13 / 80
第3章 神様に、さようなら、と、ありがとう
13.『御守をやろう。ぬいぐるみを持ち帰って、神棚に置くとよい。』
しおりを挟む
神様は、俺の肩に座ったまま。
「神と共にありたいと願うものは、いつの世にもいるが、神と共にあることは、人の身には難しい。その身における命を捨てることになる。」
と神様。
「命を捨てる?死ぬ?」
考えてなかった。
「そうだ。龍神と夫婦になった娘がいたが、娘は、死して召し上げられた。
龍神から離れなければ、彷徨うことはないが、さて、どうなったか。
小童の感情は揺れ動くもの。
いっときの激情で命を手放してはならん。」
と神様。
「ごめん、俺は、死にたいわけじゃない。
一人だと思い知らされながら生きていくのは、辛い。
神様と一緒なら、楽しいのに、って。
神様と離れたくないって、思ったから。」
「小童は、知らぬことがたくさんある。小童とは、そういうもの。」
と神様。
「神様、常世に還っても、話をしたりはできない?
常世に、テレビ電話は、ない?
俺、神様との縁を切りたくない。」
「常世に、人の世のものは入らぬ。
志春(しはる)、ぬいぐるみを一つ、持ち帰るがよい。
志春(しはる)に、御守を授ける。」
と神様。
「ぬいぐるみを通して、神様が話をする?」
お喋りロボット的な?
「ぬいぐるみが話をするのか?」
と神様。
「そういう作りなら。」
「御守は、作られている以上のことはしない。ぬいぐるみが、喋らぬ布なら、御守にしても喋らぬ。」
と神様。
「御守、御守か、ありがとう。神様、一緒に選ぼう。」
俺は、目尻の涙を拭う。
観覧車は、もうすぐ、出発点につく。
「神様、扉が開いたら、降りるから。」
係員の人が、扉を開ける。
俺は、ありがとう、と言って、外に出た。
神様と俺、二人分のありがとう。
神様は、俺の肩の上で、バランスを崩さない。
「志春(しはる)。売店へ。」
と神様。
俺は歩きながら、肩に座っている神様に話しかける。
「今日は、人生で初めて、ぬいぐるみを買う日。」
今まで、ぬいぐるみに関心を持ったことなんて、なかったから。
丸っこい形のぬいぐるみなら、投げて遊んだけど。
「ぬいぐるみは、好まぬのか?柔らかい物体でも構わぬ。」
と神様。
「柔らかい?塩化ビニール製の人形?」
「塩化ビニールというのか。
御守は、布でなくても構わぬ。
持ち帰って、普段は神棚に置くとよい。
不安なときは、一緒に過ごすとよい。
小童には、御守がよく効く。」
と神様。
「丈夫で、長持ち、壊れにくそうな素材の方がいい?」
「志春(しはる)が愛着を持てるものがよい。御守は飾るためではなく、志春(しはる)のためになるもの。」
と神様。
俺と神様は、売店のぬいぐるみ売り場で、吟味した。
エイ、ウツボ、タコ、イカ、カニ、イルカ、オットセイ、クラゲ、ペンギン。
色々あったけれど。
「これかな。」
俺は、綿がぎっしりつまっていて、ずっしりと重い、流線型のフォルムのぬいぐるみを手に取る。
「良かろう。」
と神様。
レジで支払いを済ませて、店を出る。
神様に言われて、ぬいぐるみを両手で捧げ持つ。
神様は、俺の肩から降りると、ぬいぐるみに仁王立ちした。
「マグロよ、志春(しはる)の御守となれ。」
と神様。
神様は、うむ、と満足して、俺の肩に戻り、腰をおろす。
「志春(しはる)。今、マグロのぬいぐるみは、志春(しはる)の御守となった。
安心して、達者で暮らすとよい。」
と神様。
俺は、御守となった、マグロのぬいぐるみに、よろしく、と頭を下げてから、鞄に入れた。
今日から、我が家の神棚には、マグロのぬいぐるみが鎮座ましまするんだ。
「神様、ありがとう。俺、何もしていないのに。」
神様にお礼を言う。
「小童は、謙遜しなくてもよい。ただ誇ればよい。
志春(しはる)は、思い出を作るために、人の作ったものが溢れる場所に出ようと考えて、実際に出てきた。
志春(しはる)は、頑張った。」
と神様。
神様は、俺の親でも、家族でもない。
俺の友達。
「俺は、今、友達に、頑張りを認められている!めちゃくちゃ嬉しい。」
飛び跳ねたいくらい嬉しい。
神様が肩から落ちたら嫌だから、飛び跳ねないけど。
「今日の思い出は、志春(しはる)に捧げられたものではない。
御守は、志春(しはる)がくれた思い出の礼だ。」
と神様。
「神と共にありたいと願うものは、いつの世にもいるが、神と共にあることは、人の身には難しい。その身における命を捨てることになる。」
と神様。
「命を捨てる?死ぬ?」
考えてなかった。
「そうだ。龍神と夫婦になった娘がいたが、娘は、死して召し上げられた。
龍神から離れなければ、彷徨うことはないが、さて、どうなったか。
小童の感情は揺れ動くもの。
いっときの激情で命を手放してはならん。」
と神様。
「ごめん、俺は、死にたいわけじゃない。
一人だと思い知らされながら生きていくのは、辛い。
神様と一緒なら、楽しいのに、って。
神様と離れたくないって、思ったから。」
「小童は、知らぬことがたくさんある。小童とは、そういうもの。」
と神様。
「神様、常世に還っても、話をしたりはできない?
常世に、テレビ電話は、ない?
俺、神様との縁を切りたくない。」
「常世に、人の世のものは入らぬ。
志春(しはる)、ぬいぐるみを一つ、持ち帰るがよい。
志春(しはる)に、御守を授ける。」
と神様。
「ぬいぐるみを通して、神様が話をする?」
お喋りロボット的な?
「ぬいぐるみが話をするのか?」
と神様。
「そういう作りなら。」
「御守は、作られている以上のことはしない。ぬいぐるみが、喋らぬ布なら、御守にしても喋らぬ。」
と神様。
「御守、御守か、ありがとう。神様、一緒に選ぼう。」
俺は、目尻の涙を拭う。
観覧車は、もうすぐ、出発点につく。
「神様、扉が開いたら、降りるから。」
係員の人が、扉を開ける。
俺は、ありがとう、と言って、外に出た。
神様と俺、二人分のありがとう。
神様は、俺の肩の上で、バランスを崩さない。
「志春(しはる)。売店へ。」
と神様。
俺は歩きながら、肩に座っている神様に話しかける。
「今日は、人生で初めて、ぬいぐるみを買う日。」
今まで、ぬいぐるみに関心を持ったことなんて、なかったから。
丸っこい形のぬいぐるみなら、投げて遊んだけど。
「ぬいぐるみは、好まぬのか?柔らかい物体でも構わぬ。」
と神様。
「柔らかい?塩化ビニール製の人形?」
「塩化ビニールというのか。
御守は、布でなくても構わぬ。
持ち帰って、普段は神棚に置くとよい。
不安なときは、一緒に過ごすとよい。
小童には、御守がよく効く。」
と神様。
「丈夫で、長持ち、壊れにくそうな素材の方がいい?」
「志春(しはる)が愛着を持てるものがよい。御守は飾るためではなく、志春(しはる)のためになるもの。」
と神様。
俺と神様は、売店のぬいぐるみ売り場で、吟味した。
エイ、ウツボ、タコ、イカ、カニ、イルカ、オットセイ、クラゲ、ペンギン。
色々あったけれど。
「これかな。」
俺は、綿がぎっしりつまっていて、ずっしりと重い、流線型のフォルムのぬいぐるみを手に取る。
「良かろう。」
と神様。
レジで支払いを済ませて、店を出る。
神様に言われて、ぬいぐるみを両手で捧げ持つ。
神様は、俺の肩から降りると、ぬいぐるみに仁王立ちした。
「マグロよ、志春(しはる)の御守となれ。」
と神様。
神様は、うむ、と満足して、俺の肩に戻り、腰をおろす。
「志春(しはる)。今、マグロのぬいぐるみは、志春(しはる)の御守となった。
安心して、達者で暮らすとよい。」
と神様。
俺は、御守となった、マグロのぬいぐるみに、よろしく、と頭を下げてから、鞄に入れた。
今日から、我が家の神棚には、マグロのぬいぐるみが鎮座ましまするんだ。
「神様、ありがとう。俺、何もしていないのに。」
神様にお礼を言う。
「小童は、謙遜しなくてもよい。ただ誇ればよい。
志春(しはる)は、思い出を作るために、人の作ったものが溢れる場所に出ようと考えて、実際に出てきた。
志春(しはる)は、頑張った。」
と神様。
神様は、俺の親でも、家族でもない。
俺の友達。
「俺は、今、友達に、頑張りを認められている!めちゃくちゃ嬉しい。」
飛び跳ねたいくらい嬉しい。
神様が肩から落ちたら嫌だから、飛び跳ねないけど。
「今日の思い出は、志春(しはる)に捧げられたものではない。
御守は、志春(しはる)がくれた思い出の礼だ。」
と神様。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
魔法使いと子猫の京ドーナツ~謎解き風味でめしあがれ~
橘花やよい
キャラ文芸
京都嵐山には、魔法使い(四分の一)と、化け猫の少年が出迎えるドーナツ屋がある。おひとよしな魔法使いの、ほっこりじんわり物語。
☆☆☆
三上快はイギリスと日本のクォーター、かつ、魔法使いと人間のクォーター。ある日、経営するドーナツ屋の前に捨てられていた少年(化け猫)を拾う。妙になつかれてしまった快は少年とともに、客の悩みに触れていく。人とあやかし、一筋縄ではいかないのだが。
☆☆☆
あやかし×お仕事(ドーナツ屋)×ご当地(京都)×ちょっと謎解き×グルメと、よくばりなお話、完結しました!楽しんでいただければ幸いです。
感想は基本的に全体公開にしてあるので、ネタバレ注意です。
あやかし警察おとり捜査課
紫音
キャラ文芸
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
※第7回キャラ文芸大賞・奨励賞作品です。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
狐様ご当主のお見合い事情
高城蓉理
キャラ文芸
福岡市中央区大名。
先祖代々、この土地で暮らす三十路の【狐太郎】は狐妖怪の末裔で、普段はしっかりと人間に化けて大学講師をしている。
しかし本来の姿は福岡妖狐グループの次期当主で、料理屋などからあやかし花街の運営まで幅広く事業を展開している裏社会の実力者の息子でもある。
今まで結婚願望は一切なかったが、たまたま意気投合し一夜を共にした人間の【小田部蘭】と身体も心もピッタリの相性だったことをきっかけに、将来を意識しはじめる。
そんな矢先、狐太郎は母親から存在すら知らない許嫁2人の存在を聞かされる。
狐妖怪は寿命が五百年近くあるので、同種同士の結婚が望ましいのだが、
長期間、独り身になるリスクを取っても狐太郎は蘭と添い遂げることを密かに決意。
狐太郎は蘭と真剣交際するために、
蘭には内緒のまま、河童の末裔である親友【正臣】を無理矢理引き連れて、長崎と京都に在住している許嫁の狐妖怪女子の元に婚約破棄を申し出にいく……
のだが、その旅路は波乱に満ちたものだった。
主な登場人物
●狐太郎(33)
先祖代々、福岡の大名に暮らす狐妖怪の末裔。
普段は大学講師として、水質の研究をしている。実は福岡妖狐グループの次期当主で、料理屋などからあやかし花街の運営まで幅広く事業を展開している裏社会の実力者の息子。従業員からは若旦那と呼ばれている。
蘭と交際中で身体の相性がバツグンらしい。
ご先祖様がお世話になった鶴原雁林先生を敬愛している。
●小田部 蘭(23)
明太子メーカーの経理部で働く一般女性。男女交際が続かないのが悩みだったが、狐太郎と性に貪欲な部分で一致し交際している。
●河田 正臣(33)
狐太郎の大学からの友人で、河童の末裔。現在は婚約者の美波と二人で暮らしている。
●高取 美波(23)
蘭の幼馴染みで、同じ明太子メーカーに勤めている一般女性。
正臣とは先祖代々の掟で生まれたときから主従関係にあったが、現在は解消して、晴れて恋人同士。
●胡 雹華(こ ひょうか)
長崎中華街に暮らす九尾狐の末裔で、狐太郎の花嫁候補その一。
●篠崎 梅子
京都に暮らす狐太郎の花嫁候補その二。
●玉藻(年齢不詳)
狐太郎の部下、お世話係、遊び相手を兼務する女性妖狐。
幻影術や薬の調合にも長けている。
※冒頭の雁林さんと狐さんの話は、実際に福岡市にある言い伝えです。
※大人描写には★マークが付いています。
※姉妹作 胡瓜にくびったけ
イラスト いーりす様@studio__iris
神様達の転職事情~八百万ハローワーク
鏡野ゆう
キャラ文芸
とある町にある公共職業安定所、通称ハローワーク。その建物の横に隣接している古い町家。実はここもハローワークの建物でした。ただし、そこにやってくるのは「人」ではなく「神様」達なのです。
※カクヨムでも公開中※
※第4回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる