青柳さんは階段で ―契約セフレはクールな債権者に溺愛される―

クリオネ

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《第5章》 ロットバルトの憂鬱

逃げた男

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 そう、あの土曜の夜から水曜日の今に至るまで、彼と顔を合わせていない。

 最後、飛豪もかなり怒っていた。

 よりによって、あの借金とりみたいだと言ったことで彼は深く傷ついた表情をして、次の瞬間、激昂した。全身の産毛がそそけ立つほどに、稲妻のような強い感情が肌を走っていった。

 そして、体がバラバラになってしまうような勢いで犯された。

 擦れたところから出血し、ねじこまれ、突き上げられた奥が痛み、鷲掴みにされた胸には爪痕がくっきりと残るほどで――最後、彼がまだ中にいるまま瞳子は意識を失っていた。おそらく、気絶してからもしばらく体を使われていたに違いない。竜巻に巻きあげられたような烈しさだった。

 翌日に目が覚めたときの重い気だるさは、今までの比ではなかった。

 汗と体液にまみれていたために、眠っているはずなのに寝苦しく気持ちも悪かった。いくつもの関節に鈍い痺れが残っていたし、喉もひび割れて痛んでいた。

 知らぬ間に彼の部屋から自室へと運ばれていた。午後遅くにようやくベッドから這いだしてリビングへと出ると、しんとした薄暗さが出迎えた。その静けさから、彼が昨晩のうちに家を出ていったのだと悟った。

 夜になってシャワーを浴びたとき、瞳子は自分が彼の大きなTシャツを着ていたことにようやく気づいた。彼はどんな気持ちで着せてくれたのだろう。想像すると悲しくなった。

「意味分かんない。瞳子があの人追い出したの?」

 奈津子はオムライスを終わらせながら単刀直入に訊いてくる。

「まさか、違うって!」

「だよねー。ケンカの原因は?」

「……ちょっと言えない。言いたくない」

 瞳子は穏やかに拒絶した。話をはじめたら、そこは絶対に避けては通れないポイントだと分かっていた。

 しかし、自分だけでなく彼の領域でもある。仲の良い友人でも、あのやり取りをさらけ出せるほど赤裸々になれなかった。

 奈津子はさして気にせず、次の質問に進む。

「メールは?」

「最低限してる。日曜日に『どこいるんですか?』って送ったら、『しばらく忙しい』って返信がきた」

「嘘じゃんそれ」

「そうなの。見え見えなのが腹立つ」

「『いつ帰ってくるんですか?』って訊いた?」

「もちろん。そしたら、『落ち着いたら』ってレスきてさ。まじムカつくでしょ」

「あはははは!」奈津子はなぜか笑いはじめた。それが、瞳子のグチに燃料投下する。

「しかもね昨日なんて、どうせ家帰っても一人だから、四限後に吉祥寺ブラブラしてたの。そしたら八時半過ぎにメール来て、『学生が遅くまで遊んでんな。さっさと家帰れ』って。あの人、わたしの居場所GPSで監視してるんだよ。わたしには言ってくるくせに自分は全然帰ってこないし!」

「それは腹立つわ。あと、プライバシーって単語も教えてやりなよ」

 冷静に奈津子が返すと、瞳子の口調がくすぶっていった。その顔は怒っているようにも泣きだしそうにも見える。どうやらこの四日間、相当に心細く、同時に鬱憤も溜まっていたらしい。

「わたしだって飛豪さんのプライバシー、ちゃんと守ってるのに」

「え、何それ?」

「だってそもそも、あの人のアブノーマル・セッ……」

 彼女は慌てて口を塞いだ。友人と飛豪のセフレ関係を最初に聞かされていた奈津子としては、それだけで分かる。完全に瞳子の自爆だった。

 ――あら、珍しい。

 奈津子が知るかぎり、彼女がここまで感情をむき出しにすることは年に一回あるかないかだ。いつもは奈津子が部活のグチをぶち上げて、瞳子が聞き役になって宥めたりアドバイスをくれることの方が多い。

 我にかえった彼女は、恐るおそる、という上目遣いで奈津子をうかがってきた。

「ナコちゃん、聞こえた?」

「バッチリ」

「この事、他の人には絶対に黙ってて。あと、いつか次に飛豪さんに会ったときも言わないで」

「分かってるって」

 誰も叱ってなどいないのに、しゅんとして反省している。

 この年上の友人が、奈津子には実家の妹の姿と重なってくる。可笑しくて、奈津子はこみ上げてくる笑いをこっそりと嚙みころした。それはさておき――。

「あの人とケンカできる瞳子がすごいと思うけどね」

 奈津子は、アイスコーヒーをしみじみと味わいながら感想を述べた。瞳子は、意外そうに首をかしげる。

「どうして?」

「あの人、一〇歳年上でしょ。年齢もそうだけど……見た目? ガタイが良いっていうか、イカツイっていうか、土木工事の現場系っていうか、迫力あるっていうか。話せばソフトで感じいい人なの分かるけど、圧も強そうじゃん? あの手のタイプに凄まれて平気でポンポン言いかえせる人って、そんないないと思うよ。怖くないの?」

「怒ると怖いけど、普段はそんなことない。ちゃんとわたしのこと考えてくれてるし」

「でも私、あの人怒らせるの絶対にイヤ! 瞳子には寛容でも、それ以外の人には、理詰めでグゥの音もなく押しこんできそうじゃん。無自覚に腕力もちらついてるしさ」

「寛容? わたしに? 全然違うよ。この一か月で小姑みたいな細かいこと、けっこう言われてるもん」

 憤った瞳子は、さも不満ありげだった。
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