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第6章 神様が棲むネットショップ〈神棚〉、営業中

57.さようなら、母さんと母さんの小さい子、俺に無関係な家族。『警察が動いた件で注目されたね。警戒だけじゃ弱い。匿おうか?』俺、襲撃される?

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俺は、小さい子をどうしたらいいか分からない。
見ているだけのことが多い。

小さい子には、子ども好きな、構ってくれる人のところにいってほしいと願っている。

小さい子に、穴が開くほど見られる経験なんて、今まで、一度もない。

俺も黙って見返せばいい?

モナナと仲良くする気はない。

モナナと仲良くするのは、考えるまでもなく、心が拒否する。

何もしなくてもいい?

「志春(しはる)は出ていって。モナナを見ないで。モナナは、思いやりのある優しい子なのよ。」

母さんは、モナナを抱きしめて、俺に背中を向けながら、出ていけ、と俺に言う。

俺をじっと見ているのは、モナナの方だよ、母さん。

母さんは、俺の存在が気に入らない?

「俺は、母さんが、俺に弁償するために用意したお金を受け取ったら、出ていく。今すぐ渡して。」

俺は、努めて冷静に話す。

本当は、母さんにきつく言いたい。

会いに来いとメッセージを送ってきたのは、母さんの方だって。

お金を受け取るために会いに来た俺に、騙し討ちみたいに、仕事を押し付けてきて。
俺が断ったら、お茶をかけて、帰れないように、閉じ込めて。

良心が痛まない?

銀行振込で十分だったよ、母さん。

会いに来なければ良かった。

俺自身が、母さんを嫌いになる日がくるとは思わなかった。

嫌われていても。
それでも。
俺には、母さんとの思い出があったから。
思い出の中で、母さんが俺の母さんだった日々を確認出来ていたから。

でも、母さん。

過去の思い出は、もう増えないんだ。

新しい出来事が、過去の思い出を上書きして、人は、考え方を変えるんだと思う。

母さんにとって、俺は、何を言ってもいい相手?

「志春(しはる)が絵を描かないから、貰えなかったわよ。」
と母さんは、俺のせいにした。

「俺が絵を描いて、報酬を得ることと、母さんが俺に弁償することは、別物だよ、母さん。

俺に渡すためのお金、母さんは、用意していないんだ?」

母さんは、無言のまま、モナナを抱きしめている。

「間に、人を挟むことにするよ、母さん。
俺が受け取りにきても、母さんは、払う気がないと分かった。」

俺は、三人の刑事さんと、母さんの夫に会釈をした。

「俺は、帰ります。」

そのとき。

「その石。わたしの石。返して。」
モナナは、母さんに抱き込まれながら、俺へと手を伸ばす。

俺は、手に持っていた石を見た。

神様も空だと言っていたから、渡しても無害だと思う。

俺は、モナナに向かって一歩進んだ。

「来ないで。」
と母さんに拒絶される。

俺は、進行方向を変えて、ダイニングテーブルの机に石を置いた。

「石は置いておくよ。俺のものじゃないから。」

「石だね?」
と刑事さんの一人が首を傾げた。

「母さんの夫の姉の家の倉庫にある石の絵を描いて、と言われて、断ったら、石を持って出ていくように言われた、静物画のモデルになりそこねた石です。」

「わたしが拾ったの。欲しいと言われても、あげなかったのに、ママがどうぞしたの。」
とモナナ。

甥を通した出資者へのご機嫌取り?

甥の母親が、母さんの夫の姉で、弟家族の家計を援助している。

石を渡したのは、母さんでモナナじゃない。

モナナが、母さんから優しい子と言われていたのは、母さんに逆らわずに、石を取り戻そうとしなかったから?

考えないことが一番。
俺が関わることじゃない。

「パパは、ママとわたしがお引越しするって。わたしはお兄ちゃんと行くの?」
とモナナ。

モナナは、切り捨てられることを察している?

「行けばいい。面倒みてもらえ。おれの家だ。出ていくのが増える分には構わない。二度と、入ってこなければいい。」
と言ったのは、母さんの夫。

「勝手に決めつけないで。志春(しはる)といるなんて。」
と母さん。

「じゃあ、誰が面倒見るんだ?警察に行く間、世話するやつがいる。」
と母さんの夫。

「あなたがみて。可愛い娘よ。」
と母さん。

「なんで、おれが。」
と母さんの夫は、心底嫌そう。

「志春(しはる)、モナナをみていなさい。兄なんだから。」
と母さん。

「母さん、子どもは、子どもだからって、無条件に面倒をみてもらえるんじゃないんだよ。

親が大人として、面倒みてくれる人に尽くしている場合、お返しに、その親の子どもを可愛がってもらえるんだ。

お互い様なんだよ。」

俺は、婉曲に拒否した。

直球で拒絶しないのは、大人だという自覚が、俺にはあるから。

母さんは、俺に背を向けるのを止めて、モナナの横に膝をついて、モナナと並んで俺を見上げてきた。

「志春(しはる)は、お兄ちゃんなんだから。
妹に優しくしなさい。
妹に優しくできないのは、意地悪よ。」
優しい口調で俺を叱り出す母さん。

モナナの前だから?

母さんの中の俺は、やっぱり刷新されていないんだ。

母さんの顔色に一喜一憂できた俺は、父さんにも同じ反応をしていたよね。

でも、今は違う。

俺と、父さん、母さんの関係は、変わったんだよ、母さん。

父さんから逃げるとき、俺は、母さんに助けを求めなかった。

今日、母さんから、逃げるために、俺は父さんに助けを求めた。

父さんは、俺を助けた。

実際に動いたのは、深川さんのようだけど。

「母さんは、俺が助けを求めたとき、小さい子がいるから、と、断ってきたね。

忘れることがない苦しみってあるんだよ、母さん。

母さんが、俺と会うときは、いつもファミレス。

俺を家族の一員として、家の中に迎え入れたことはなかった。

母さんが、俺を助けなかった理由は、小さい子がいるから。

俺の家族をバラバラにした原因は、母さんに小さい子がいるから。

何が起きても、俺だけは、母さんの小さい子の面倒をみない。

俺と母さんと小さい子が、一つの家族だったことは、一度もない。

母さんは、母さんと小さい子の二人がかりで、俺を一人にして苦しめたんだって、覚えていてほしい。

小さい子が優しい子でも優しくなくても、母さんの小さい子は、俺には無理。

俺は、母さんにも、母さんの小さい子にも、もう会わない。」

モナナの名前を出さずに話したのは、最低限の大人としての配慮。

母さんの家族が継続していたら。
母さんも、母さんの夫も、母さんの小さい子のモナナも、俺の名前を呼んで、俺の存在を意識することはなかった。

母さんの夫は、もう、俺に何かを言おうとはしなかった。

母さんの夫は、母さんの夫と俺が同じ側にいる、と分かったんだと思う。

母さんの夫がしたことは、息を止められる前に、やられたことをやり返しただけ。

最初に、夫であり父親である存在を家族の中で軽いものにしたのは、母さんと母さんの小さい子のモナナ。

母さんは、俺の明確な拒絶に戸惑っている。

モナナは、俺を凝視し続けていた。

俺は、凝視するモナナの視線を振り切る。

大人としては、小さい子に寄り添うことが、道徳的には正しいのかもしれない。

正しいことをすることが、俺を救うんじゃなく、苦しめる限り、俺は、正しいことに手を出さない。

俺は、神様とネットショップ〈神棚〉を続けていくことが、何よりも大事。

俺が苦しむことは、俺自身とネットショップ〈神棚〉の継続に悪影響を及ぼす。

俺がダイニングルームを出ていくとき。

刑事さんが、母さんに、モナナから離れて、外出の準備をするように、と話し始めた。

さようなら、俺に無関係な家族。


俺は、母さんの家を出て、父さんに連絡した。

父さんは、すぐ電話に出た。
「無事か。」

俺の連絡を待っていた?

「ありがとう、父さん。無事に解放されたよ。」

「そうか。
儲け話に誘われたときは、相手の土俵に乗らないようにすることだ。
また、何かあれば、言いなさい。」
と父さん。

「うん。骨身に染みた。父さんも元気で。また連絡するよ。」

俺は、電話を切ってから、考えた。

俺は、父さんのことを、また連絡したい相手だって認識しているのかもしれない。

深川さんに、お礼を言っておかないと。

俺は、深川さんにも電話した。

電話は、一分ほど待っただけで繋がった。

「今回は、私が監禁されていたところを助けていただきまして、ありがとうございました。」

俺が、お礼を言うと、深川さんは、闊達に笑った。

「志春(しはる)社長は、律儀な性分だね。大したことはしていないが、助けになって良かった。」
と深川さん。

「お陰様で、無事に解放されました。」

「志春(しはる)社長、まだ安心するのは早い。」
と深川さん。

「お礼は、これから検討したいと。」

「お礼してくれるのかい?楽しみにしているよ。

志春(しはる)社長のお母さんは、警察に呼ばれていただろう?」
と深川さん。

「はい。」

警察の件も深川さん?

「志春(しはる)社長のお母さんが警察に呼ばれた件で、志春(しはる)社長は注目されている。」
と深川さん。

注目とは、警察に?

それとも、犯罪に関係する人?

後者なら、警察が動いたのは、母さんの保護のため?

「情報、ありがとうございます。警戒します。」

「警戒だけだと弱いから、安全なところに、匿ってあげようか?」
と深川さん。

母さんが警察に呼ばれている件に関連する、警戒するだけじゃ効果がない人達、犯罪に関与した人達が、俺を襲撃しにくる?
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