青柳さんは階段で ―契約セフレはクールな債権者に溺愛される―

クリオネ

文字の大きさ
上 下
17 / 192
《第2章》 西新宿のエウリュディケ

二度目の夜1

しおりを挟む
 二回目にして、人選は正しかったと飛豪は思った。

 前回とだいたい似た系統のホテルにチェックインして、エレベーターで客室へとのぼりながら、彼はちらと横に立つ瞳子に視線をやった。

 藤原から送られてきた画像データよりは化粧が薄い。伏せられた長い睫毛が重たげに上下している。

 ――つくづく、大人しい女だな。

 食事中も最低限のことしか話さない。店からホテルへと歩きながら彼女が言ってきたのは、前日になって「明日会いたい」と言われるとバイト先に迷惑をかけるから、できるなら二日前に連絡をいれてほしい、という事だった。

 彼女の経済状態なら、バイトは死活問題だ。飛豪は素直に了解した。

 ――ひょっとして、今日もバイトをキャンセルさせてしまったか?

 そんな気がする。彼はそれを言いだしたものかと少し悩み、しかし、結局は口にしなかった。彼女の事情を知ったうえで、黙っていることにしたからだ。

 過去と、家計にトラブルがあるのは藤原のレポートで知っていた。金が必要なことも。

 二週間前の夜と、今日のウナギの時間だけではあるが、飛豪は直観的に瞳子を受けいれていた。

 合わないとは思わないし、害をなすタイプでもない。むしろ、すんなりとした曲線で構成された身体や、静かで美しい振るまい、落ちついたトーンの声、時折見せる印象的な表情は、もっと触れていたいと思う類のものだった。

 興味のつづくかぎり、利用させてもらおうと既に決めていた。

 だが、個人的事情に口をはさむのは好きではない。自分としても、どこまで責任をとるかは今の段階で判断がつきかねる。だから、成りゆきに任せることにした。

 ――とりあえずは、もう一晩付きあってくれればいいか。

 衝動の水位があがってきていて、ちょっとしたことで破裂しそうなリミットが近いのは自分でも分かっていた。二週間前の、あのタイミングで彼女が現れなければ、猫や小動物を手にかけていただろう。

 ――はやく発散したい。あれから一〇年もたってるのに、年々強くなってきているのは、どうしてだ。

 もうそれしか考えられなくなっていた。エレベーターの扉が開く。飛豪は歩きだす直前、額の生え際ににじむ脂汗を強くぬぐった。

 部屋の扉をあけて彼女を先にとおした。シンプルなストレートデニムに、春らしい白と水色のざっくりとしたメッシュニットの後ろ姿が、軽い足どりで入っていく。ベッドに近づくと、瞳子は振り返った。

「もう脱いだほうがいいですか?」事務的で、淡々とした口ぶりだった。

「そういうこと言わない方が、男は嬉しいモノなんだけど」

「でも、この前は『さっさと脱げ』って」

「事実だけどさ、人聞きの悪い口ぶりだな」

 細い肩を捕まえると、彼はダメ出しをするように、その唇にキスをした。

 首筋に手をまわして逃げられないようにする。ボブカットの髪質を確かめるように指を梳きいれた。

 まさか最初に口づけがくると予期していなかったのか、彼女の身体は硬直していた。

 焦っているのがよく分かる。それが可笑しかった。飛豪は彼女の強ばりをほぐすように抱きしめ、少しずつ舌先を侵入させていく。

 ――そういえば前回は、キスすらせずにがっついた気がする。

 それはそれで正しい。しかし今回は、少しは彼女の恐怖心を減らすべく進めたかった。

 せめて自制心の残っているあいだは、手ひどく扱うまねはしたくない。

 彼女に丁寧に触れることは、自分を焦らすことも意味する。急激に発散したい欲望を飼いならすための、トレーニングだ。今日はまだ少し、抑える努力をしたかった。

 口腔内で彼女の舌を追いかけ、側面から絡めとる。慣れていない彼女は、キスをしながらどう動いていいのか分からず、困惑していた。

 棒立ちになった彼女の背中に手をやって、ゆっくりと撫ぜると徐々に力が抜けていく。初めてではないと二週間前に聞いていたが、経験値はかぎりなく低いだろうと踏んでいた。

 恋人であろうと、そうでなかろうと、本心としては傷つけたくはない。ただ、彼自身が、自分の衝動とどう折り合いをつけていいか、はかりかねているのだ。

 彼女の呼気がゆるやかになった。

 ――頃合いかな。

 背中のブラのホックに指をかけようとした。ちょうどその時、ベッドに置いていた彼女のバッグのなかで電子音が鳴った。

「すみません。バイト先の社員かもしれないので、電話とっていいですか?」

「――どうぞ」

 飛豪のテンションが下がったのは、否定しようがない。しかし、まだ九時前であることを考えると、それも仕方ないかという気がした。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

処理中です...