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《第5章》 ロットバルトの憂鬱
嫉妬とダダっ子
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彼と一緒にいると、時々子供がえりのように幼くなってしまう。
引っ込めようとしても幼い自分が居座ってダダをこねてしまうので、最近とみに持てあまし気味である。それもあって家では必要以上の会話をすまいと心がけていたのに、密室の車だとそうはいかない。
瞳子はうなだれて、ふつりと口を閉ざした。その自己嫌悪を感じとったのか、彼は少しの思案ののち、もったいをつけた口調で話しかけた。
「機嫌悪くしてる君に、一つ教えてあげよう。別れ際の、俺とナッコの最後の会話聞こえたか?」
「いいえ」彼女は首を振る。
「あの時、ナッコが確認したんだよ。『なにかあったら連絡ほしいっていうのは、瞳子になにかあった場合ですよね?』って」
「…………」
「俺は、『もちろん。もう全部知ってるんだろ』と答えた。俺と彼女があれこれ話すとしたら、話題は君についてだけだ」
「けど、二人ともすごく仲良さそうで。初対面だったのに」
なおも言い募ってしまう瞳子に、飛豪はわざと大げさな溜息をついてみせた。
「言っとくけど、余計なこと考えるなよ。俺はナッコみたいなタイプと付き合ったことはない。かと言って、君みたいな特異なタイプとも付き合ったことなかったけど」
安心させるために言われたであろう言葉は、余計に心中を波立たせていく。
――じゃあ、過去にどういう女性と一緒にいたんですか? 今はどうしてわたしなんですか? ナコちゃんじゃなくても、この先、好きな女性が他に現れたら、わたしのこと、どうするつもりですか?
心中の嵐を知らずにまた別の信号で止まったところで、飛豪は手を伸ばして彼女の手をとった。瞳子は正面を向いたまま、その手に指をからめる。彼も応えるように、強く握りこんできた。
* * *
その夜、飛豪は久しぶりにリミッターがとんだ状態で彼女を抱いた。
やはり衝動をおさえる時間が長くなると、こちらが保たない。
瞳子を招きいれてから一か月、彼は週末や、自分がそうしたいタイミングで彼女の体を利用している。ただし、いつも細心の注意をはらって触れていた。
――傷つけないように。怯えさせないように。
八田とのトラブルが、あれだけの大事になったのだ。
借金の取り立て担当者だった山根が暴力をふるったことや、身柄をおさえた後は組織的に彼女を蹂躙して性的に搾取するプランができていたことは、その業界ではよくある事とはいえ、酷いダメージを彼女に与えていた。
瞳子が飛豪に気を許しつつあるとはいえ、まだ完全に自宅で寛いでいるわけでないことには、こちらも気づいている。背景事情を知っていたからこそ、できるだけ傷口を広げないようにしたかったし、癒えるのを待ちたかった。
――とはいえ、やってる事は俺も同じだ。ま、俺はいいんだよ。本人の同意を得てるから。
それが開き直りなのは百も承知している。
しかし今日のは、一〇〇パーセント瞳子のせいだと飛豪は思っていた。
あの、むせかえるような桜の香り。懐かしいような、胸が締めつけられるような香り。
ふんだんに纏わりつかせた彼女が無防備に近づいてきて、彼を刺激する。こらえようとはしたが、ある瞬間、衝動におさまりがつかずタガが外れてしまっていた――。
引っ込めようとしても幼い自分が居座ってダダをこねてしまうので、最近とみに持てあまし気味である。それもあって家では必要以上の会話をすまいと心がけていたのに、密室の車だとそうはいかない。
瞳子はうなだれて、ふつりと口を閉ざした。その自己嫌悪を感じとったのか、彼は少しの思案ののち、もったいをつけた口調で話しかけた。
「機嫌悪くしてる君に、一つ教えてあげよう。別れ際の、俺とナッコの最後の会話聞こえたか?」
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「…………」
「俺は、『もちろん。もう全部知ってるんだろ』と答えた。俺と彼女があれこれ話すとしたら、話題は君についてだけだ」
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「言っとくけど、余計なこと考えるなよ。俺はナッコみたいなタイプと付き合ったことはない。かと言って、君みたいな特異なタイプとも付き合ったことなかったけど」
安心させるために言われたであろう言葉は、余計に心中を波立たせていく。
――じゃあ、過去にどういう女性と一緒にいたんですか? 今はどうしてわたしなんですか? ナコちゃんじゃなくても、この先、好きな女性が他に現れたら、わたしのこと、どうするつもりですか?
心中の嵐を知らずにまた別の信号で止まったところで、飛豪は手を伸ばして彼女の手をとった。瞳子は正面を向いたまま、その手に指をからめる。彼も応えるように、強く握りこんできた。
* * *
その夜、飛豪は久しぶりにリミッターがとんだ状態で彼女を抱いた。
やはり衝動をおさえる時間が長くなると、こちらが保たない。
瞳子を招きいれてから一か月、彼は週末や、自分がそうしたいタイミングで彼女の体を利用している。ただし、いつも細心の注意をはらって触れていた。
――傷つけないように。怯えさせないように。
八田とのトラブルが、あれだけの大事になったのだ。
借金の取り立て担当者だった山根が暴力をふるったことや、身柄をおさえた後は組織的に彼女を蹂躙して性的に搾取するプランができていたことは、その業界ではよくある事とはいえ、酷いダメージを彼女に与えていた。
瞳子が飛豪に気を許しつつあるとはいえ、まだ完全に自宅で寛いでいるわけでないことには、こちらも気づいている。背景事情を知っていたからこそ、できるだけ傷口を広げないようにしたかったし、癒えるのを待ちたかった。
――とはいえ、やってる事は俺も同じだ。ま、俺はいいんだよ。本人の同意を得てるから。
それが開き直りなのは百も承知している。
しかし今日のは、一〇〇パーセント瞳子のせいだと飛豪は思っていた。
あの、むせかえるような桜の香り。懐かしいような、胸が締めつけられるような香り。
ふんだんに纏わりつかせた彼女が無防備に近づいてきて、彼を刺激する。こらえようとはしたが、ある瞬間、衝動におさまりがつかずタガが外れてしまっていた――。
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