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第1章 フィリス23歳、16歳の男子高校生の異世界人に会いにいく

12.異世界人がこの世界で生きていくには

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フィリスはお茶を飲むと、ゆっくりと話し始めた。
「異世界人は、この世界で生きていく方法は3つあるよ。
1つ目。拾得者の所有物として、養われること。所有物だから、拾得者に生活の面倒をみてもらう代わりに、自分の財産は持てない。
異世界人として働いて得るはずの名誉や財産はない。全て拾得者のものになる。拾得者は、良い拾い物をしましたね、と褒められる。
拾得者が、異世界人を誰かに売ると決めたら、異世界人には止めることは出来ない。モノは喋らないからね。否応なく新しい買い手に引き渡される。

その後は、新しい買い手が取得者として、生活の面倒をみてくれる。
優秀さを評価されて買い手がついた場合なんかは、売り手に評価分の金額を上乗せして買っている。売り手のところにいたときよりも、優秀さを発揮しないと、捨てられる可能性がある。

人生の途中で所有権が誰に移るかわからないけれど、望まれる人のところで生活はできる。
ただ、異世界人が誰かを気に入っても、気に入った人が一生面倒みてくれる保証はない。拾得者や取得者が要らなければ、売るか捨てるかされる。拾得者や取得者が死んだ場合、新しい拾得者がいれば、面倒みてもらい、いなければ、自分で生活する道もある。」

「自分で生活する道があるなら、それが一番知りたい。」
タマキはこの世界に来て一番真剣に話を聞く気になった。
「一番、前途多難だよ。

2つ目。まず、拾得者や取得者に自分にかかった費用と手切れ金を払って、自分で自分の所有権を持つ。
次に、国籍や市民権を買えば、この世界の人間として、人間扱いしてもらえる。」

「凄くわかりやすい。それがいい。」
興奮するタマキをフィリスは優しく宥める。

「まだ途中だから。最後まで聞いて。」

「悪い。続きは?」

「異世界人は、拾得者か取得者から自分を買い取るための費用を用意することが、そもそも難しい。」
「何で?」
「拾得者や取得者がいる異世界人は、個人資産を持たない。異世界人の稼ぎは全て拾得者や取得者のものになる。その代わりに衣食住を保証する。
異世界人がとれる資金集めの手段は、1つ。
自分を買い取りたいという考えに賛同してくれる誰かに、立て替えてもらう。
立て替えてもらったら、それは誰かへの借金という扱いになり、利子をつけて返済することになる。」

「借りた借金の返済がなかなか終わらないとか、あるのか?」

借金もなんだけどね、とフィリスは穏やかに話す。
「自分の所有権を自分で持つということは、借金の返済に加えて、自分の衣食住の費用も自分で支払わないといけない。身元が不確かで財産がない、返済を迫られている少なくない借金がある人間が、家を借りたり仕事を探したりするには、紹介がないと難しいよね。信用がないんだもの。」

「紹介って誰にしてもらうんだ?」

「どちらも、借金の貸し手が紹介することになるよね。そうしないと、借金の返済は期待できないし、異世界人も生きていけないから。」
「1度金を借りたら、一蓮托生になるんだ。」
「借金を返済しながら、家賃を払い、生活費を用意する生活はね、健康で体力があるうちはなんとか回していける。」
「体を壊したら、収入はないのに借金だけが膨らむのか。」
「死んだら、借金の取り立ては出来なくなるから、死なないように面倒をみてくれるかもしれない。でも、その費用は借金に上乗せされる。1度でも、体を壊したら、借金の返済額と利子が膨れ上がる。元気になっても、体を壊す前以上に稼がないと生きていけない生活を続けていると、無理がたたって、また体を壊す。元気になる前に、無理して働こうとして、体調を崩すのを繰り返し、借金生活から完全に抜け出せなくなる。」

「年季があけることは難しい?」

「不可能じゃない。完済したら、次は生活費を稼ぎながら、国籍か市民権を買う準備をする。国籍も市民権も国や地域で条件が全く違う。金額の高低差は、移民を広く歓迎しているか、慎重に歓迎するという政策の差かな。

重要なのは、次。

国籍を買って、国民になったら義務が生じる。

義務を果たさないと、国や地域所有の奴隷になる。納税、労役、軍役の3つが基本の義務。職業軍人は、軍役が免除される国もある。
納税、労役、軍役、全部の義務を果たし切っても、すぐに国民には戻れない。
1度信用を失っているからね。平民の1つ下の階級、亜国民になる。亜国民の間に国の基準を超え続けると、審査の機会を得られる。

そこで返り咲くと、国籍や市民権が復活する。

返り咲けなければ、その国の国民になる基準に達するのは、困難ということ。
審査記述の緩い国や地域での取得を目指す。」

「粘れないのか?」
「亜国民のまま粘るより、審査基準が少し緩めのところで国籍や市民権を買う方が、権利も保証されるから、人の暮らしが出来る。見切りをいつつけるかは、本人次第。」

「3つ目。拾得者から取得者に所有権が移るとき、取得者個人の人的財産になること。この方法は、自分の所有権を持つことは出来ないけれど、お小遣いとして自分の資産を持てる。衣食住は取得者が面倒をみるのは1つ目と同じ。ただし、他の2つと絶対的に違うところがある。」

よく聞いてね、とフィリスは念を押した。

「取得者の人的財産となったものは、取得者に殉ずる。」

「へ?」

「どんな理由でも、取得者が亡くなったら、殉死する。取得者が生きている間は生活を保証する、という取り決めで面倒をみる。取得者が亡くなれば、保証がなくなるからね。」

「新しい取得者に保証を頼むのは無理なのか?」

「人的財産として登録した異世界人の引き継ぎはしないんだよ。」

「どうして?」

「かつて、取得者を殺して乗り換えた異世界人が何人もいたからね。犯罪を起こす気にさせないためだよ。」

フィリスはタマキを見つめた。
「3つ目が適用出来るのは、拾得者から拾得者に所有権が移る1回のみ。タマキについては、今日、ボクが買う場合のみ適用出来る。ボクが買わなかったら、市場で売り出すことが決まっていて、市場での売買には3つ目は適用されない。」

だからね、とフィリスは殊更、ゆっくり話す。
「ボクがタマキを買う場合、3つ目の人的財産登録をする。タマキの衣食住はボクが生きている間、面倒をみる。ボクが死ぬときはタマキも死ぬ。衣食住の面倒はみるけれど、常識を学んで、ボクの指示する仕事はしてもらう。実際には、ボクが誰かにタマキへ仕事を与えるよう話をする。タマキは、その誰かの指示で仕事をする。ボクが死ぬまで、タマキの生活はボクの管理下におく。常識を学んで仕事を任せられるようになるまでは、お小遣いはなし。」

フィリスは1度目を閉じた。
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