フィリス・ガランの近衛生活

第3章 世の中には、異世界転移する男子高校生もいれば、異世界転生する人もいる

23.異世界転生が吉と出るか凶と出るか

『領民の中に複数の異物混入を確認』

ガラン子爵家の嫡子デヒルの元にその一報が届いたときには、異物の数は当初の何倍にも膨れ上がっていた。

デヒルが陣頭指揮をとり、早急に異物の確保と拡大防止に動いたが、汚染された領民の扱いには細心の注意を必要とした。

異物が汚染したものは、思想だ。

一部の領民は、ガラン領民として生きていけない考え方や感じ方に心酔した状態から、脱せないままである。


新しく知った、自分に有利な思想にとらわれ、周りから受け入れられない側になっても捨てられない。

今までより急に有利になったと喜ぶキミがいて、理由が理不尽極まりない不利益を被った隣人がいる。

誰にとっても甘い汁なんてものがあるのかな？

キミが手にしている何かは誰が、何のために用意したのか、知っているかい？


他者の思惑という濁流にのみ込まれていることに気付けるかどうか。



ガラン領を統治する為政者たちの前に姿を表した異物は、子どもの姿をした異世界転生者だった。

この世界では、異世界転移者も異世界転生者も存在する。

異世界転生者は、この世界で生まれ育ちながら、異世界で生きた記憶や知識がある者のこと。

この世界において、自分の知っている異世界の知識や技術が絶対的なアドバンテージになるとは限らない。

異世界の知識や技術を使う場合、この世界の常識をふまえて、使いどころを見誤らないこと。

異世界の記憶や知識に振り回されて、今世を台無しにするくらいなら、ない方が生きやすい。

異世界転生者は、昔から一定数いた。
中には天賦の才を発揮し、文化や技術に新しい風が加わることもある。

だが、良い面ばかりではない。
犯罪の手法、倫理観のない武器の開発、世界情勢にそぐわない思想など、争いを巻き起こす原因になることもある。

思想は行動にうつすまで、人の目につかない。今回、発見が遅れたのは、子どもから広まっていったからだ。