フィリス・ガランの近衛生活

かざみはら まなか

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第2章 フィリス、16歳の男子高校生を自分の家に連れてかえる

18.異世界人タマキが日本にいたころ その2

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若夫婦から生まれた子どもは、タマキと名付けられた。

若夫婦は家族3人で仲良く暮らそうとしたが、すぐに行き詰まった。

夫婦2人とも、仕事が見つからない。見つかってもすぐクビになる。

タマキ父は再びママ活を始めたが、既婚者だとすぐに広まり、金払いの良さそうな相手は逃げてしまう。逆に、お金のなさそうな小娘たちから、パパ活のターゲットにされてしまい、全く稼げない。

タマキの母は、社会に向かなかったらしく、仕事探しもやめてしまう。若夫婦はジリ貧になりながら、家にいた。

連絡先を知っている女に営業かけてみたら?とタマキの母の思い付きにのって、何人か連絡をとってみると、もう連絡しないで、と拒絶されてしまった。

唯一話を聞いてくれたのが、元パトロンだった女性。

女性は話を聞いて、タマキの父とタマキに援助をすると決めた。

タマキの父は喜んだ。2人分の援助なら、稼ぎが倍になる。生活が楽になること請け合いだ。

「わたしの分は?」
タマキの母が自分の分がないと不満をもらした。
「2人分あれば何とかなる。」
タマキの父は楽観的だった。

女性は、タマキの父とタマキの面倒をみてくれた。
タマキたち父子の住まいが用意され、家政婦の他に、ベビーシッターもベビー用品も手配された。

その空間にタマキの母の姿はなかった。

タマキの父は、仕事で女性と外出し、タマキは家政婦やベビーシッターに育てられた。

タマキの母は、何度も女性や夫に近寄ろうとしたが、なかなか成功しない。

なんとか女性に話しかけると、女性は、タマキの父とタマキの面倒を引き受けるから、タマキの母は心置きなく働ける、夫と我が子のために大黒柱を目指して、と発破をかけた。

タマキの母は、夫であるタマキの父の稼ぎをあてにしていた。お金がないとたびたび無心にきた。
タマキの父は現金もカードも持っていなかったので、まとまったお金がない。
タマキの父は、自身や、息子のタマキに用意されたものを持ち出し、タマキの母が売り払って、現金にした。

タマキの父やタマキに用意されたもので、売り払われたいくつかは、タマキの父やタマキのものではなかった。
レンタルであったり、借り物であったり。タマキの父と母は、女性が借りた物を黙って持ち出し、買い主に盗品と言わずに売り払ったとして、罪に問われた。

タマキの父は、パトロン女性が更生させると誓って、生活を共にするようになった。

母は、頼れる人間も友人もいないが、賠償金のために仕事を斡旋されて働くことになった。

タマキの父は、生活全般を女性に頼り、タマキの世話を親である自分の役目だと思わなくなった。

タマキの母には子育てする能力がなかった。

タマキは、家政婦やベビーシッターに養育され、年頃になれば、幼稚園に通い、小学校に通った。

大きくなるにつれ、タマキは自分の環境が周りと違うことに気付いた。

父は、いつも年上の女の人と暮らしていて、タマキのところに、たまに遊びに来る。
生活を支えてもらうために、年上の女の人と暮らしているそうだ。
父は、父親の役割を参観や行事にいって、存在をアピールすることだと思っている。
父は、タマキのことが嫌いではないと思う、多分。
だけど、お互いの本心は知らない同士だ。腹を割って、話そうにも、そこまでの関係を築けていない。

母は別の場所にいる。
顔もわからない母は、生活能力を身につけるために働いているそうだ。

タマキは父と母の実態に悲しんだ。

子どもを育てられないのに産まないでほしい。

タマキの養育環境を整えているのは、父のパトロンをしている女性だ。

幼稚園も小学校も、パトロンの女性の伝手で入って、学費も日用品も生活費も、ベビーシッターや家政婦さんの人件費も、タマキの住んでいる家の家賃も、全て、女性が出している。

困っていた昔の恋人を助けたいという美談だと思ったら、全然違った。

タマキの父も母も、騙した相手に家族まるごと養ってもらおうとしていた、と聞いたときには、誰に何を言えばよいのか、分からなかった。

タマキがまだ大人の話を理解出来なかったとき、好き勝手話していく大人は本当にイヤな奴だった。
知り合いになった大人は、誰も彼もが、タマキを見て、あの美人局発覚に繋がった子どもだとタマキを理解する。

タマキの父と母への悪感情は、パトロン女性の周りでマグマのようにたまっていた。ふとした弾みで溢れ出しては、タマキに直撃する。

中学も高校も、パトロン女性が関係ない学校に行こうと頑張ったが、父が全く理解してくれず、女性の思う通りの進路になった。

「面倒みてくれるんだから、タマキはみてもらえばいいんだよ。タマキは何もしなくても面倒みてもらえるから、楽で良いじゃないか。」
父の何気ない言葉にどれほど傷ついたことか。

親がしっかりしていれば、タマキの苦労は経験しなくても良かったものはず。

タマキは女性お勧めの中学に入った。
中学生になると、タマキの美貌が人目につくようになった。

タマキの父は、息子に言った。
「タマキもお父さんみたいにお仕事しようよ。オシャレなスポットで、美味しい食事にカッコいい服、似合うと思う。」

タマキは何度も断ったが、
父はタマキが嫌がる理由が理解できないのか、
パトロン女性に言いくるめられているのか、父と一緒に侍る日が始まった。

タマキは父を上回る美貌に育っていく。
パトロン女性は父とタマキを左右に侍らせる。
パトロン女性と父は楽しんでいるが、タマキは苦痛でしかない。

お出かけが終わると、父がタマキに駄目だしするのが常になった。

生まれたときからの援助は有り難い。
だけど、父と一緒に父より年上の女に媚びるのも、その姿を人に見られるのも嫌だった。

父子で金持ち女にぶら下がっている様子は、同級生の親子にも広まり、友達なんかできやしない。

たまに金を無心しようと声をかけてくるやつもいるが、やべーやつがバックにいるから、止めておけ、と誰かに言われて、笑いながら逃げていく。

家にも学校にも、居場所も味方もできない。

唯一の楽しみは、異世界ファンタジー。ラノベも漫画もゲームも、束の間、現実から逃げられるなら、それでよい。

タマキは、父とパトロン女性から逃げられる未来など考えない。

父の容色が衰える前に、タマキの美貌が目立つようになった。

父の太鼓持ちは、女性の心を擽るらしく、父と話していると機嫌がよい。

タマキは確かに感じ取っていた。女性の情欲が父ではなく自分に向けられ始めている。

どんなにすげなくしても、女性の情欲が衰えることはない。

父はタマキのやる気のなさを指摘し続けていたが、ある時から、言わなくなった。

ようやく、息子に自分の立場がとってかわられそうだと気付いたのだ。

父は、タマキを遠ざけようとして、パトロン女性の不興をかいかけてから、タマキを差し出すようになった。

「わからないことがあれば、父に聞けば、何でも教えてやる。身近に頼れる先輩がいて良かったな。」
酔っ払っては、タマキに武勇伝を語るようになった。

「俺はあんなに尽くしたのに、何にもしないでブスくれて金をかけられただけの子どもに乗り換えられるのか。」
「いい顔をしているうちに、むしり取っておけよ。若い内は無敵だ。」
パトロン女性の不満を所かまわず口に出す。

タマキが父を宥めようとしても
「オマエはこれからの人間だもんな。」
「何の苦労もなくて、羨ましい。」
と突き放して、話ができない。

タマキはパトロン女性に自分でなく、父を可愛がってほしいと話した。

父はパトロン女性が生活の全てなのだ。
自分のことも家族のこともままならないまま中年になって、捨てられては、粗大ゴミ以上に扱いに困る。

パトロン女性は、
「タマキがパトロン女性と結婚して、子どもを作るなら、夫の親だから面倒をみる」
と言った。

父より年上で、父と関係のあった女性と結婚して子どもをつくる?

タマキは無理ですと断った。

「それで、どうする?」
とパトロン女性は聞いてくる。

タマキの父は自信喪失や酒量の増加、加齢によって、不能になり、仕事ができなくなっていたという。

父が仕事しないなら、父もタマキも一文なしの公園暮らしが確定する。

考えたいと一旦引き上げたが、タマキが稼がないとタマキ自身が生きていけない。

タマキはパトロン女性とのセックスを承諾した。

父は、男として、役に立たないから用済みになっと宣告されて、完全に情緒が不安定になり、病院にかかることになった。
その病院代もパトロン女性が支払っている。

迷惑をかけられるばかりの父にかかる費用を稼がねばならない。

父の生活費と自分の生活費がセットなので、稼がないと、自分も飢える。

稼ぎを思い浮かべながら、回数をこなしていた。
ある日、家に帰ってきたら、玄関先に父がいた。
「おれの女を寝取りやがって。恩知らずが。」
父に酒をぶっかけられ、父を棄てようと決めた。

父と母とパトロン女性とタマキ自身の関わりと、周りの大人たちの様子をまとめてネット社会にばら撒いた。

『産んでくれなんて頼んでいない。勝手に産んだくせに、俺を食い物にするな。』

魂の叫びは、削除依頼を繰り返されながら、広まった。

タマキの周りの人間は全て入れ替わった。

入れ替わってもクズしかいなかったのは、ヒキが良いのか悪いのか。

タマキをお題目に、タマキを可哀想な目にあわせた大人にタカろうとするクズ。

綺麗事で売名行為に励むクズ。

可哀想なタマキを利用したいクズ。

人間なんて、碌なもんじゃねえな。

タマキの16年の人生はクズで埋まっていた。



人生が変わった日。
パトロン女性をよく知っているという男が、タマキに近付いてきた。
「お前らのせいで、お嬢様は人生を棒に振った。お前ら家族は、お嬢様が助けなければ、今頃、1人も生きていなかった。感謝するならともかく、後足で砂をかけるなんて。お嬢様がどれほど苦しまれたか。」

タマキは、ひたすらめんどくさいと思った。
「俺の両親もクズだか、あんたのお嬢様は、中学生男子に突っ込まれたい変態だぞ。あんたじゃ、相手してもらえなかっただろう。」

男の罵声を聞き流しながら、タマキは強く願った。

クズのいない世界があれば、そこで一生暮らすのに。

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