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第5章 神様の新しい棲み家は、俺のネットショップ

34.父さんの運転する車が停まったのは?父さんは、俺の身の安全を危惧して、父さんの新居に招いてくれたんじゃなかった?

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父さんが、俺を褒めてくれたのは、賞をとったとき。

参加賞じゃなく、一人しか受賞者がいないような賞。

思い出せたけれど、大学在学中の俺は、四年間、賞と呼べるものには無縁だった。

賞をとれていたのは、小学生のときだけ。

小学校のときの夏休みの宿題は、母さんが色々準備していたと思う。

母さんのサポートがなくなった大学生の俺に、抜きん出るような優秀さは、なかった。

父さんに話せること、他に何かないかな?

ある。

「父さん、俺、イラスト描いているんだ。」

父さんは、無反応。

「イラストで賞をとったことはないけれど、イラストを気に入ってくれた人はいて。

俺のイラストにお金を出す価値があると評価してくれたんだ。」

俺は、ミラー越しに、父さんの様子をうかがいながら話をした。

父さんは、話しかけてこないけれど、俺の話は聞いているっぽい。

俺を無視している、というより、父さんが相手にする価値が、俺にはないと考えているような気がする。

俺がイラスト、と言ったときの父さんの表情は、
『イラスト?役に立たない趣味ごときで、自慢げに。』
と、父さんのスタンスを如実に物語っていた。

イラストじゃ、父さんの関心をひけないと理解した俺は、別の話題を探した。

でも、俺の世界のほとんどは、俺がイラストを描いて、カリスマ店員の神様が売るネットショップ〈神棚〉が占めている。

俺の店、ネットショップ〈神棚〉は、俺と神様のどちらが欠けても、軌道にのらなかった。

俺だけの功績じゃないものを俺のものとして、話すのはおかしい。

話題にできることがなくなった俺は、ミラー越しに父さんを見るのをやめた。

流れる車窓に目をうつす。

ワンルームに入居する日が、父さん母さんと俺の三人でする最後のドライブになった。

最後のドライブに出発する日、父さんも母さんも、機嫌が悪いようには見えなかった。

俺が大学生になって、手が離れたから、やっと、親の責務を終えて、離婚できる、と開放感に支配されていた?

父さんの心も、母さんの心も分からないことだらけ。

俺は、父さんと母さんに持て余されていた?


父さんの運転する車は、寂れた住宅地の、古ぼけた一軒家の駐車場に停車した。


両隣は、空き家かな?

背の高い雑草が枯れている庭。

開けられていない雨戸。

壊れている雨どい。

錆びている門扉。


父さんが車を停めた家は、人が住んでいる分、隣近所よりマシに見える。

新居って聞いたから、新しい家だと俺は、勝手に思っていた。

今日から、卒業式までお世話になる家だけど、山のふもとの我が家の方が、周りが寂れていないから、物寂しさがなくて、心穏やかに生活できる気がする。

俺は、車から降りて、布団と毛布を家に運び込む。

父さんは、玄関に立っている俺の後ろから入ってきて、鍵を閉めて、チェーンをかけた。

玄関ドアを背にした父さんは、淡々と俺に言った。

「志春(しはる)は、卒業式に着ていく一式を買う金を持っていない。今から、志春(しはる)が、自分で働いて稼ぎなさい。

仕事はある。

金が稼げないなら、卒業式は諦めなさい。」

え?父さん?

俺に仕事って、どういう意味?

犯罪現場となったワンルームにいたら、俺の身が危ないから、俺を避難させるために、父さんの新居に招いてくれたんだよね?

俺、父さんのメッセージを読み間違えていない、と思うんだ。

仕事については、一文も書かれていなかったよ、父さん。

俺は、ぽかんと、してしまった。

ぽかんとする俺に、父さんは、スマホを渡しなさい、と言った。

「嫌だよ。俺のスマホだよ?」
俺は、スマホを渡したくなかったから、拒否した。

俺は、わけがわからなすぎて、神様に会いたくてたまらない。

「使用者は、志春(しはる)だが、契約して、金を払っているのは、誰だ?」
と父さん。

「父さんと母さん。」
俺は、払っていない。
使っているだけ。

「志春(しはる)は、スマホ代を一銭も払っていないんだ。」
と父さん。

「うん。」
強調しなくても、その通りだよ、父さん。

「スマホ代を自分で稼げない志春(しはる)には、スマホを持つ資格はない。

スマホが欲しかったら、スマホ代と服代を志春(しはる)は、これから自分で稼がないといけない。

今のスマホは、解約する。

無駄遣いだからな。」
と父さん。

父さん、話が違いすぎる。

「スマホ代と服代って?
父さんは、こっちで着る服は、あるのを着なさいって、俺に言ったよ?

スマホ代と、日常の服代と、卒業式の一式の代金を俺が、今から、働いて稼ぐってこと?

卒業式まで、一週間しかないのに、間に合うわけがないよ。

父さん母さんが支払ってくれていたスマホは、いずれ解約するにしても、俺が自分で契約してからにして。

データのバックアップとって、新しいスマホに移したい。」

俺は、父さんに押し切られないように頑張った。

ゴンっと、頭頂部に衝撃が走る。

俺は、くらくらして、床に手をついた。

上着のポケットに入っているスマホが、床にあたって硬質な音を立てる。

「ここか。素直さが足りない。」
父さんは、俺の上着からスマホを取り出した。

俺、殴られた?

俺は、動けないまま、声を振り絞った。

「返して、父さん。そのスマホは、俺のだよ。」

「この家に、志春(しはる)のものは、何もない。」

父さんは、玄関に置いてある布団と毛布を見て、安物だな、とコメントすると、玄関から続く廊下を歩いていく。

神様、どうしよう。
どうしたら、いい?

俺は、間違えたんだ。

俺は、痛む頭をおさえて、父さんが安物だと言い放った布団と毛布に倒れ込んだ。
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