上 下
73 / 192
《第5章》 ロットバルトの憂鬱

その夜の嵐1 ☆

しおりを挟む
 瞳子を抱きあげて自分の部屋に連れていく。

 ベッドに横たえると、飛豪はじっと見下ろした。おそれと、切望が溶けあった複雑な気配が、彼女の全身を取りまいていた。

 着ていたTシャツを脱ぎすてると、彼女の体の両脇に膝をついた。黒く大きな影に瞳子の全身がつつまれる。彼女は恐怖を呑みくだすように小さく喉をならした。

「ごめんな。今日は君のこと、すごくいじめたい気分」

「いいよ。好きにして」

 覚悟を決めたように、瞳子は答えた。彼女の表情は、あの時――最初、麻布の非常階段で向かいあった時――と同じ、奇妙な恍惚をたたえていた。嵐の時間がはじまるというのに、諦めきった落ちつきだった。

「あの……」おずおずと彼女が口をひらく。

「ん?」

「お願い。してる時だけ、ちょっとだけ飛豪さんのこと好きでいさせて。わたし、怖いことされるなら、好きな人にされてるって思いたいの。そう思わないと、やっぱり逃げだしたくなるの。それ以上は望まないから」

 思いつめたように言った瞳子は、ひどく真剣な顔をしていた。飛豪は、虚をつかれたように押し黙った。

「…………」

「ダメですか?」

「ダメも何も……好きにしたらいい。君の心のなかのことだ」

「お言葉に甘えて、今だけ好きでいます」

 苦しげに微笑んで、彼女は飛豪の腕にそっと触れてきた。

 彼女のあたたかい手のひらと、自分の冷えきった皮膚。この温度差はなんだろう。考えはじめたら、とてもじゃないが続けられない気がした。

 頭をひとつ振る。衝動に身をゆだねるしかない。一刻も早く、この白い身体を揺さぶって、叫ばせたかった。

 彼女の恐怖を味わうと心が満たされるのだ。ひょっとしてもう、彼女じゃないとダメになっているのかもしれない。

 人間の血の味をおぼえたドラキュラのような飢餓感がしていた。渇き、とも言う。焼けた鉄板の上を歩いている心地がする。なにせ、この一か月我慢していたのだ。

 親指と人差し指でつかんでも、余裕であまる細い手首。無造作につかみあげると、飛豪はシーツに強く押しつけた。

 蝶の標本のようにベッドに縫いつけられた瞳子は、彼から目をそらさなかった。これから彼女は、人間ではなく物体になる。

 服を剝ぎとって裸にする。

 愛撫もなく、猟奇的な衝動のまま突き入れた。下半身を乗りあげて体重をかけ、逃げられなくしたうえで乱暴に乳房を掴んだ。それでも頂の突起はくっきりと立ち上がっていて、彼女の喉からは嬌声めいたものが絞りだされた。

 犬のように四つん這いにしたり、彼女の関節が柔らかいのをいいことに無理な姿勢をとらせて、奥へ奥へとただ腰を押しすすめていく。そのうちに、体に亀裂が入ってしまいそうな勢いだった。

 耳殻をしゃぶって聴覚も犯していくと、瞳子は耐えかねて顔を大きく歪ませた。涙にまみれたぐしゃぐしゃの顔。

 ――この顔がいい。

 露わになったうなじに犬歯をつきたてる。手荒に扱いたいんじゃない。人が、生き物が、恐怖と苦痛にまみれている顔を見たいだけだ。

 彼女は痛がっている。

 粘膜や体液が内側を守るようにかろうじて湿らせているが、快感が圧倒的に足りていない。怯えきった入り口が徐々にすぼまっていくので、結合部が乾いて軋んでいく。自分もひりつくように痛い。

 でも、必要な行為だった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

【完結】もう二度と離さない~元カレ御曹司は再会した彼女を溺愛したい

魚谷
恋愛
フリーライターをしている島原由季(しまばらゆき)は取材先の企業で、司馬彰(しばあきら)と再会を果たす。彰とは高校三年の時に付き合い、とある理由で別れていた。 久しぶりの再会に由季は胸の高鳴りを、そして彰は執着を見せ、二人は別れていた時間を取り戻すように少しずつ心と体を通わせていく…。 R18シーンには※をつけます 作家になろうでも連載しております

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

クールな御曹司の溺愛ペットになりました

あさの紅茶
恋愛
旧題:クールな御曹司の溺愛ペット やばい、やばい、やばい。 非常にやばい。 片山千咲(22) 大学を卒業後、未だ就職決まらず。 「もー、夏菜の会社で雇ってよぉ」 親友の夏菜に泣きつくも、呆れられるばかり。 なのに……。 「就職先が決まらないらしいな。だったら俺の手伝いをしないか?」 塚本一成(27) 夏菜のお兄さんからのまさかの打診。 高校生の時、一成さんに告白して玉砕している私。 いや、それはちょっと……と遠慮していたんだけど、親からのプレッシャーに負けて働くことに。 とっくに気持ちの整理はできているはずだったのに、一成さんの大人の魅力にあてられてドキドキが止まらない……。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

処理中です...