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Extra Episode
春の夕方、横須賀線で 5
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鎌倉駅の一つ手前の北鎌倉駅でも、それなりの数の観光客がおりてゆく。円覚寺、建長寺、明月院あたりの仏閣めぐり組と、鎌倉山のハイキングコースを目当てにきている登山組である。
二人は北鎌倉駅でおりると、観光客の流れにまざって寺院の一つへと歩いた。観光名所でもあるその寺院の裏山にある墓地が、飛豪の父と藤原の眠っている場所である。
日本文化と禅宗にかぶれた父親が、他界するかなり前から買っていたという「お気に入りの墓地」だという。
――「お気に入りの墓地」って何だよ、っていつも思うな。そこに入りたくて早死にするくらいなら、さっさと再婚でもして長生きしてほしかったっていうのが、肉親としての本音だ。
飛豪の父は妻と別れてからの十数年間、独り身をとおした。毎年夏休み――南米大陸では冬休み――は、父親のもとに行って二週間ほど一緒に過ごすのが通例だったが、息子には、墓の準備をしていたことなど、なに一つ伝えないまま世を去っていった。
墓のことや、妻と別れたあとも愛しつづけていたこと、息子の将来を楽しみにしていたが、息子が成長すると同時に自分の生にはゆるやかに絶望を深めていったこと……後になってから、飛豪はすべて藤原から聞かされた。
電話も頻繁にしていたし、夏に会うときは毎晩遅くまで話しこんでいたのに、自分は肝心なことを知らされていなかった、と最初は愕然としてしまった。とはいえ飛豪としても、学部を卒業した年の事件とその後の経緯については、父親にだけは知られたくないと思っていたので、父と息子の関係も案外難しいものなのかもしれない。
今日は、彼女を紹介するつもりで訪れている。
二か月前の藤原の葬式でも父の墓に彼女を案内したが、あの時は人も多かったし、落ちついて話しかける時間もなかった。今日はようやく自分たちだけで会いにこれたのに、電車をおりる少し前から彼女の顔色がすぐれないのが気にかかっていた。
――ひょっとして、今日ぐらいは家で休みたかったのに無理をさせたか。それとも、俺がベッドに侵入したせいで疲れがとれなかったとか。久しぶりの外デートが墓参りなのが、実は嫌だったとか。……どれだ?
思いあたる節がたくさんあるので正解がだせない。
とにかく最初の用事を終えたら、あとは瞳子と楽しくすごすつもりだった。就職活動のプレッシャーが日々かかっている彼女に、少しでも気分転換をしてもらいたかった。
二人は北鎌倉駅でおりると、観光客の流れにまざって寺院の一つへと歩いた。観光名所でもあるその寺院の裏山にある墓地が、飛豪の父と藤原の眠っている場所である。
日本文化と禅宗にかぶれた父親が、他界するかなり前から買っていたという「お気に入りの墓地」だという。
――「お気に入りの墓地」って何だよ、っていつも思うな。そこに入りたくて早死にするくらいなら、さっさと再婚でもして長生きしてほしかったっていうのが、肉親としての本音だ。
飛豪の父は妻と別れてからの十数年間、独り身をとおした。毎年夏休み――南米大陸では冬休み――は、父親のもとに行って二週間ほど一緒に過ごすのが通例だったが、息子には、墓の準備をしていたことなど、なに一つ伝えないまま世を去っていった。
墓のことや、妻と別れたあとも愛しつづけていたこと、息子の将来を楽しみにしていたが、息子が成長すると同時に自分の生にはゆるやかに絶望を深めていったこと……後になってから、飛豪はすべて藤原から聞かされた。
電話も頻繁にしていたし、夏に会うときは毎晩遅くまで話しこんでいたのに、自分は肝心なことを知らされていなかった、と最初は愕然としてしまった。とはいえ飛豪としても、学部を卒業した年の事件とその後の経緯については、父親にだけは知られたくないと思っていたので、父と息子の関係も案外難しいものなのかもしれない。
今日は、彼女を紹介するつもりで訪れている。
二か月前の藤原の葬式でも父の墓に彼女を案内したが、あの時は人も多かったし、落ちついて話しかける時間もなかった。今日はようやく自分たちだけで会いにこれたのに、電車をおりる少し前から彼女の顔色がすぐれないのが気にかかっていた。
――ひょっとして、今日ぐらいは家で休みたかったのに無理をさせたか。それとも、俺がベッドに侵入したせいで疲れがとれなかったとか。久しぶりの外デートが墓参りなのが、実は嫌だったとか。……どれだ?
思いあたる節がたくさんあるので正解がだせない。
とにかく最初の用事を終えたら、あとは瞳子と楽しくすごすつもりだった。就職活動のプレッシャーが日々かかっている彼女に、少しでも気分転換をしてもらいたかった。
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