フィリス・ガランの近衛生活

かざみはら まなか

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第3章 世の中には、異世界転移する男子高校生もいれば、異世界転生する人もいる

31.異世界のお役所で学ぶ、現地人事情 その4 奴隷の成り方

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「家賃の未払いでこの場にいる者は、家賃の支払いを立替る資産もなかったため、貸し主との賃貸契約は、既に終了している。
これから、国の管理下で、労働に従事せよ。家賃の未払い分、代行手数料、家賃回収にかかる実費は労働により得られた収益から、徴収し、国から貸し主へ未払い分を渡す。

国の管理下で労働に従事する期間の労役と納税の義務は、家賃の支払いに充当しなかった労働で立替る。」

家賃未払いの者も、前2者と同じく本人確認終了後、体格のよい男達に囲まれて退出した。

入れ代わりに、体格のよい男が次々入室してくる。

体格がよいだけではなく、全員、明らかに争いに慣れていそうな雰囲気が漂う。

今迄の体格のよい男達は、交番のお巡りさんみたいな、話しかけても大丈夫そうな雰囲気だった。

新しく入ってきた男達には
「完全にケンカもリンチもお手の物みたいな、専門の方ですよね、めちゃくちゃ分かります。」
と言い逃げしたい。

役所で役人がカタギでない方を堂々と使っているけれど、捕まらない?と誰かに聞きたい。

今、口を開いたらアウトな感じがする。
タマキは大人しく、空気になることにした。

部屋の真ん中に少年少女の団体だけが残っている。

集められた人ばかりに集中していたから、今気づいたが、
壁際に、ぐるっと警察官みたいな雰囲気の人が等間隔で一周している。

立てこもり犯を包囲して、隙をみて、突入する下準備っぽい。

タマキと引率者の前後左右にも強面の男達がSPよろしく立っている。
人質事件を見守る家族の警護を担当する警察官みたいに、突破させないという気概が伝わってくる。

異世界の市役所で刑事ドラマか!と口から出そうなのをタマキは飲み込んだ。


少年少女も身じろぎしたり、ヒソヒソしたりして、落ち着きなさそうだ。

入ってきた最後の男が全員配置についたと合図を送り、担当者が話し出す。

「先に上げた3つの未納、未提供、未払いに加えて、兵役も果たしていない者達。

この場において、国民資格は抹消。コーハ王国の国所有の奴隷とする。

家賃の未払い分は、奴隷の就労により得られた利益から該当額を貸し主に渡す。

以上。」


「聞いてない。」
「人権侵害だ。」
「奴隷なんて認められていないだろ!」
「訴えてやる。」
「捕まるな。」
「捕まったら、奴隷だぞ。」
「逃げろ。」
「捕まらなければ、何とかなる。」

少年少女は口々に叫んで、動き出した。

ある者は出口向かって走り出した。
ある者は捕まえに来た男に頭突きをかましている。
ある者は近くにいた仲間を蹴飛ばして、その隙に逃げようとした。

全員あえなく簀巻きにされ、足だけはあるけるようにしてあるかが、縦一列に並ばせられた。1人1人、胴と首に紐がかけられて、前後の者と結えられる。

「公務執行妨害罪の現行犯で、重犯罪奴隷とする。」
担当者が宣言を追加する。

重犯罪奴隷となった少年少女は、この5分程で罵る元気を失っていた。

抵抗した際に、何らかの処置を施しているようだ。
大人しく捕まらなかった者は、一人残らず、血の気がひいているか、痛い痛いと顔を歪めている。

「行け。」
担当者の一声で、少年少女の団体が部屋を出ていく。

「こちらへ。あの集団に少し遅れて続きます。」
案内してくれた役人さんが、再び、タマキ達を先導していく。

少年少女の集団は、紐で数珠繫ぎになった状態で、総合窓口のある1階にいた。

「これらの者は、国民の三大義務を果たさず、家賃も未払い。立替する資産もない。奴隷宣告後、逃げ出そうとしたり、職員に暴力を振るったため、重犯罪奴隷になった。

只今より、名前と年齢、性別、身体的特徴をよみあげる。

読み上げ終了後に、同じ内容を役所入口の掲示板に該当者を公表する。利害関係のある者は、役所の担当窓口へ連絡するように。」

少年少女は1人ずつ名前を呼ばれ、
「はい、私は某です。」と名乗った。

殆どが、痛みに顔を歪めていたので、フロアに聞こえるまで、何度も言い直していた。

全員が名乗り終えると、移送用の箱みたいな乗り物に乗せられた。箱は速やかに動いて視界から遠ざかる。

タマキは衝撃的な風景に言葉を失っていた。

タマキが異世界にきて1ヶ月超経つ。その間してきたことは、フィリスのお家に閉じ籠もり、衣食住を保障されて、読み書きの勉強、炊事、洗濯、掃除、庭仕事を少し。

異世界に来てから、暴力や、過酷な現実を目にしたことはなかた。

異世界ファンタジーはどこだよ?とふざける気持ちは、天の岩戸に引っ込んで、出てきそうにない。

この世界は、日本とは異なる価値観が支配している異世界なんだ。

日本の感覚で善悪を判断したり、大丈夫だと過信するのは危険だ。

1ヶ月の未納、未払いで拘束されるなんて、日本の生活では知らなかった。

労役も兵役も日本にはなかった。


奴隷になった少年少女は、タマキの年齢と大差がないように見えた。

成人してはいるが、成人してから日が浅く、覚悟も知識もないまま、王都で生活して、1ヶ月で行き詰まったのだろうか。

義務を果たさない国民の行き着く先。
タマキが馴染もうとしている新しい世界の価値観では、奴隷という存在が道徳的に問題ではなかった。


案内してくれた役人さんが、タマキ達を振り返る。
「あの奴隷どもは、ガラン子爵家当主の4男でいらっしゃるフィリス・ガラン様の監視されていた者で宜しかったですね?」

タマキは目を見開いて、引率者を見た。
今、フィリス・ガランって、聞こえた!

「ええ、お手数おかけしました。」
引率者は、あっさり認めて、礼を言う。

「では、フィリス・ガラン様宛に報告書をしたたため、お渡しします。このままお待ちになりますか?」

「私からも主人に報告致します。時間がかからなければ、報告書を持ち帰りますが。」

「2時間はかかりません。殆ど完成していまして、これから、変更と追加を手直しした後、関係各署とその上司の承認を得てから、正式な書類として、お渡しします。」

「1室、水分がとれて、人目につかない空き部屋をお借りしても?」

「5分ほどお待ちいただければ。」

「お願いします。受け取りまでは、お借りした部屋で待っていることにします。帰りの乗り物の手配をお願いします。来るときは徒歩でして。
あと、用事の際は、近くを通った方にお声がけしても?」

「構いません。そのように周知します。お帰りの際は、こちらで手配したものをご利用ください。」
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