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第1章 フィリス23歳、16歳の男子高校生の異世界人に会いにいく

3.厨二病患者に会ってくる、では有給休暇の申請が通らないって、知っていた?

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ハーマル・ガランはガラン子爵家当主の3男。上に兄が2人。
弟が1人。3歳差で4男フィリス。
妹も1人。弟のフィリスの更に4歳差で末っ子長女のマーゴット。
5人兄弟の真ん中のハーマルは、成人してから、コーハ王国の文官として働いている。
直属の上司は、コーハ王国の8つある公爵家の1つの嫡子で、王太子の側近。
ハーマルは文官の出世コースを歩んでいる。

「ハーマル、弟君が来てるんで、頼むわ。」
このように同僚に呼ばれるときは、まあ、ある。誰かが困ったら、ハーマルに声がかかるものだ。

さて、今日は何だろうか?

ハーマルが、自席から窓口業務に近づくと、フィリスが嬉しそうにニコニコして待っていた。

「今日はお仕事の時間にお兄様にお会いできて、嬉しいです。」
「私も嬉しい。フィリスは近衛棟で寝起きしていて、私は通いだから、お互い王城にいるときが1番会いやすいよね。それで、今日はどうしたの?」

フィリスは書いてきた申請書を兄に渡した。

『ハンティア王国で本場の厨二病に会うから、1週間有給休暇使います。』

「申請して、帰ろうとしたら、お兄様を呼んでくるから待ってなさいって、係の方が。お兄様にご挨拶したから帰って、お支度します。」
ハーマルは瞬時に理解した。
「フィリス、まだ帰るには早いよ。申請書は、フィリス以外の人が読んでも理解できるように書こう。今日は、書き方を一緒におさらいしようね。」

フィリス以外の人間が、こんな申請を出してきたら、水をかけられる案件である。

ガラン子爵家は、フィリスに宮仕えをさせる気はなかった。
当主だけではなく、兄も妹も、本人も、本気で領地で遊んで暮らす未来を思い描いていた。

成人したら領地に引っ込むけど、同年代で友人が1人くらい出来たらいいね。という緩い動機で、王都の貴族子弟同士の交流の場に参加したら、第4王子のフィリップ殿下に気に入られ。
フィリスが近衛にいるのは、フィリップ殿下のお声がけがきっかけになっている。

フィリスの父は、近衛の仕事をフィリスにさせるなら、王都のガラン邸で自宅警備員がよい、と前代未聞の近衛業務を作りかけていた。

王太子と同い年で忖度なく殴れる仲というフィリスの長兄デヒルが、弟が楽しい近衛生活をおくれるように、手を回したお陰で、自宅警備員にならずに済み、今に至る。

フィリスが近衛になる前から交流があり、先に近衛になった2つの侯爵家と2つの伯爵家のご子息を教育係と世話係に抜擢。

領地が隣り合わせで、王都邸がガラン邸と隣り合わせの2つの男爵家の子息達をフィリスの側近として近衛に送り込む手筈を整え、フィリスを喜ばせた。

他にも、フィリスが無理せず近衛生活を送れるように人員配置の手配をしている。

書類の提出くらい、教育係か世話係担当が提出できる状態に調えてくる筈だが、今日は1人で終わらせようとしたのだろう。

王城で働く聡い人間は、フィリスが第4王子フィリップ殿下の肝いりで近衛になるにあたり、王太子が何らかの便宜を図ったと推測している。

フィリス本人がいくらふわふわしていようと、王子2人が動くご子息様である。
うっかりフィリスの機嫌を損ねたら、後ろから王子がこんにちはしにくるんじゃないかと思うと、出来る限り触りたくない。
子爵家の4男なのに、アンタッチャブル感が半端ない。

そういった現場の意見を汲んで、問題が勃発したならば当然のように、問題が生じることを未然に防ぐためにも、フィリスに関しては、兄のハーマルへの丸投げ体制が整って、今に至る。

ハーマルは、弟の話を聞き、情報を整理しながら、申請書を完成に導いた。

『訪問先:ハンティア王国
 滞在期間:1日か2日
 申請する有給休暇の期間:滞在日を挟み、前後2日間ずつと、予備に1日の約1週間
 用件:ハンティア王国で異世界人出現の可能性があり、内密に直接確認するため、現地入り。
 同行者:ガラン子爵家の使用人と護衛、急ぎの案件のため、確定次第、再度連絡する。
 緊急時の連絡:ガラン子爵家。』

今日のフィリスの申請に許可が下りないことはない。

異世界からの漂流物は、生きていても、死んでいても、無生物でも、問題をはらんでいる。

この世界に存在しなかったということは、この世界の発展にともなって生み出されたものではない。

つまり、異物である。

毒になるか、薬になるか、無害なゴミになるかを見極めて、対処するのも、隠された権力者のお仕事なのだ。

コーハ王国の領土内で発見された場合、領地を統治する貴族が見極めにあたる。

ハンティア王国は、コーハ王国と地理的な距離もあり、王族同士が親しくしているわけでもない。

内政干渉にならない範囲で、得た情報の調査をするだけである。

調査は、コーハ王国の近衛が仕事でするのでもなければ、コーハ王国の役人が国の命令でことにあたるわけでもない。

コーハ王国の貴族子弟の1人が興味本位で首を突っ込んでいるだけで、国としての他意は全くない。

そういう体裁を整えるわけだ。

近衛として表に出せないお仕事なので、有給休暇中の私人であるとわざわざ記録に残す。

同行者がガラン子爵家の使用人と護衛なのも、フィリスの安全確保はもとより、近衛の仕事ではなく、貴族子弟のお遊びだと、目撃者から認識されるためである。

「気をつけて行くんだよ。今のところ、ハンティア王国は治安に問題はないけれど、連絡は密にね。」

「はい、ハーマルお兄様。」

「何もなければ、それでよし。もし、フィリスに何かあれば、ガラン軍が制圧に向かうから、救援がくるまで持ち堪えることを優先するんだよ。」

「はい、行ってきます。」

「無事に帰ってきて、報告においで。」

フィリスとハーマルはギュッとハグする。フィリスが仕事に行くときは、必ずハグしてから送り出す。

文官のハーマルが仕事で外国に行くときは、護衛がみっちりつくから、ハーマル自身が戦闘に加わる場面はほとんどない。

弟のフィリスは近衛なので、何かあれば戦闘に加わる方なのだ。

戦うのが趣味でも特技でもないのに。

ガラン子爵家の人間は、男女問わず、代々、細見で小柄な体格と茶色の髪と瞳で、整っているが目立たない目鼻立ちをしている。

大人しそうで戦えなさそうな見た目通り、戦闘狂気質では全くない。必要にかられてならともかく、好んで武器を持ち歩いたりもしない。

ガラン子爵家が誇る世界有数の軍事力は、先祖代々、戦闘狂気質だったからではない。大将である主家の人間が、実戦で戦う必要がないように部下が強くなった。

大将は優秀な指揮官であり、政治家であれ、というのが、ガラン軍の総大将心得である。

戦闘になる前に、政治家として立ち回り、未然に防げる問題は防いでおけ。
戦闘になったら、戦後処理を見越した勝ち方をしろ。
戦後処理には政治家として全力であたれ。

ガラン子爵家当主の子どもは、男女ともに、指揮官としての教育を受ける。ガラン子爵家に生まれたならば、一兵卒ではない。


ガラン子爵家当主の子どもが戦闘職の近衛なんて、悪いもの食べましたか?と確認される程である。
ガラン子爵家の長い歴史の中で、フィリスが初近衛なのだ。

家族は、近衛になったフィリスが心配で心配で仕方ない。

ガラン子爵家の人間は、そもそも戦闘職種向きに生まれていない。父親が、自宅警備員を勧めるのも、愛息を無駄死にさせまいという親心の為せる技。

家族愛が強いとか、過保護とか、成人男性に対する扱いじゃないとか、色々言うやつはいるけれで、家族にとってはどうでもよい。

4男のフィリスが元気に行ってきますをして、ご機嫌に帰ってくる方が大事。

見慣れなくて凝視している人間や、ヒソヒソしている人間も、いつかは慣れて、受け入れる。

どうしても、受け付けない場合は、別天地へご案内。

ハーマル自身も王太子の側近の直属の部下であり、若手出世株の1人。

自国の文官の動向も、国外情勢と同じく把握している。
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