16 / 80
第4章 神様のいなくなった日常の始まり
16.朝が来たら、神棚にマグロのぬいぐるみを置く。就活を再開したけれど?
しおりを挟む
俺の日課は、寝る前に、神棚から、マグロのぬいぐるみをおろして、布団に並べ、目覚めたら、神棚の掃除をして、マグロのぬいぐるみを神棚に置く。
「マグロ、今日もよろしく。」
顔を洗って、朝食を食べて、掃除や洗濯をしたら。
俺は、最大の難敵と向き合う。
就活。
就活。
この三月までに決まらないと。
四月からは、父さんと母さんからの援助がなくなる。
大学の学費と大学の近所のワンルームの家賃と光熱水費なんかは、父さん母さんが出してくれていた。
大学生になってからの食費や、細々した出費は、父さんと母さんのどちらにお願いしても、どちらからもいい顔されなかったんで、バイトで稼いでいる。
俺は、高校まで、実家暮らし。
一人暮らしに慣れていないから、お金のやり繰りが分かっていなかった。
入学してから、二週間で、お金が足りなくなった。
新入生歓迎会や、新入生同士で遊びに行ったりしていたら、家にお金がない、って気づいた。
俺は、母さんに連絡した。
食事だけでも、作って、届けてくれないかと、期待したんだ。
大学生で一人暮らししている人の中には、自宅から、調理済みの料理を冷凍して送ってもらっている人がいた。
俺も、同じように、してもらえるんじゃないかって。
その人は、自宅が遠いけれど、母さんの新しい住まいは、俺の大学から、車で一時間くらいしか離れていない。
食べ物もお金もないから、ご飯を作って送ってほしい、と俺は、電話した。
俺は、想像していたんだ。
『大変だったわね。すぐに持っていくから、待っていなさい。』
と言われるのを。
『せっかくだから、今日は、母さんと一緒に食べる?』
と聞かれるのを。
俺は、自分の想像を疑っていなかった。
母さんは、今までずっと、ご飯を作ってくれていたんだ。
一緒に暮らさなくても、住む場所が違っても、関係は変わらない。
そう思っていた。
俺は、無邪気に、母さんを、俺だけの母さんだと信じていた。
電話越しに、母さんが不機嫌になったのが、よく分かった。
『一緒に暮らしていないのに、生活費まで面倒みなくちゃいけない?
うちには、これから、お金がかかる子どもが産まれるの。
うちで出せる分は、もう出している。
これ以上は、無理。
高齢出産になるから、体もきついの。
足りないなら、父親に頼んでみたら。
父親は、稼いでいるから、うちより、余裕があるわよ。
もう、タカリの連絡は寄越さないで。』
母さんは、俺が、何かを言う前に、一方的に電話を切った。
母さんが、新しい人と家庭を作るのも、新しい人と子どもを作って育てるのも、母さんの勝手で、俺には関係ないけれど、母さんは、俺が配慮するのが当たり前だと考えている。
俺は、父さんに連絡した。
父さんは、今回だけ、と、お金を渡しながら、俺に言い聞かせてきた。
『18歳は成人だから、自分で働いて稼ぐか、奨学金でなんとかしたら、どうだ?
いつまでも、どこまでも、親に頼りきりじゃ、社会に出たときに苦労する。
今から、親離れに慣れていかないと、志春(しはる)のためにならない。
もう、大きいんだから、父さんに頼られても、な。』
父さんは、俺が、将来、苦労していようと、いなかろうと、関わる気が微塵もないんだって、よく分かったんだ。
山のふもとに引きこもる前、俺は、賄いつきのバイトをして、生きていた。
そんな父さんと母さんとの縁は、大学を卒業して、大学近くのワンルームを引き払ったら、切れる。
俺は、一刻も早く就活を終わらせて、卒業までの短期バイトを探さないと、初任給が入るまでの生活費が心配で仕方ない。
それなのに。
行き詰まっているというか、エントリーしても、選考に進めない。
新卒採用だけじゃなく、通年採用や、中途採用も調べている。
ない。
色々と、ない。
仕事を選ばなければ、どこか、決まる、とアドバイスされたこともある。
仕事を選ばない、と決めていたら、俺は、大学四年の冬になっても、就活を引きずったりしていない。
俺の家族は、バラバラで、俺には、大事にするものが何もない。
俺には、仕事がある、好きを仕事にしたんだ、って言いたいんだ。
誰に対して?
父さんと母さんに、かな。
神様は、今ごろ、常世で何をしているんだろう?
神様が、今の俺を見たら、なんて声をかけてくるかな?
神様に、小童って、また言われたい。
神様、元気かな?
いっそうのこと。
誰も俺を雇わないなら、俺が、俺を雇う?
「マグロ、今日もよろしく。」
顔を洗って、朝食を食べて、掃除や洗濯をしたら。
俺は、最大の難敵と向き合う。
就活。
就活。
この三月までに決まらないと。
四月からは、父さんと母さんからの援助がなくなる。
大学の学費と大学の近所のワンルームの家賃と光熱水費なんかは、父さん母さんが出してくれていた。
大学生になってからの食費や、細々した出費は、父さんと母さんのどちらにお願いしても、どちらからもいい顔されなかったんで、バイトで稼いでいる。
俺は、高校まで、実家暮らし。
一人暮らしに慣れていないから、お金のやり繰りが分かっていなかった。
入学してから、二週間で、お金が足りなくなった。
新入生歓迎会や、新入生同士で遊びに行ったりしていたら、家にお金がない、って気づいた。
俺は、母さんに連絡した。
食事だけでも、作って、届けてくれないかと、期待したんだ。
大学生で一人暮らししている人の中には、自宅から、調理済みの料理を冷凍して送ってもらっている人がいた。
俺も、同じように、してもらえるんじゃないかって。
その人は、自宅が遠いけれど、母さんの新しい住まいは、俺の大学から、車で一時間くらいしか離れていない。
食べ物もお金もないから、ご飯を作って送ってほしい、と俺は、電話した。
俺は、想像していたんだ。
『大変だったわね。すぐに持っていくから、待っていなさい。』
と言われるのを。
『せっかくだから、今日は、母さんと一緒に食べる?』
と聞かれるのを。
俺は、自分の想像を疑っていなかった。
母さんは、今までずっと、ご飯を作ってくれていたんだ。
一緒に暮らさなくても、住む場所が違っても、関係は変わらない。
そう思っていた。
俺は、無邪気に、母さんを、俺だけの母さんだと信じていた。
電話越しに、母さんが不機嫌になったのが、よく分かった。
『一緒に暮らしていないのに、生活費まで面倒みなくちゃいけない?
うちには、これから、お金がかかる子どもが産まれるの。
うちで出せる分は、もう出している。
これ以上は、無理。
高齢出産になるから、体もきついの。
足りないなら、父親に頼んでみたら。
父親は、稼いでいるから、うちより、余裕があるわよ。
もう、タカリの連絡は寄越さないで。』
母さんは、俺が、何かを言う前に、一方的に電話を切った。
母さんが、新しい人と家庭を作るのも、新しい人と子どもを作って育てるのも、母さんの勝手で、俺には関係ないけれど、母さんは、俺が配慮するのが当たり前だと考えている。
俺は、父さんに連絡した。
父さんは、今回だけ、と、お金を渡しながら、俺に言い聞かせてきた。
『18歳は成人だから、自分で働いて稼ぐか、奨学金でなんとかしたら、どうだ?
いつまでも、どこまでも、親に頼りきりじゃ、社会に出たときに苦労する。
今から、親離れに慣れていかないと、志春(しはる)のためにならない。
もう、大きいんだから、父さんに頼られても、な。』
父さんは、俺が、将来、苦労していようと、いなかろうと、関わる気が微塵もないんだって、よく分かったんだ。
山のふもとに引きこもる前、俺は、賄いつきのバイトをして、生きていた。
そんな父さんと母さんとの縁は、大学を卒業して、大学近くのワンルームを引き払ったら、切れる。
俺は、一刻も早く就活を終わらせて、卒業までの短期バイトを探さないと、初任給が入るまでの生活費が心配で仕方ない。
それなのに。
行き詰まっているというか、エントリーしても、選考に進めない。
新卒採用だけじゃなく、通年採用や、中途採用も調べている。
ない。
色々と、ない。
仕事を選ばなければ、どこか、決まる、とアドバイスされたこともある。
仕事を選ばない、と決めていたら、俺は、大学四年の冬になっても、就活を引きずったりしていない。
俺の家族は、バラバラで、俺には、大事にするものが何もない。
俺には、仕事がある、好きを仕事にしたんだ、って言いたいんだ。
誰に対して?
父さんと母さんに、かな。
神様は、今ごろ、常世で何をしているんだろう?
神様が、今の俺を見たら、なんて声をかけてくるかな?
神様に、小童って、また言われたい。
神様、元気かな?
いっそうのこと。
誰も俺を雇わないなら、俺が、俺を雇う?
0
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~
美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。
母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。
しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。
「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。
果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?
魔法使いと子猫の京ドーナツ~謎解き風味でめしあがれ~
橘花やよい
キャラ文芸
京都嵐山には、魔法使い(四分の一)と、化け猫の少年が出迎えるドーナツ屋がある。おひとよしな魔法使いの、ほっこりじんわり物語。
☆☆☆
三上快はイギリスと日本のクォーター、かつ、魔法使いと人間のクォーター。ある日、経営するドーナツ屋の前に捨てられていた少年(化け猫)を拾う。妙になつかれてしまった快は少年とともに、客の悩みに触れていく。人とあやかし、一筋縄ではいかないのだが。
☆☆☆
あやかし×お仕事(ドーナツ屋)×ご当地(京都)×ちょっと謎解き×グルメと、よくばりなお話、完結しました!楽しんでいただければ幸いです。
感想は基本的に全体公開にしてあるので、ネタバレ注意です。
神様達の転職事情~八百万ハローワーク
鏡野ゆう
キャラ文芸
とある町にある公共職業安定所、通称ハローワーク。その建物の横に隣接している古い町家。実はここもハローワークの建物でした。ただし、そこにやってくるのは「人」ではなく「神様」達なのです。
※カクヨムでも公開中※
※第4回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※
後宮の不憫妃 転生したら皇帝に“猫”可愛がりされてます
枢 呂紅
キャラ文芸
旧題:後宮の不憫妃、猫に転生したら初恋のひとに溺愛されました
★第16回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました!応援いただきありがとうございます★
後宮で虐げられ、命を奪われた不遇の妃・翠花。彼女は六年後、猫として再び後宮に生まれた。
幼馴染で前世の仇である皇帝・飛龍に拾われ翠花は絶望する。だけど飛龍は「お前を見ていると翠花を思い出す」「翠花は俺の初恋だった」と猫の翠花を溺愛。翠花の死の裏に隠された陰謀と、実は一途だった飛龍とのすれ違ってしまった初恋の行く先は……?
一度はバッドエンドを迎えた両片想いな幼馴染がハッピーエンドを取り戻すまでの物語。
浅草お狐喫茶の祓い屋さん~あやかしが見えるようになったので、妖刀使いのパートナーになろうと思います~
千早 朔
キャラ文芸
☆第7回キャラ文芸大賞 奨励賞☆
『あやかしは斬り祓う』一択だった無愛想青年と、事情を抱えたあやかしたち。
ときどき美味しい甘味を楽しみながら、あやかしと人の心に触れていく、ちょっと切なくも優しい物語――。
祖母から"お守り"の鳴らない鈴を受け取っていた、綺麗でカワイイもの好きの会社員、柊彩愛《ひいらぎあやめ》。
上司に騙されてお見合いをさせられるわ、先輩の嫉妬はかうわでうんざり。
そんなある夜、大きな鳥居の下で、真っ黒な和服を纏った青年と出会う。
「……知ろうとするな。知らないままでいろ」
青年はどうやら、連日彩愛を追ってくる『姿の見えないストーカー』の正体に気づいているようで――?
祓い屋? あやかし?
よくわからないけれど、事情も聞かずに祓っちゃダメでしょ――!
こじらせ無愛想青年がポジティブヒロインに振り回されつつ、絆されていくお話。
※他サイトでも掲載中です
【完結】マギアアームド・ファンタジア
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
ハイファンタジーの広大な世界を、魔法装具『マギアアームド』で自由自在に駆け巡る、世界的アクションVRゲーム『マギアアームド・ファンタジア』。
高校に入学し、ゲーム解禁を許された織原徹矢は、中学時代からの友人の水城菜々花と共に、マギアアームド・ファンタジアの世界へと冒険する。
待ち受けるは圧倒的な自然、強大なエネミー、予期せぬハーレム、そして――この世界に花咲く、小さな奇跡。
王道を以て王道を征す、近未来風VRMMOファンタジー、ここに開幕!
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる