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《第5章》 ロットバルトの憂鬱
その夜の嵐1 ☆
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瞳子を抱きあげて自分の部屋に連れていく。
ベッドに横たえると、飛豪はじっと見下ろした。怖れと、切望が溶けあった複雑な気配が、彼女の全身を取りまいていた。
着ていたTシャツを脱ぎすてると、彼女の体の両脇に膝をついた。黒く大きな影に瞳子の全身がつつまれる。彼女は恐怖を呑みくだすように小さく喉をならした。
「ごめんな。今日は君のこと、すごくいじめたい気分」
「いいよ。好きにして」
覚悟を決めたように、瞳子は答えた。彼女の表情は、あの時――最初、麻布の非常階段で向かいあった時――と同じ、奇妙な恍惚をたたえていた。嵐の時間がはじまるというのに、諦めきった落ちつきだった。
「あの……」おずおずと彼女が口をひらく。
「ん?」
「お願い。してる時だけ、ちょっとだけ飛豪さんのこと好きでいさせて。わたし、怖いことされるなら、好きな人にされてるって思いたいの。そう思わないと、やっぱり逃げだしたくなるの。それ以上は望まないから」
思いつめたように言った瞳子は、ひどく真剣な顔をしていた。飛豪は、虚をつかれたように押し黙った。
「…………」
「ダメですか?」
「ダメも何も……好きにしたらいい。君の心のなかのことだ」
「お言葉に甘えて、今だけ好きでいます」
苦しげに微笑んで、彼女は飛豪の腕にそっと触れてきた。
彼女のあたたかい手のひらと、自分の冷えきった皮膚。この温度差はなんだろう。考えはじめたら、とてもじゃないが続けられない気がした。
頭をひとつ振る。衝動に身をゆだねるしかない。一刻も早く、この白い身体を揺さぶって、叫ばせたかった。
彼女の恐怖を味わうと心が満たされるのだ。ひょっとしてもう、彼女じゃないとダメになっているのかもしれない。
人間の血の味をおぼえたドラキュラのような飢餓感がしていた。渇き、とも言う。焼けた鉄板の上を歩いている心地がする。なにせ、この一か月我慢していたのだ。
親指と人差し指でつかんでも、余裕であまる細い手首。無造作につかみあげると、飛豪はシーツに強く押しつけた。
蝶の標本のようにベッドに縫いつけられた瞳子は、彼から目をそらさなかった。これから彼女は、人間ではなく物体になる。
服を剝ぎとって裸にする。
愛撫もなく、猟奇的な衝動のまま突き入れた。下半身を乗りあげて体重をかけ、逃げられなくしたうえで乱暴に乳房を掴んだ。それでも頂の突起はくっきりと立ち上がっていて、彼女の喉からは嬌声めいたものが絞りだされた。
犬のように四つん這いにしたり、彼女の関節が柔らかいのをいいことに無理な姿勢をとらせて、奥へ奥へとただ腰を押しすすめていく。そのうちに、体に亀裂が入ってしまいそうな勢いだった。
耳殻をしゃぶって聴覚も犯していくと、瞳子は耐えかねて顔を大きく歪ませた。涙にまみれたぐしゃぐしゃの顔。
――この顔がいい。
露わになったうなじに犬歯をつきたてる。手荒に扱いたいんじゃない。人が、生き物が、恐怖と苦痛にまみれている顔を見たいだけだ。
彼女は痛がっている。
粘膜や体液が内側を守るようにかろうじて湿らせているが、快感が圧倒的に足りていない。怯えきった入り口が徐々にすぼまっていくので、結合部が乾いて軋んでいく。自分もひりつくように痛い。
でも、必要な行為だった。
ベッドに横たえると、飛豪はじっと見下ろした。怖れと、切望が溶けあった複雑な気配が、彼女の全身を取りまいていた。
着ていたTシャツを脱ぎすてると、彼女の体の両脇に膝をついた。黒く大きな影に瞳子の全身がつつまれる。彼女は恐怖を呑みくだすように小さく喉をならした。
「ごめんな。今日は君のこと、すごくいじめたい気分」
「いいよ。好きにして」
覚悟を決めたように、瞳子は答えた。彼女の表情は、あの時――最初、麻布の非常階段で向かいあった時――と同じ、奇妙な恍惚をたたえていた。嵐の時間がはじまるというのに、諦めきった落ちつきだった。
「あの……」おずおずと彼女が口をひらく。
「ん?」
「お願い。してる時だけ、ちょっとだけ飛豪さんのこと好きでいさせて。わたし、怖いことされるなら、好きな人にされてるって思いたいの。そう思わないと、やっぱり逃げだしたくなるの。それ以上は望まないから」
思いつめたように言った瞳子は、ひどく真剣な顔をしていた。飛豪は、虚をつかれたように押し黙った。
「…………」
「ダメですか?」
「ダメも何も……好きにしたらいい。君の心のなかのことだ」
「お言葉に甘えて、今だけ好きでいます」
苦しげに微笑んで、彼女は飛豪の腕にそっと触れてきた。
彼女のあたたかい手のひらと、自分の冷えきった皮膚。この温度差はなんだろう。考えはじめたら、とてもじゃないが続けられない気がした。
頭をひとつ振る。衝動に身をゆだねるしかない。一刻も早く、この白い身体を揺さぶって、叫ばせたかった。
彼女の恐怖を味わうと心が満たされるのだ。ひょっとしてもう、彼女じゃないとダメになっているのかもしれない。
人間の血の味をおぼえたドラキュラのような飢餓感がしていた。渇き、とも言う。焼けた鉄板の上を歩いている心地がする。なにせ、この一か月我慢していたのだ。
親指と人差し指でつかんでも、余裕であまる細い手首。無造作につかみあげると、飛豪はシーツに強く押しつけた。
蝶の標本のようにベッドに縫いつけられた瞳子は、彼から目をそらさなかった。これから彼女は、人間ではなく物体になる。
服を剝ぎとって裸にする。
愛撫もなく、猟奇的な衝動のまま突き入れた。下半身を乗りあげて体重をかけ、逃げられなくしたうえで乱暴に乳房を掴んだ。それでも頂の突起はくっきりと立ち上がっていて、彼女の喉からは嬌声めいたものが絞りだされた。
犬のように四つん這いにしたり、彼女の関節が柔らかいのをいいことに無理な姿勢をとらせて、奥へ奥へとただ腰を押しすすめていく。そのうちに、体に亀裂が入ってしまいそうな勢いだった。
耳殻をしゃぶって聴覚も犯していくと、瞳子は耐えかねて顔を大きく歪ませた。涙にまみれたぐしゃぐしゃの顔。
――この顔がいい。
露わになったうなじに犬歯をつきたてる。手荒に扱いたいんじゃない。人が、生き物が、恐怖と苦痛にまみれている顔を見たいだけだ。
彼女は痛がっている。
粘膜や体液が内側を守るようにかろうじて湿らせているが、快感が圧倒的に足りていない。怯えきった入り口が徐々にすぼまっていくので、結合部が乾いて軋んでいく。自分もひりつくように痛い。
でも、必要な行為だった。
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