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第1章 学校編

第2話〜学校にゴブリンが現れた〜

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廊下を見るとゴブリンが再び動き出していた。。

ゴブリンは各教室を覗きながら女子を獲物として狙っているようだ。奴が教室の近くを通るたびに悪臭がする。泣き叫び、失禁してしまっている子までいた。

見たことのない緑色の皮膚はただれているし、廊下に漂う悪臭でこれが現実だと思い知らされる。

足音がして階段を見ると、体育教師2人がさすまたを持って1人は前からもう1人は背後から近づいていた

前にいる教師が牽制するとゴブリンは後ろへ下がり、そこをすかさず後ろにいた教師が取り押さえた。

しばしの沈黙の後に歓喜の声があがった。
「や、やった!!」

みんな恐怖から解放されて安堵の表情になった。
だが次の瞬間、最悪の出来事が起きた。

体育教師が押さえつけていた手の力を緩めてしまったのだ。この一瞬でゴブリンは隠し持っていた毒が塗ってあるナイフで体育教師2人を刺した。

血しぶきがあがって体育教師は2人とも倒れた。
もうピクリとも動かない。

死んでしまったのだ。

「きゃあぁぁぁ!」
「誰か助けて、、、」
「こっち来んなよ!見つかるだろ!」

人の死ぬ瞬間を初めて見た生徒たちはパニック状態になってしまった。

そしてゴブリンは獲物にする女を決めたようだった。こちらへ真っ直ぐに向かってくる。

ゴブリンに選ばれたのは不破はるだった。彼女はクラスでも人気があり、学校の人気トップ3に入るレベルなのだ。

不破の友達は駆け寄ろうとしたが、腰が抜けて動けないらしくその場にぺたんと座り込んでいた。
他の女子生徒は自分ではなかったことに安堵している様子だったが、僕はそれどころではない。
どうすれば不破を助けられるのか…普段ゲームでしか使わない頭をフル回転して考えていた。

倒す?でも武器がない。毒の塗ってあるナイフに切りつけられれば待っているのは…死だ。
交渉してみるか?いや、ゴブリンに言葉が通じる場面をアニメでも漫画でも見たことがない。無理だ。
それに時間を稼ぐのが関の山だろう。

こんなことを思っている間にゴブリンは不破を値踏みするようにニヤニヤしながらゆっくりと僕と僕の後ろにいる不破のもう、すぐ近くまで来ていた。

不破とゴブリンの間に割って入るように立っている僕に不破はすぐにでも助けてと言いたいはずだろうに、何も言わなかった。
そして、声を押し殺して泣いていた。
そういえば、不破が泣いているところを初めて見た気がする。

その時、さっきの男が言っていたことを思い出した。
「そうか。スキルだ」
僕は必死で頭の中に思い浮かべた。
すると、頭の中に文字が浮かび上がった。


異能力:神殺し

スキル:雷魔法


もし、これが漫画に出てくるような力ならゴブリンを倒せる。そう思った僕は近づいてきたゴブリンに対して右手を前に突き出す形で狙いを定めて言った。

「"神殺しんさつ"」

そう言った途端、ゴブリンの身体はまるで大きな鎌で半分にしたように両断された。
プシュッと濁った赤色の血しぶきをあげる。
一瞬でゴブリンはピクリとも動かなくなった。

不破と武蔵だけではない、それを見ていたクラス全員が目を丸くしていた。
もちろん、1番びっくりしたのは僕である。
そして、しばらくの沈黙を破ったのは僕の親友である武蔵だった。

「白蘭すごいな!どうやったんだよ!!」

「えっと…強く念じたら頭の中に異能力とスキルっていうのが思い浮かんで思った通りの力を使えたんだ」

僕はみんなを混乱させないようにできるだけ冷静に言って、こう続けた。

「みんなも頭に思い浮かべてみてくれないか?そして何が思い浮かんだか教えて欲しい」

「おぉ!異能力"宮本武蔵の化身"だってさ!」

「わ、私も!スキル"浮遊"って思い浮かんだよ」

最初に声をあげてくれたのは武蔵と不破だった。
どんな力なのか知りたいが、それはまた今度でいい。僕は続けた。

「他のみんなはどう?」

僕の言葉に対して誰かが呟くようにこう言った。

「思い浮かんだとしてなぜ、それを八神君に教えないといけないの?それになんで八神君はそんなに冷静でいられるの…?」

この言葉にクラスメイトである鎧塚朱香も続いた。

「思い浮かんだとしてこれからどうするのよ!先生も死んじゃったのに」

彼女も混乱しているのだろう。教師2人が死ぬところを目の当たりにしたのだ。何もおかしくはない。
逆になぜ自分がこんなにも冷静でいられるのか不思議なくらいだ。

「えっと…この状況を打開するにはみんなの異能力かスキルを使って協力しないといけないと思うんだ」

僕の言葉に武蔵が続いた。
「白蘭の言う通りじゃないのか?早く教えろよ」

「武蔵、落ち着いて」
強い口調で言う武蔵を不破が抑える。

そんな武蔵に対して朱香も引かずに言い返す。
「じゃあなんで自分の情報は何も言わないのよ!
さっきのはなんなの!それに、なんで現実にあんな
化け物がいるのよ…
先生も死んじゃって本当にどうするのよ…」

なるほどたしかに自分のをまだ言っていなかったな。
しかしスキルの雷魔法はまだわかる。
うん。でもなんなんだよ異能力の"神殺し"って……
僕は、とりあえずこの見るからに危険そうな異能力のことは伏せて話すことにした。

「僕のスキルは雷魔法だよ」

僕がスキルを明かしたことに少し驚いた様子だったが、少し落ち着いたようだ。
しばらくの沈黙の後、泣き止んでから朱香は言った。
「私のスキルは武器生産って出てるわ」

武器生産?そのままの意味なのだろうか。
まぁ、それもそのうちわかるはずだ。

「先生のことは本当に残念だし、悲しい。
でも、もし仮にあの男の言っていることが事実なら、僕らはこれから先を考えないといけないと思うんだ。鎧塚さん、異能力のこと教えてくれてありがとう」

「こちらこそまだお礼を言っていなかったわ。あの
ゴブリン倒してくれてありがとう」

朱香は落ち着きを取り戻したのか、冷静になってから鼻をすすりながらお礼を言ってくれた。

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「なにがあったんだ?」

落ち着くような低い声でそう言ったのは騒ぎを聞いて駆けつけて来た3年生の生徒会長だった。
生徒会長が何も知らないということはドッキリというわけではなさそうだ。
僕はことの成り行きを生徒会長と会長の隣にいた身長が低めの女の人に話した。恐らく1年生で生徒会メンバーなのだろう。見習いたいこの立派さ。

すると、生徒会長が
「脳内に響くような例の声が聞こえた後、俺もスキルと呼ばれるものを使えるようになった。そしてここへ来る前に職員室へ行ってみたのだが…」

ここで会長の表情が曇った。それから僕に耳打ちするように小さい声で言った。

「職員室についた頃には教師は全員死亡していて、
 清掃員や事務員は既にいなかった。恐らく全員逃げ出したのだろう」

「えっ…」
僕はまた心の声が出てしまっていた。

それから会長は再びみんなの方へと向いた。

「職員室や廊下に魔物と呼ばれるような生物が湧いていたのでスキルを試すのも兼ねて倒してきた。
この目に慣れるのに少しだけ苦労したがな」

会長からの予想外の言葉につい本音が出た。
「まじか…あの化け物をついで感覚で倒したのか」 

まぁ生徒会長もスキルを使えること知ってたみたいだし、学校菜園用のナタを片手に持っていることを考えると確かに、と思った。

「あれは恐らくRPGゲームなどでゴブリン、そしてホブゴブリンと呼ばれる魔物の類だと思われます」 
会長の隣にいた女の人がようやく口を開いた。

僕は急に口を開いた彼女に少し驚きつつも
「君もゲーム好きなの?」と聞いた。
するとその子は言った。

「私は生徒会副会長の3年、北条虚です」

おっとまさかの年上だった。しかも副会長…背が低いから1年生だと思ってタメ口をきいてしまった。

「すみません!身長が低かったので1年生かと思ってしまいました!」
僕は勢いに任せて全力の土下座をした。

「身長が低いは余計ですが、かまいませんよ。では2-1の皆様も体育館へお集まりください。八神さんは私たちと一緒に来てください」

副会長さんは気にしていない様子でクラス全体に体育館へ行くよう呼びかけた。
それから会長と副会長となぜか僕の3人で全学年の全てのクラスを回り、体育館へ向かうよう促した。
幸いにももうこの学校内に魔物はいないみたいだ。


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