フィリス・ガランの近衛生活

第3章 世の中には、異世界転移する男子高校生もいれば、異世界転生する人もいる

22.ガラン子爵家と領民

ガラン子爵家の嫡子であり、長男のデヒルはガラン領にいた。

王都のガラン邸には、父である当主が滞在している。

ガラン子爵家当主と跡継ぎは、どちらかが王都にいれば、もう1人は領地にいるようにしている。
国境の領地なので、戦争の火種はいつ蒔かれてもおかしくない。
大まかに、王都にいる方が社交を担当、領地にいる方が軍を担当するようにしている。

ガラン領は、3つの国と接しているが、ガラン領から入国することは出来なくしてある。
入国を認めると、破壊工作に勤しむ輩が押し寄せるのだ。

国境を越えてくる者は、全て不法入国者。
基本的に、国境前でお帰り願う。

軍隊は常時、領地内に展開している。

ガラン領は職業軍人がそこここにいる。
職業軍人は全て、ガラン領民であり、貴族ではない。
外部からの個人の特定を避けるため、軍隊の階級で呼びかけることも多い。

ガラン領は内陸の領地。
王都から距離があり、平民が軍人として階級社会の1角を担うガラン領の純粋な貴族は、ガラン子爵家の当主と当主の子供、生まれていたら孫も。

時々、ガラン領で一生を終える嫡子以外もいる。ガラン領民と結婚し、子孫が分家として領内に散らばっている。

コーハ王国の貴族の定義は、出生上の両親の両方が貴族籍であること。
平民と貴族の組み合わせで生まれた子どもは、コーハ王国では、貴族に該当しない。

ただし、特例がある。ガラン子爵家と、ガラン子爵家に隣り合う2つの男爵家はこの限りではない。

国境の領地を治めるガラン子爵家の王都側は、だいたい同じ広さの男爵領が2つ接している。
国境のガラン子爵家が落ちたら、この2つの男爵家が防衛ラインになるので、3つの家は、代々、協力しあってきた。

この3つの貴族家に関しては、当主の配偶者は、領民から選ぶ。領民から選んだ配偶者は貴族ではないが、領地の特殊性から、当主の子供は、貴族と定められている。

当主の結婚相手を領民に限ることで、他の貴族に起因する国境の火種を考えなくてよい。

ガラン子爵家は、現当主の伴侶も、嫡子デヒルの伴侶もガラン領民から決めている。

デヒルの跡継ぎになる息子もそうなるだろう。


ガラン子爵家は、ガラン領民にとって、いつの時代も誇りだ。
代々、嫡子以外の娘や息子は政略結婚で国を出る。
国外にガラン子爵家と領民に敵対しない勢力を作ることで、侵略への抑止力を狙う。


ガラン領民は、子爵家同様、全体的に細見で小柄である。

外国人だけでなく、コーハ王国の他領の人間に比べても体格的に貧弱なので、暴力を振るわれた場合、当たりどころが悪ければ命に関わる。

平民は、王侯貴族に絡まれたら、基本的に勝てない。
しかし、ガラン領民がガラン領から出ている場合、ガラン子爵家のお仕事なので、子爵家が守ってくれる。

「諸君は、1人1人、頭にガラン家という誇りを戴いている。安易に頭を下げては、誇りを地に落とすことになる。ガラン家に恥ずべきところがないなら胸を張れ。諸君らの忠誠こそがガランの盾だ。槍は任せておけ。」

領の外に出たガラン領民は、ガラン領の在り方を他国や他領と比較する。

ガラン領民で良かった、が帰宅後の第一声になるらしい。

仕事によっては、
「気配を感じてよけたら、首を狩られる寸前だった。」
と、修羅場を潜り抜けた感想になる者もいる。

ガラン子爵家とガラン領民は、互いに、献身と尊敬と忠誠で成り立っている。

ガラン子爵家とガラン領民の成り立ちや在り方を否定する者は、ガラン領民にはいない。

生きている限り、侵略の危機と隣り合わせ。
虎視眈々と狙われている気配を肌で感じずにはいられない。

その良好な関係にヒビを入れる者、相互不信を煽る者は、ガラン領内では異物と判定される。

侵略行為や分断工作に熱心な間者や工作員、ということだ。


本日、ガラン領民の中に、異物の混入が確認された。