなあ。慰めてもらえるなんて、最高だろ?」
「念を入れて可愛がってやらないと。」
「仲間は仲良くしなくちゃな。」
ナズを知らない参加者に、その集団は娼婦を連れ歩いているように見えたようだ。
ナズに寄ってきた男には、特定の女がいる者もいた。女は、男を憎まない。
ナズが誘惑するのが許せない。
ナズは女社会から締め出され、いっそう、男どもといる時間が増えた。
清廉潔白を旨としているのに、ナズが勝手に寄ってきたと人前で嘆いてみせた男もいた。
ナズは、目的を達成したあかつきには、自分勝手な男どもは全員玉取り出して、殺してやると誓った。
捕まったとき、ナズは襲われずに寝られることに、安心して、捕縛されながら寝てしまった。
夢に向けて邁進する心が、疲れ切った体の動力になっていたのだろ。
捕まった日から、動くことができなくなった。安心、安全の保障された寝床から出られない。
それでも、もっと可愛い布団を被りたいと思うようになり、段々ナズは動けるようになった。
アタシ、やっぱり王都に行きたいな。
ここから離れて、誰も知らない王都でやり直すの。
ナズの決意はかたかった。
両親も地味ーズも嘆願署名に参加した者も、元気になるまで、休みなさい、急がなくても大丈夫と止めた。
ナズの体は、10代の女の子の健康を失っていたから。
「これ以上、酷使したら、死んでしまう。寝ていなさい。」
両親はナズの健康が1番だからと、止めた。
「アタシが本当にいるはずの場所は、王都にあるから。」
誰も、頷いてくれない。
「もう、ここにはいたくない。」
ポツリとこぼした、その一言が行き先を決めた。
そして、ナズは今、王都にいる。
説明者はナズに手切れ金を渡した。
「地味ーズから。
2年待って。2年以内に完成させる。王都に持っていって、お披露目する。必ず見つけてほしい。以上。」
一緒にはいられなくなった。
人前で名乗ることも出来ない。
でも、一生の友達で、仲間だ。
その成功に向けて、一丸となって取り組む仲間の1人ではなくなってしまったけれど、成功を喜ぶ準備は出来る。
地味ーズが2年で形にしようと踏ん張るんだから、アタシが見届けないとダメでしょ。
「手切れ金で、入居します。」
ナズは目尻の涙をぬぐった。
クーノはサカモの影響をばっちり受けているが、呼ばれた5人はサカモとそれなりに距離がある。
「5人には、1人ずつ、領民の有志が用意した手切れ金がある。金額は、今日から1ヶ月、この家で1部屋借りて、1人で住めるように、1ヶ月分の家賃満額だ。
5人に手切れ金を渡す有志から、今生の別れとして、特別に伝言があるので、希望者には伝える。」
ナズは、1番に手をあげた。
「聞きたい。お願いします。」
ナズは、追放処分で王都にいる。
これは、ナズ自身が望んだ結果だ。
前世、日本人の記憶を持つナズは、サカモの言動が最初から嫌いだった。
ナズはサカモの手下になった覚えはない。一方的に親分風をふかしてくるから、舌打ちしてしまうこともある。
ナズがサカモと行動を共にした理由は、ナズ自身の考えがあってのこと。ナズは、サカモを信頼も信用もしていない。今までもこれからも。
ナズ自身のことで、サカモに主導権を握らせるつもりは欠片もない。
ナズがサカモと組んだ理由は、単純明快。
子爵家の部下として使われる立場じゃなく、自分自身の意思と才能で、平民が堂々と王都に住んで自由に仕事を選べる世の中にしたかった。
ナズと地味ーズなら、王都で王侯貴族相手に仕事が出来る。
王侯貴族が身分上不可能なら、平民の富裕層相手だったら、イケるはず。
サカモが子爵家のやり方に一石投じる、子爵家は地方領主として、怠慢なので、交替させるか、実権を手放させて、おれらが統治する、と仲間を集めていく様を陰から観察し続けたのだ。
サカモの作戦が成功しそうだ、と思ったから、ナズは協力を申し出た。
負け戦に加わるつもりは最初からない。
サカモに協力することで、平民であるナズと地味ーズが正々堂々と王都に出る近道にならないなら、好きになる要素が皆無のサカモと組んだりしない。
ナズにとっては、サカモは、自分の野望を叶える踏み台だから、役に立たないなら、いつでも棄てる気満々。
だから、サカモに近づいたときも、対等な立ち位置を要求した。
ナズの名前は、地元じゃ、それなりに知られていたから。
サカモがナズの手をとり、ナズは自分の力で、サカモの集団での地位を得た。
今だって
ナズは、サカモに騙された結果、王都にいるわけではない。
調子こいているサカモをナズが手玉にとった成果だと思う。
ガラン領で、地味ーズと過ごした日々はナズの一生で1番輝いていた。人生で、何度も思い返すことだろう。
王都で、仲の良い女の子の4人組を見つけたら、自分が無くしたものを重ねて、泣いてしまうかもしれないとナズは思う。
寝る前、夢の中、目覚めた瞬間。
ナズの人生の分岐点になった日のことは、決して忘れない。
もしも、と考えそうになって、思考を停止する。叫ぶ代わりに涙を流す。
ナズにとって、分岐点となった日は1つだけ。
その日のことは、何もしなくても、1人1人の台詞や表情、細かい動きまで脳裏に蘇ってくる。
その日は、晴天で、空が透き通っていた。
「サカモに協力したら、平民が、領主の顔色を気にせず、当然の権利として、場所も仕事も自由に選べる世の中がくる。
そうなったら、アタシと地味ーズは、王都に行って、好きを仕事に出来るよ。」
ナズは地味ーズの3人を説得したが、何度話しても理解してもらえなかった。
「ナズ、ナズの本当にしたいことを忘れていない?サカモのやろうとしていることは、実現出来るか、よく考えて?」
「ナズ、甘言に騙されないで。現実をみて。私達、今、十分楽しいわ。ナズとこれからも一緒にやりたい。」
「最短じゃなくてもよいじゃない。サカモの手を取らなくても、焦らなければ大丈夫だから。だって、私達は、目標に向かって、一歩一歩前進しているわ。」
地味ーズの3人は手強い。見た目は地味だけど、心意気は3人ともナズに負けていない。
流石、ナズが認めた女達。
ナズは地味ーズのことを思うと鼻が高い。
ナズの説得にすぐハイハイ言うような頭の軽い女じゃナズとは合わない。アタシの友達だから当然デキる女なわけよ。
だから、説得に苦戦しているんだけど、ともナズは思う。
「今じゃなきゃ遅いの。流行はあっという間に変わるのよ。女神の前髪は、追いかけている内は掴めない。一歩前にいなくちゃ。アタシも地味ーズと一緒が好き。今、時代が動く瞬間に立ち会っているの。このチャンスを逃したら、一生、日の目を見ることがないのよ。」
言ってみれば、リアル幕末?
違うか。
どっちかというとフランス革命が近いのかな?
サカモは現行体制を引っくり返して、貴族から実権とりたいんだもんね。
アタシは、正直、誰が、アタマにいようが、アタシの邪魔さえしないでくれるなら、気にしない。
1番手っ取り早く、成功に近いから、サカモの思惑にのる。
それだけだから。アタシはサカモごときに心酔したりしていない。
地味ーズは一生懸命ナズを行かせまいとしている。
「ご領主様方は、あっという間に流行らなくなって、閑古鳥がなくような仕事を私達に回したりなさらないわ。」
「じっくり腰を据えて、とりかかれば、新しい伝統になるのよ。」
「思い出して。今までに、同じ様な先達がいるじゃない。」
「ほんのひとときで終わる私達じゃないわ。先は長いけど、私達まだ10代よ。10年や20年くらい、余裕で待てるでしょう?」
ナズはキッパリ断った。
「そんなに待てない。」
地味ーズの3人はナズの頑なさに泣きそうになっている。
「ナズ、どうして?」
「なんでそんなに焦っているの?」
「このまま続けていけば、夢が叶うんだよ。」
「「「4人で夢を叶えようよ、ナズ。」」」
ナズは温めていた計画を話すことにした。
仲間なんだから、いつまでも隠すのはね。
「10年、ましてや20年なんて。アタシの可愛さを活かせるのは、精々、あと5年。
可愛さが通用しなくなったら、イタいだけ。
今の路線だけで通用するのは、あと2年くらい。
残る3年で、少しずつ、キレイめに路線変更して、軌道にのせないと。」
ナズの意気込みを聞いた地味ーズの3人が悲しんでいる。
ここは、未来に向けて肩組むところよ、とナズは思った。
「ナズが辛くなる方法は良くないわ。今のナズ、全然楽しくなさそうよ。」
「ナズ、楽しく精進していれば、道はひらけていくのよ。」
「そういう風にしてくださるから。」
「誰が?ご領主様が?」
ナズはフンと鼻を鳴らした。
「ご領主様じゃ話にならないの。
アタシには、アタシと地味ーズの作るモノは、天下とれるとわかる。
アタシと地味ーズの傑作を世に出すのが、アタシ以外だなんて、絶対に認めない。」
ナズはふいっと顔を背けた。
「ナズ。」
「何よ?」
ナズの顔は横向いたまま。
「ナズは、外見に自信を持ちすぎだし、口が悪いけど、最高の仲間で友達だわ。」
「自信満々で可愛さを追求しているのは、清々しかったわよ。」
「真っ直ぐに、自分の思いを実現するために突き進むナズは、考えなしだけど、仲間思いなのよね。」
「あ、ありがとう。アタシも地味ーズのことは大切な仲間で一生の友だと思っている。」
「「「ナズ、考え直して。サカモと仲間にならないで。仲間になったら、もう一緒にはやっていけなくなる。お願いだから。」」」
ナズは、地味ーズを置いていくことにした。
納得していない友達を仲間に引き入れたりはしない。
「大丈夫。アタシが地味ーズの分も合わせて、4人分の仕事してくる。アタシと地味ーズで大手をふって王都に行くよ。大船に乗ったつもりで、営業にいく準備して待ってて。」
「「「ナズ、ナズ」」」
地味ーズの3人に別れを告げると、3人は本気で泣いた。
「今生の別れじゃないんだから。」
ナズはそう慰めたけど、あれが顔を合わせて話をした最後になった。
全部終わったら、王都に行って、一旗あげて、地味ーズを呼び寄せる。それから、4人で好きなだけ、一緒に仕事するんだから。
その夢は破れ、ナズは、周りの証言とナズ自身の言動から、犯罪者の主犯格の1人として捕まった。
「あの娘は夢を追いすぎて、夢と現実の区別がつかない馬鹿者なだけなんです。」
「領主様の暗殺とか、畏れ多いことを考えるには、頭の中身が足りていません。どんなに教えても、興味のないことは頭に残っていないんです。」
血を吐かんばかりの両親の命乞いをナズを知る者は、誰も笑わなかったという。
「突き抜けたバカなんです。」
「バカ過ぎて、極めてしまうほど、バカなんです。」
「頭が足りないだけで、才能だけは確かなんです。」
ナズと地味ーズを知っている人の嘆願は、一貫していて、
「バカだけと、才能はあるから、お慈悲を下さい。」
を手を変え品を変え書き連ねて、署名を集めたと聞いた。
『才能がありすぎてバカだから、助けて欲しいという嘆願通り、才能があるのは確認した。
しかし、動機が正常ではない。
お前の発想は、お前の中で一本筋が通っているがゆえに、破綻していない。
国家転覆に繋がる目論見になると理解していても、重大さがわからないとはな。』
取り調べにあたった調査官は疲れていた。
「罰として、王都に追放される人はいますか?アタシ、王都に行きたいんです。もし、いるなら、一緒に追放してください。」
ナズは、王都に出て、仕事がもらえるようになったら、地味ーズを呼ぶんだ、と話した。
「王都に追放されたら、友達とはもう会えないぞ。」
疲れ切った調査官の台詞に、ナズは笑顔で返していた。
「一生友達でいる約束したから!」
今、時間が経ったから自覚できることもある。
思い返すと、捕まったときは、人生に疲れ切っていた。目を開けたくないくらいに、体が休みを欲していた。
ナズが意気込んで参加した集団は、早々にナズの思い描いていた集団からかけ離れていった。
怠慢領主を引きずり下ろせ、を旗頭に集まった連中は、崇高な志の持ち主ばかりではなかったのだ。
現状に不満がある連中が、怠慢な領主から領民を解放するという大義名分に乗っかってきた。寄らば大樹の陰と言わんばかりに、集団と一体化していく。
連中の数は日を追って増えていく。
サカモの呼びかけに集まった同志の数を逆転すると、連中は完全に本性を表し始めた。
大義名分を掲げて人集めと資金集めをしながら、無法集団へと変容していく。
勇気を出して、連中の行動を咎めたり、止めようとした人間が、大けがしたり、脅迫されたり、辱めを受けたりするのを見て、まともな倫理観の人間は何も残さず逃げていった。
残ったのは、理由は違えど、集団の深みにはまって引き返せない者、または、帰る場所がない者。
初期構成員の離脱が相次ぎ、子どものサカモに従う者はいなくなった。
連中は、サカモが何を言ってもゲラゲラと笑い者にする。
サカモが、集団をコントロール出来なくなると、サカモに心酔していた若者や子どもを中心にサカモ派に寝返らないかという働きかけが始まった。
サカモ自身は目立った動きをしない。
黒幕っぽく、駒を動かすように裏で人を動かしていたんだろうとナズは思っている。
サカモ派の切り崩し工作は、暴力と数の力に屈して終わりを向かえた。
ある朝、切り崩しに動いていた青年と子ども達幾人かが晒し者にされていたのだ。
晒し者になっていたサカモにとりわけ忠実な者達の体は、息を引き取るまで暴力を受けていたのが明らかにわかる程、変形したり、変色していた。
どのご遺体にも切り傷は一切なかった。全員殴り殺されている。
連中は、人を複数殺すことに躊躇いがなく、殺すのに武器も必要としないのがよく伝わってきた。
ナズが詳しく知っているのは、ナズが調べたからではない。
晒し者にされたご遺体に言葉を失っているサカモを尻目に、連中が寸劇を始めたからだ。
「おや、酷い有様だ。」
「もう息はしていないようだ。」
「どうしてこのようなことが。彼は前途有望な青年で人望もあったのに。」
「それを言うなら、子ども達も、素直な良い子でしたよ。」
「一体、何が起きたんでしょう?」
「ふむ、体を調べてみましょう。切り傷や刺し傷はないですね。」
「骨が折れたり、目玉や鼻が潰れたりしてますね。内蔵もやられてそうです。」
「結果をどうぞ。」
「全員、拳で殴り殺されています。」
「兇器は拳ですか。人間とは、手さえあれば、殺せてしまうんですね。」
その後、1時間もしないうちに、サカモの周りから人が消えた。
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この日、集団の頭と幹部が完全に入れ替わった。
サカモ派は、無力で賢くない子ども数人のみ。
連中は、集団を完全に乗っ取っることに成功。
集団が捕まるまで、サカモは生かさず殺さず、端っこで飼われていた。
表向きは、サカモが集団の頭のまま。
サカモの乗っている神輿は、とても軽い。
担ぎ手は、神輿を守らない。
追いかけられたら、神輿を高い台に載せて、サカモが身動きとれないようにして、サカモが捕まっているうちに、逃げのびるのだろう。
頭脳を使う犯罪集団は、逮捕騒動があると、アタマと下っ端は捕まって入れ替わる。
ナンバー2以下の幹部は、新しいアタマを探してきて、新しい団体を作り、同じことを始めるのを繰り返す。
乗っ取りは予期出来たはず。対策をとらなかったサカモの失策だ。
人の数を増やすことを重視しすぎて、内側から、足元を切り崩されていくことに対処が追いつかなかった。
連中は、少しずつ、隠していた獰猛さをむき出していったのに。
大義名分のために、と好き放題する連中は、
予行練習と称して無関係な集団を襲撃したり、組織内の弱者をリンチしたり。
ナズは、保護者もなく、信頼しあえる仲間がいないため、1人で奮闘していた。
コトが始まると誰も助けてくれない。1人終われば、また1人増えている。
連中は、抵抗すると、面白がってナズを痛めつけてくる。
ナズは、睡眠時間を確保したかった。
皆に優しく、品行方正の鑑みたいな幹部に助けてくれと訴えた。
何とか体を休めるようにと言われ、休んでいるところを当の幹部に襲われた。
「丁度良いところに穴があった。共用なら、気楽に楽しめる。」
崇高な志とやらを掲げていても、やることは一緒だ。集まっているのは同じ穴のムジナ。
ナズの目尻から涙が流れていようと構う者はいない。
革命を志して集まった者も、連中に簡単に染まった。
現状に不満を抱え、鬱屈にまみれている。
現状に満足している者は、
大義名分を知ってもこの集団に足を踏み入れて来ない。
情報が出回ったのだろうか?
連中は、いつも発散場所を探していた。
自分を正当化して正義感に酔いしれたり、難癖つけて押さえつけては、強くなった気分を味わったり。
公権力の及ばない空間では、1人1人の倫理観が頼みの綱になる。
権力のある保護者もなく、盾役の屈強な彼氏もいない、可愛いだけの10代の女の子。
それが、ナズの評価。
地味ーズと組んで、コツコツと可愛いを形にしてきたナズは、何もない女の子より少しばかり有名だった。
「地元のちょっと変わった可愛い女の子。」は「誰かが、なんとなく知っている可愛い女の子。」になっていた。
公権力が堂々と介入してくる定住者として、親元で地味ーズと活動をしていたら、倫理観が存在しない男どもと、ナズに接点はあっただろうか。
ナズのいる集団は、転々と移動しながら、仲間を増やしていく。
権力に逆らうために集まったから、公権力に存在が見つかる前に移動する。集団の目的が反逆罪に該当するとなれば、安易に捕まるヘマはしない。どんな犯罪をおかそうと、この集団の中にいれば、バレて捕まる心配がないのだ。
ナズを見る男どもの顔が、品性も何もない下劣なものだとナズは早い内から気付いていた。
ナズには、蛮行への男どものやる気を失わせるものを持っていない。
代わりに差し出せるものもない。
ここへきたのは、身一つ。
男どもは、ナズの偉業になんか、これっぽっちも興味がなく、理解する気もない。
ナズが何をしてきたか、何を成し遂げたいか、ナズの人生の目的も、内面も関心がない。
「お邪魔虫のいない無力な10代の世間知らずな女がいる。
誰も問題にしない女だ。」
ナズは1人だ。逃げるのも、かわすのも、隠れるのも。
万策尽きて、捕まった。
男どもはナズを囲んで笑った。
「サイコロふって、出た目で回数決めよう。」
ナズは何の回数か分からないほど、おぼこくもない。
前世も、今世も、こんな思いをしたことはなかった。
両親も近所の人も、可愛いナズが怖い思いをしないように、人知れず守っていたのかもしれない。
不条理な暴力に尊厳を脅かされる恐怖。ナズはずっと部屋の隅で震えていた。
「6だが、構わないよな?」
「大丈夫だろ?」
「こんなところに1人でいるのが悪い。」
「いつも一人ぼっちだなあ。慰めてもらえるなんて、最高だろ?」
「念を入れて可愛がってやらないと。」
「仲間は仲良くしなくちゃな。」
ナズを知らない参加者に、その集団は娼婦を連れ歩いているように見えたようだ。
ナズに寄ってきた男には、特定の女がいる者もいた。女は、男を憎まない。
ナズが誘惑するのが許せない。
ナズは女社会から締め出され、いっそう、男どもといる時間が増えた。
清廉潔白を旨としているのに、ナズが勝手に寄ってきたと人前で嘆いてみせた男もいた。
ナズは、目的を達成したあかつきには、自分勝手な男どもは全員玉取り出して、殺してやると誓った。
捕まったとき、ナズは襲われずに寝られることに、安心して、捕縛されながら寝てしまった。
夢に向けて邁進する心が、疲れ切った体の動力になっていたのだろ。
捕まった日から、動くことができなくなった。安心、安全の保障された寝床から出られない。
それでも、もっと可愛い布団を被りたいと思うようになり、段々ナズは動けるようになった。
アタシ、やっぱり王都に行きたいな。
ここから離れて、誰も知らない王都でやり直すの。
ナズの決意はかたかった。
両親も地味ーズも嘆願署名に参加した者も、元気になるまで、休みなさい、急がなくても大丈夫と止めた。
ナズの体は、10代の女の子の健康を失っていたから。
「これ以上、酷使したら、死んでしまう。寝ていなさい。」
両親はナズの健康が1番だからと、止めた。
「アタシが本当にいるはずの場所は、王都にあるから。」
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「もう、ここにはいたくない。」
ポツリとこぼした、その一言が行き先を決めた。
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「地味ーズから。
2年待って。2年以内に完成させる。王都に持っていって、お披露目する。必ず見つけてほしい。以上。」
一緒にはいられなくなった。
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でも、一生の友達で、仲間だ。
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地味ーズが2年で形にしようと踏ん張るんだから、アタシが見届けないとダメでしょ。
「手切れ金で、入居します。」
ナズは目尻の涙をぬぐった。
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