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第3章 神様に、さようなら、と、ありがとう

13.『御守をやろう。ぬいぐるみを持ち帰って、神棚に置くとよい。』

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神様は、俺の肩に座ったまま。

「神と共にありたいと願うものは、いつの世にもいるが、神と共にあることは、人の身には難しい。その身における命を捨てることになる。」
と神様。

「命を捨てる?死ぬ?」

考えてなかった。

「そうだ。龍神と夫婦になった娘がいたが、娘は、死して召し上げられた。
龍神から離れなければ、彷徨うことはないが、さて、どうなったか。
小童の感情は揺れ動くもの。
いっときの激情で命を手放してはならん。」
と神様。

「ごめん、俺は、死にたいわけじゃない。
一人だと思い知らされながら生きていくのは、辛い。
神様と一緒なら、楽しいのに、って。
神様と離れたくないって、思ったから。」

「小童は、知らぬことがたくさんある。小童とは、そういうもの。」
と神様。

「神様、常世に還っても、話をしたりはできない?

常世に、テレビ電話は、ない?

俺、神様との縁を切りたくない。」

「常世に、人の世のものは入らぬ。
志春(しはる)、ぬいぐるみを一つ、持ち帰るがよい。
志春(しはる)に、御守を授ける。」
と神様。

「ぬいぐるみを通して、神様が話をする?」

お喋りロボット的な?

「ぬいぐるみが話をするのか?」
と神様。

「そういう作りなら。」

「御守は、作られている以上のことはしない。ぬいぐるみが、喋らぬ布なら、御守にしても喋らぬ。」
と神様。

「御守、御守か、ありがとう。神様、一緒に選ぼう。」

俺は、目尻の涙を拭う。

観覧車は、もうすぐ、出発点につく。

「神様、扉が開いたら、降りるから。」

係員の人が、扉を開ける。

俺は、ありがとう、と言って、外に出た。

神様と俺、二人分のありがとう。

神様は、俺の肩の上で、バランスを崩さない。

「志春(しはる)。売店へ。」
と神様。

俺は歩きながら、肩に座っている神様に話しかける。

「今日は、人生で初めて、ぬいぐるみを買う日。」

今まで、ぬいぐるみに関心を持ったことなんて、なかったから。

丸っこい形のぬいぐるみなら、投げて遊んだけど。

「ぬいぐるみは、好まぬのか?柔らかい物体でも構わぬ。」
と神様。

「柔らかい?塩化ビニール製の人形?」

「塩化ビニールというのか。
御守は、布でなくても構わぬ。
持ち帰って、普段は神棚に置くとよい。
不安なときは、一緒に過ごすとよい。
小童には、御守がよく効く。」
と神様。

「丈夫で、長持ち、壊れにくそうな素材の方がいい?」

「志春(しはる)が愛着を持てるものがよい。御守は飾るためではなく、志春(しはる)のためになるもの。」
と神様。

俺と神様は、売店のぬいぐるみ売り場で、吟味した。

エイ、ウツボ、タコ、イカ、カニ、イルカ、オットセイ、クラゲ、ペンギン。

色々あったけれど。

「これかな。」
俺は、綿がぎっしりつまっていて、ずっしりと重い、流線型のフォルムのぬいぐるみを手に取る。

「良かろう。」
と神様。

レジで支払いを済ませて、店を出る。

神様に言われて、ぬいぐるみを両手で捧げ持つ。

神様は、俺の肩から降りると、ぬいぐるみに仁王立ちした。

「マグロよ、志春(しはる)の御守となれ。」
と神様。

神様は、うむ、と満足して、俺の肩に戻り、腰をおろす。

「志春(しはる)。今、マグロのぬいぐるみは、志春(しはる)の御守となった。
安心して、達者で暮らすとよい。」
と神様。

俺は、御守となった、マグロのぬいぐるみに、よろしく、と頭を下げてから、鞄に入れた。

今日から、我が家の神棚には、マグロのぬいぐるみが鎮座ましまするんだ。

「神様、ありがとう。俺、何もしていないのに。」

神様にお礼を言う。

「小童は、謙遜しなくてもよい。ただ誇ればよい。

志春(しはる)は、思い出を作るために、人の作ったものが溢れる場所に出ようと考えて、実際に出てきた。

志春(しはる)は、頑張った。」
と神様。

神様は、俺の親でも、家族でもない。
俺の友達。

「俺は、今、友達に、頑張りを認められている!めちゃくちゃ嬉しい。」

飛び跳ねたいくらい嬉しい。

神様が肩から落ちたら嫌だから、飛び跳ねないけど。

「今日の思い出は、志春(しはる)に捧げられたものではない。

御守は、志春(しはる)がくれた思い出の礼だ。」
と神様。
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