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第1章 神様をお見送りに行こう

2.神様との出会い

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俺の大学生活は、小中高と比べて、一番楽しかった。

大学行って良かった、と自信を持って言える。

でも、就職活動に苦戦し過ぎて、人の作ったものを見るのが嫌になったんだ。

引きこもれば、人に会わなくてもなんとかなる。

人の作ったものがない場所に行きたい、と考え始めたときに。

俺は、もう限界なんだ、と自分で気がついた。

それから、周りに人が住んでいなくて、安全な物件を探した。

人が作ったものから離れるには、人のいないところに行くしかない、と思った。

やっと見つけたのが、我が家。

人気がない場所は、犯罪の現場にもなりかねない。

吟味に吟味して、見つけた我が家は、傷みが少なかった。

内装も、家具も、問題なく使える。

家具は、運び出しても、処分が大変だから、と、家具付き。

備え付けの家具が、今では珍しい黒壇(こくだん)。

使わないなんて、考えられない。

黒壇(こくだん)の家具は、この家にお嫁さんに来た人の嫁入り道具だったのかな。


前の持ち主は、家族で行楽がてら、たまに、家の手入れに来ていた。

俺が家を探していた時期と、
子ども世代が巣立って、使うこともなくなったから、朽ちるままにしてもいいけど、朽ちる前に手放してもいいかな、と、前の持ち主が考えた時期が、うまい具合に重なった。

俺は、家の中を見てみたいと頼んで、家の中を歩き回っていた。

『あれ?上の方に何かある?』

俺は、椅子を引っ張ってきて、椅子の座面に立って、上の方にあった棚をよく見てみた。

何かを祀っていたっぽい?

御札があったのかな?

よく分からないから、顔を近づけてみる。

俺の接近に気づいていた神様と、俺の顔は真正面から向かい合った。

住む人がいなくなって、遊びにくる人もいない家の神棚で、引き込もっていた神様の真ん前にある俺の顔。

人の気配がしたと神様が思ったときには、俺が覗きこんでいた。


それが、俺と神様の出会い。

『いたずら好きな小童だと思ったから、驚かしてやることにした。』
と神様。

『初めて見たから、何かと思ったんだ。』

家の中に、一寸法師がいたら、観察するしかないと思うんだ。

『神の家だと思って、手入れをして、供え物をするとよい。神の家がある家も守ってやろう。』

神様が神棚に住んでいる期間。

俺は、ご飯やお水を神棚の神様に捧げ、神様は、神棚から家を守ってくれることになった。

ギブ・アンド・テイク?

神様は、お酒のお供えも嬉しいというから、神様に捧げた残りを俺が飲む。

神様と飲み交わすお酒が、今まで飲んだお酒の中で、一番美味しかった。

紙パックのお酒を買って、コップに注ぐ。
一柱と一人で、酒盛り。

酒盛りをするときは、神様は、テーブルの上におりてきて、あぐらをかく。

日本酒だけじゃなく、神様のコップにワインと炭酸を混ぜたら、神様は面白がっていた。

『小童は、昔から、いたずらするもの、と、相場が決まっている。』

『小童から、離れない?
酒を飲み交わしているんだから、大人だよ。』

俺が、お酒とオツマミを用意すると。
神様は、神棚から出てきて、俺の手の甲に乗ってくる。

俺と神様は、差し向かいで、ちびちびと酒を舐めるように飲みながら、話に花を咲かせる。

『人の作った作品が見える場所にいるのが、耐えられなくなって、山のふもとに、家を探していたら、神様がいた。
俺、神様がいる家に住めてよかった。』

『そうか。』
と神様。

『家の中で、のんびりできる。サイコー!』

『ははは。』
神様は、お酒を飲んで、機嫌よく笑っていた。
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