37 / 1,439
第4章 異世界転生した少年少女がガラン領を永久追放されて王都に移送後、何があった?
37.ガラン領の隠された仕組み 念願の王都にきた少女ナズ
しおりを挟む
ガラン領から王都に移送された少年少女のうち、5人には、領内の家族や友人が餞別を用意していた。
王都に着き、提供される住まいの前に案内され、全員で条件を聞く。
2人の男が少年少女の前に立っている。2人とも体を鍛えているのが一目でわかる体付きをしていた。
「家賃って何よ?」
少女マーツが口を尖らせる。
王都に追放される前、少年少女は家族と暮らしていた。生活するための必要経費がいるなど考えたことがない。まして、それを自分で用意することなど。
ガラン領内にいて、明日のご飯の心配をする必要はなかった。
説明者はマーツの機嫌など、どこ吹く風。淡々としている。
「家賃は、家に借りて住むためにかかる金のこと。」
マーツは、フンと鼻を鳴らした。
「家賃なんて言葉は、聞いたことがないわ。私が知らないんだから、意味のない記号よ。」
少女は大店の娘だった。同年代よりは多くの言葉を知っている。
「王都に住んでいるからって、図に乗らないでよ。私は騙されないわ。」
少年少女達は、強気なマーツに続いて声を上げる。マーツはいつだって、小さな女王だった。
「ガラン領は、いつ戦火にまかれて、暮らしている土地から着の身着のまま逃げ出すことになるか分からないという緊張状態が続く領地だ。
ガラン子爵家は、全ての領民に住まいを貸していたが、家賃を回収していない。住まいを移すとき、住民登録はさせているが。
戦争が原因で土地を捨てた住民が、難民になったり、犯罪者に身を堕としたり、三大義務を果たさず奴隷化したりするのを予防するためだろうな。
領民が定住して、生活基盤を作ることが土地の発展に繋がる。」
説明者は、ガラン領の事情に精通しているらしく、すらすらと話す。
「税金の種類と、兵役、労役がどんなものかめも教えてほしいわ。ガラン領内では、聞いたことがなかった。」
ナズはマーツ達と共同戦線をはる気はさらさらない。
せっかく念願の王都に出てこれた。
目的のために、出だしで揉めていたくなかった。
避けて進めないのなら、いかに立ち回るかだ。
説明者は1度ナズを見た後、全体に向けて話し始めた。
「ガラン領では日常に組み込まれていたから、兵役も義務と意識しなかったのだろう。
大人も子どもも、避難訓練や野外演習に参加して、毎日、鍛錬を欠かさなかったな?」
「あれが兵役?」
日本で、避難訓練は学校行事みたいな扱いだった。
「ガラン領内が戦場になった場合を想定しての訓練だ。職業軍人ではない領民は、戦場で活躍するよりも、領地防衛にまわる方が、動きやすい。」
「そんなに、危ない土地だったの?」
前世日本人のナズが、日本での生活と同じ感覚で生きてきたのは、ガラン領が日本との差異を感じ難かったからだ。
ガラン領内は、ナズの目から見て、いつも平和に見えた。目を閉じると、まるで日本にいると錯覚するくらい。衣食住に困ることもなく、戦争の気配なんて、分からなかった。
「代々の領主が上手に立ち回り、領主の子どもが、嫡子を除いて、政略結婚を重ねてきたお陰だ。
国外へ政略結婚で出た後、婚家の発展に力を注ぎながら、ガラン領へ侵略してくる連中をガラン本家と協力して抑え込んできた。」
代々、政略結婚が当たり前の家に生まれなくて良かったと、ナズは思う。
可愛く生まれたなら、可愛さを活かしてこそ。
政略結婚みたいな、どうあっても結果が同じなら、可愛さはあってもなくても、ね。
領主一家が地味でも貴族で、アタシが可愛いのに平民なことはずっと納得いかなかった。
全部スッキリしたわ。
貴族は、可愛さじゃなくて血筋だから、平民じゃなきゃ、アタシの長所は活かせなったわね。
「労役は?」
「ガラン領内では、労役という名目で徴収していない。特技を披露する大会や、自慢の1品を出品する大会がそれだ。
出場して、就職が決まった者がいただろう。注文がくるようになった工房があっただろう。
領民と領民が、共に繁栄する仕組みだな。」
ふーん。町おこし的なコンテストに参加するのが、まさか労役だったとは。全員参加が必須だったのは、そのせいなんだ。
言われないと分からないものよね。
成果をあげられる頭の有無が、為政者と平民の差?
「税金は?」
「ガラン領内で税金は、収穫物や製作物だな。農産物なり、狩りの成果なり、手作業の品なり、技術なり、誰かしら何かを納めていたはずだ。」
「何かをって、あやふやでいいの?」
「何をもって、税金とするかを1つに絞らず、その時々の需要と供給をみながら、きめていたから、柔軟に切り盛りしてこれたんだろう。」
江戸時代は、米で納めていたから、不作になっても、豊作になっても、米の価格と供給量に頭を悩ませていたのよね。
確か、八代将軍吉宗様が。
代々のガラン領主は、ただの田舎の大将ではなかったということ?
前世、日本に働いていたとき、税金がこんなにひかれるの?とゲンナリしていた覚えがある。
高額所得者が日本を脱出して、税金が減ったとかいうニュースも見たことがある。
当時は、日本から出て生活出来るだけの金持ちが世の中にはいるんだなあ、くらいしか考えてなかった。
税金のせいで、自分の取り分が減るととらえると、不満が残る。
いつ戦火がひらかれるか分からない領地に、不満を募らせるばかりの領民。
そんな領地の領主よ、罰ゲーム以外ある?
ガラン子爵家のご先祖様が、三大義務を徴収とわからないように日常に落とし込んだのね。
代々領主のガラン子爵家が、国に頼らず、自給自足を推すのは、ガラン領が非常事態に陥ったとき、国に頼れると考えていないから?
王侯貴族って、大変だとナズは思った。
「教えてくれて、ありがとうございます。」
ナズがお礼を言う横で、サカモのドスを効かせた声が聞こえた。
「そっちの都合で追い出しておきながら、金をとるのか。家賃くらいまけろ。クソが。」
王都に着き、提供される住まいの前に案内され、全員で条件を聞く。
2人の男が少年少女の前に立っている。2人とも体を鍛えているのが一目でわかる体付きをしていた。
「家賃って何よ?」
少女マーツが口を尖らせる。
王都に追放される前、少年少女は家族と暮らしていた。生活するための必要経費がいるなど考えたことがない。まして、それを自分で用意することなど。
ガラン領内にいて、明日のご飯の心配をする必要はなかった。
説明者はマーツの機嫌など、どこ吹く風。淡々としている。
「家賃は、家に借りて住むためにかかる金のこと。」
マーツは、フンと鼻を鳴らした。
「家賃なんて言葉は、聞いたことがないわ。私が知らないんだから、意味のない記号よ。」
少女は大店の娘だった。同年代よりは多くの言葉を知っている。
「王都に住んでいるからって、図に乗らないでよ。私は騙されないわ。」
少年少女達は、強気なマーツに続いて声を上げる。マーツはいつだって、小さな女王だった。
「ガラン領は、いつ戦火にまかれて、暮らしている土地から着の身着のまま逃げ出すことになるか分からないという緊張状態が続く領地だ。
ガラン子爵家は、全ての領民に住まいを貸していたが、家賃を回収していない。住まいを移すとき、住民登録はさせているが。
戦争が原因で土地を捨てた住民が、難民になったり、犯罪者に身を堕としたり、三大義務を果たさず奴隷化したりするのを予防するためだろうな。
領民が定住して、生活基盤を作ることが土地の発展に繋がる。」
説明者は、ガラン領の事情に精通しているらしく、すらすらと話す。
「税金の種類と、兵役、労役がどんなものかめも教えてほしいわ。ガラン領内では、聞いたことがなかった。」
ナズはマーツ達と共同戦線をはる気はさらさらない。
せっかく念願の王都に出てこれた。
目的のために、出だしで揉めていたくなかった。
避けて進めないのなら、いかに立ち回るかだ。
説明者は1度ナズを見た後、全体に向けて話し始めた。
「ガラン領では日常に組み込まれていたから、兵役も義務と意識しなかったのだろう。
大人も子どもも、避難訓練や野外演習に参加して、毎日、鍛錬を欠かさなかったな?」
「あれが兵役?」
日本で、避難訓練は学校行事みたいな扱いだった。
「ガラン領内が戦場になった場合を想定しての訓練だ。職業軍人ではない領民は、戦場で活躍するよりも、領地防衛にまわる方が、動きやすい。」
「そんなに、危ない土地だったの?」
前世日本人のナズが、日本での生活と同じ感覚で生きてきたのは、ガラン領が日本との差異を感じ難かったからだ。
ガラン領内は、ナズの目から見て、いつも平和に見えた。目を閉じると、まるで日本にいると錯覚するくらい。衣食住に困ることもなく、戦争の気配なんて、分からなかった。
「代々の領主が上手に立ち回り、領主の子どもが、嫡子を除いて、政略結婚を重ねてきたお陰だ。
国外へ政略結婚で出た後、婚家の発展に力を注ぎながら、ガラン領へ侵略してくる連中をガラン本家と協力して抑え込んできた。」
代々、政略結婚が当たり前の家に生まれなくて良かったと、ナズは思う。
可愛く生まれたなら、可愛さを活かしてこそ。
政略結婚みたいな、どうあっても結果が同じなら、可愛さはあってもなくても、ね。
領主一家が地味でも貴族で、アタシが可愛いのに平民なことはずっと納得いかなかった。
全部スッキリしたわ。
貴族は、可愛さじゃなくて血筋だから、平民じゃなきゃ、アタシの長所は活かせなったわね。
「労役は?」
「ガラン領内では、労役という名目で徴収していない。特技を披露する大会や、自慢の1品を出品する大会がそれだ。
出場して、就職が決まった者がいただろう。注文がくるようになった工房があっただろう。
領民と領民が、共に繁栄する仕組みだな。」
ふーん。町おこし的なコンテストに参加するのが、まさか労役だったとは。全員参加が必須だったのは、そのせいなんだ。
言われないと分からないものよね。
成果をあげられる頭の有無が、為政者と平民の差?
「税金は?」
「ガラン領内で税金は、収穫物や製作物だな。農産物なり、狩りの成果なり、手作業の品なり、技術なり、誰かしら何かを納めていたはずだ。」
「何かをって、あやふやでいいの?」
「何をもって、税金とするかを1つに絞らず、その時々の需要と供給をみながら、きめていたから、柔軟に切り盛りしてこれたんだろう。」
江戸時代は、米で納めていたから、不作になっても、豊作になっても、米の価格と供給量に頭を悩ませていたのよね。
確か、八代将軍吉宗様が。
代々のガラン領主は、ただの田舎の大将ではなかったということ?
前世、日本に働いていたとき、税金がこんなにひかれるの?とゲンナリしていた覚えがある。
高額所得者が日本を脱出して、税金が減ったとかいうニュースも見たことがある。
当時は、日本から出て生活出来るだけの金持ちが世の中にはいるんだなあ、くらいしか考えてなかった。
税金のせいで、自分の取り分が減るととらえると、不満が残る。
いつ戦火がひらかれるか分からない領地に、不満を募らせるばかりの領民。
そんな領地の領主よ、罰ゲーム以外ある?
ガラン子爵家のご先祖様が、三大義務を徴収とわからないように日常に落とし込んだのね。
代々領主のガラン子爵家が、国に頼らず、自給自足を推すのは、ガラン領が非常事態に陥ったとき、国に頼れると考えていないから?
王侯貴族って、大変だとナズは思った。
「教えてくれて、ありがとうございます。」
ナズがお礼を言う横で、サカモのドスを効かせた声が聞こえた。
「そっちの都合で追い出しておきながら、金をとるのか。家賃くらいまけろ。クソが。」
13
お気に入りに追加
349
あなたにおすすめの小説
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~
TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ!
東京五輪応援します!
色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる