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第11話「想定外のお誘い」
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私は、アーサーに甘えながら……
いつの間にか眠ってしまった。
……夢を見ていた。
幼い頃の夢である。
その頃の私は政略結婚自体を全く知らなかった。
幼い女子にはよくありがちだったけど……
ピンチに陥った私を救ってくれる、カッコよく救ってくれる、
白馬の王子様に憧れていた。
いつか運命の出会いをする。
素敵な恋をして、幸せに結ばれる……
そう信じていた。
それが単なる幻に過ぎないと知ったのは、10歳になった時だった。
生まれて初めて政略結婚の存在を知った。
王家に生まれた『女』は父や兄弟の単なる駒として、
嫁に出される可能性が高いと知ったのだ。
私のように国外でなければ、国内の有力貴族へ……
実際に、アルカディア王国へ嫁いで来て不安だった。
アーサーは超が付く凡愚な男だと父から教えられていたからだ。
『女』の武器を使って籠絡させ、いざとなれば「殺せ!」とまで言われていた。
だけど……
アーサーは凡愚などではなかった。
とんでもなく怪力で、頭も切れる。
尊敬する父以上の英傑だった。
そんな想いが夢へ反映されたのだろうか……
私の故郷……アヴァロン王宮の広い庭……
緑一面の芝生で遊ぶ幼い私の下へ、誰かが白馬に乗って、駆けて来る。
乗っているのは私と同じくらいな子供のようだ。
あれ?
この子は……もしかして!?
『よう! イシュタル! 迎えに来たぞ!』
屈託のない笑顔。
人懐っこいという言葉がぴったり。
あ、ああ!
この子には見覚えがある。
私は幼い頃のアーサーを知らない。
でも分かる。
確信する!
この子はアーサーだ!
白馬に乗って、私を迎えに来てくれた王子様なのだ!
夢は叶う!
一生懸命願えば、絶対に叶うのだ!
「はいっ!」
と、元気いっぱいに返事をしたベストシーンで、気持ち良く夢が終わり……
……私の意識は現実世界へ引っ張られる。
「うう~ん……あ……」
あれ?
私の手が……
アーサーの腕をしっかりとつかんでいた。
だから……あんな夢を見たのだろうか?
でもそれだけではない。
そんな気がする。
「…………」
腕をつかまれたアーサーは、微笑みながら、
何も言わず私を見守っていた。
私の口からは彼の名が自然と出た。
「アーサー様……」
「おう、起きたか。まだ眠いだろう? 身体の方は大丈夫か?」
アーサーは、優しく私を労わってくれた。
彼は「女子と愛し合うのは初めてだ」と言っていた。
少し照れているのかもしれない。
でも私だって『初めて』だし、とても恥ずかしい……
つい顔を伏せて、私はアーサーと目を合わさずに答える……
言葉を慎重に選びつつ……
「身体は……ええっと……ちょっと痛いですけど……大丈夫です」
「そうか、ありがとうな」
アーサーは何と!
お礼を言ってくれた。
私との『初めての想い出』を喜んでくれた。
いいえ!
私も!
そう、私だって嬉しい。
とても嬉しい!
「……私こそ、優しく抱いて頂き、ありがとうございます」
そう言った私は切なくなって、
「きゅっ」と、アーサーへ抱きついた。
身体をすり寄せ、甘える私を……
アーサーは「そっ」と抱きしめてくれた。
実感する。
アーサーは温かい。
身体も心も……
私がこの人を支えなければ!
と、強く強く思う。
アーサーは、甘える私を労わるように抱き、背中を優しくさすりながら言う。
「イシュタル、お前ははるばる長旅をして来た身だ……とても疲れているだろう」
「…………」
ダメ!
そんな事言っちゃ。
また思いっきり泣いてしまうから……
私は言葉が出ず、無言でじっとアーサーを見つめる。
「まだゆっくり寝ていれば良い、夜は明けていないぞ」
「いえ、もう寝ません」
私は首を横に振った。
もっと話をして、彼の事をいろいろと知りたいから。
「そうか、じゃあ、お前に話したい事がある」
話したい事?
一体、何だろう?
雰囲気からして、あまり良い話じゃないのかも……
そう思うと、私の返事も重くなる……
「はい……」
「ズバリ言おう。お前と俺の妹エリザベスの関係だ」
「…………」
ああ、やっぱり!
『小姑ちゃん』の事か……
「イシュタル」
「はい」
「俺は先ほどエリザベスと話した」
「…………」
「お前達ふたりの間には微妙な壁がある」
「…………」
「だが俺は、お前とエリザベスが姉妹として上手く折り合って欲しいと願っておる」
「はい、……私も……あの方とは折り合いたいです」
ようやく私は言葉を発した。
返事をしながらも、仲良くしたいと言いながらも、
私は少しためらい、くちごもった。
エリザベスに関する『調査報告』も父からは聞いている。
彼女は超が付くブラコンだって。
そしてブラコンの相手は次男コンラッドではなく、
今、私の目の前にいる夫アーサーだとも……
私は先ほど起こった事を報告した。
エリザベスは『体調不良』と称し、
輿入れの際、出迎えには来なかったと。
アーサーは苦笑し、
「イシュタル、幸いお前はエリザベスより4つ年上。今後はあくまでも彼女の姉としてふるまって欲しい」
「姉として……ですか?」
まあ……そりゃ、そうだけど……
結構難しくないかしら。
あの子は私の言う事なんか絶対聞かない。
完全に無視するだろう。
と思ったら、アーサーは妹だからか、エリザベスを擁護する。
まあ兄妹だから、仕方がないかもしれない。
けれど……ちょっと妬ける。
しかしアーサーは、妹を庇う。
「エリザベスは根っからの悪い子ではない」
「それは……分かります」
「ならば、姉として大きな寛容さを持ってくれ」
「姉として……大きな寛容さ……ですか」
私が聞き直すと、アーサーは大きく頷いた。
「おう! もしも相手が生意気な事を言っても穏やかに堂々と、どん!と受け止めて欲しいのだ」
……了解!
私は覚悟を決めた。
アーサーを信じると決めたから。
「はい、穏やかに堂々と、そして、どん! と受け止めるのですね! かしこまりました」
「ありがとう、イシュタル。お前は他家から嫁に来た身だ。新たな家臣との関係、しきたりの違い等、いろいろ不慣れで大変だとは思う」
「…………」
「しかし自信を持て! 聡明なお前なら大丈夫だ。そして俺とお前は、心も身体も結ばれ、完全に寄り添う夫婦となった」
「はい!」
「もしも困った事があればすぐに言え。絶対に言え!」
「は、はい!」
「俺は誰の前でも堂々と、お前を嫁として扱い、しっかり守る! オヤジやオフクロからも、当然エリザベスからも、だ!」
「はいっ!」
ああ、私には分かる。
この人はちまたで聞く無責任な夫じゃない。
『駒』という道具ではなく、私を『人間』として、
『個人』として認めてくれた。
そして「私を守る」と、はっきり約束してくれたから。
アーサーの言葉を聞き、私の心に安堵と勇気が生まれる。
だから大きな声で返事をする事が出来た。
と、ここでまたまた想定外なサプライズが!
「よし! では、とりあえず着替えよう。夜が明けたら朝飯を食べる。俺とお前、そしてエリザベスと3人で一緒にな」
「え? 3人で一緒に朝食を?」
先ほど微妙な壁があると言ったのに?
まだ「国交は正常回復していない」というのに……
どうして、私と『小姑ちゃんエリザベス』が一緒に食事を?
私は驚いてしまった。
目が真ん丸になっているのかもしれない。
そんな私へ、アーサーは黙って頷いていたのである。
いつの間にか眠ってしまった。
……夢を見ていた。
幼い頃の夢である。
その頃の私は政略結婚自体を全く知らなかった。
幼い女子にはよくありがちだったけど……
ピンチに陥った私を救ってくれる、カッコよく救ってくれる、
白馬の王子様に憧れていた。
いつか運命の出会いをする。
素敵な恋をして、幸せに結ばれる……
そう信じていた。
それが単なる幻に過ぎないと知ったのは、10歳になった時だった。
生まれて初めて政略結婚の存在を知った。
王家に生まれた『女』は父や兄弟の単なる駒として、
嫁に出される可能性が高いと知ったのだ。
私のように国外でなければ、国内の有力貴族へ……
実際に、アルカディア王国へ嫁いで来て不安だった。
アーサーは超が付く凡愚な男だと父から教えられていたからだ。
『女』の武器を使って籠絡させ、いざとなれば「殺せ!」とまで言われていた。
だけど……
アーサーは凡愚などではなかった。
とんでもなく怪力で、頭も切れる。
尊敬する父以上の英傑だった。
そんな想いが夢へ反映されたのだろうか……
私の故郷……アヴァロン王宮の広い庭……
緑一面の芝生で遊ぶ幼い私の下へ、誰かが白馬に乗って、駆けて来る。
乗っているのは私と同じくらいな子供のようだ。
あれ?
この子は……もしかして!?
『よう! イシュタル! 迎えに来たぞ!』
屈託のない笑顔。
人懐っこいという言葉がぴったり。
あ、ああ!
この子には見覚えがある。
私は幼い頃のアーサーを知らない。
でも分かる。
確信する!
この子はアーサーだ!
白馬に乗って、私を迎えに来てくれた王子様なのだ!
夢は叶う!
一生懸命願えば、絶対に叶うのだ!
「はいっ!」
と、元気いっぱいに返事をしたベストシーンで、気持ち良く夢が終わり……
……私の意識は現実世界へ引っ張られる。
「うう~ん……あ……」
あれ?
私の手が……
アーサーの腕をしっかりとつかんでいた。
だから……あんな夢を見たのだろうか?
でもそれだけではない。
そんな気がする。
「…………」
腕をつかまれたアーサーは、微笑みながら、
何も言わず私を見守っていた。
私の口からは彼の名が自然と出た。
「アーサー様……」
「おう、起きたか。まだ眠いだろう? 身体の方は大丈夫か?」
アーサーは、優しく私を労わってくれた。
彼は「女子と愛し合うのは初めてだ」と言っていた。
少し照れているのかもしれない。
でも私だって『初めて』だし、とても恥ずかしい……
つい顔を伏せて、私はアーサーと目を合わさずに答える……
言葉を慎重に選びつつ……
「身体は……ええっと……ちょっと痛いですけど……大丈夫です」
「そうか、ありがとうな」
アーサーは何と!
お礼を言ってくれた。
私との『初めての想い出』を喜んでくれた。
いいえ!
私も!
そう、私だって嬉しい。
とても嬉しい!
「……私こそ、優しく抱いて頂き、ありがとうございます」
そう言った私は切なくなって、
「きゅっ」と、アーサーへ抱きついた。
身体をすり寄せ、甘える私を……
アーサーは「そっ」と抱きしめてくれた。
実感する。
アーサーは温かい。
身体も心も……
私がこの人を支えなければ!
と、強く強く思う。
アーサーは、甘える私を労わるように抱き、背中を優しくさすりながら言う。
「イシュタル、お前ははるばる長旅をして来た身だ……とても疲れているだろう」
「…………」
ダメ!
そんな事言っちゃ。
また思いっきり泣いてしまうから……
私は言葉が出ず、無言でじっとアーサーを見つめる。
「まだゆっくり寝ていれば良い、夜は明けていないぞ」
「いえ、もう寝ません」
私は首を横に振った。
もっと話をして、彼の事をいろいろと知りたいから。
「そうか、じゃあ、お前に話したい事がある」
話したい事?
一体、何だろう?
雰囲気からして、あまり良い話じゃないのかも……
そう思うと、私の返事も重くなる……
「はい……」
「ズバリ言おう。お前と俺の妹エリザベスの関係だ」
「…………」
ああ、やっぱり!
『小姑ちゃん』の事か……
「イシュタル」
「はい」
「俺は先ほどエリザベスと話した」
「…………」
「お前達ふたりの間には微妙な壁がある」
「…………」
「だが俺は、お前とエリザベスが姉妹として上手く折り合って欲しいと願っておる」
「はい、……私も……あの方とは折り合いたいです」
ようやく私は言葉を発した。
返事をしながらも、仲良くしたいと言いながらも、
私は少しためらい、くちごもった。
エリザベスに関する『調査報告』も父からは聞いている。
彼女は超が付くブラコンだって。
そしてブラコンの相手は次男コンラッドではなく、
今、私の目の前にいる夫アーサーだとも……
私は先ほど起こった事を報告した。
エリザベスは『体調不良』と称し、
輿入れの際、出迎えには来なかったと。
アーサーは苦笑し、
「イシュタル、幸いお前はエリザベスより4つ年上。今後はあくまでも彼女の姉としてふるまって欲しい」
「姉として……ですか?」
まあ……そりゃ、そうだけど……
結構難しくないかしら。
あの子は私の言う事なんか絶対聞かない。
完全に無視するだろう。
と思ったら、アーサーは妹だからか、エリザベスを擁護する。
まあ兄妹だから、仕方がないかもしれない。
けれど……ちょっと妬ける。
しかしアーサーは、妹を庇う。
「エリザベスは根っからの悪い子ではない」
「それは……分かります」
「ならば、姉として大きな寛容さを持ってくれ」
「姉として……大きな寛容さ……ですか」
私が聞き直すと、アーサーは大きく頷いた。
「おう! もしも相手が生意気な事を言っても穏やかに堂々と、どん!と受け止めて欲しいのだ」
……了解!
私は覚悟を決めた。
アーサーを信じると決めたから。
「はい、穏やかに堂々と、そして、どん! と受け止めるのですね! かしこまりました」
「ありがとう、イシュタル。お前は他家から嫁に来た身だ。新たな家臣との関係、しきたりの違い等、いろいろ不慣れで大変だとは思う」
「…………」
「しかし自信を持て! 聡明なお前なら大丈夫だ。そして俺とお前は、心も身体も結ばれ、完全に寄り添う夫婦となった」
「はい!」
「もしも困った事があればすぐに言え。絶対に言え!」
「は、はい!」
「俺は誰の前でも堂々と、お前を嫁として扱い、しっかり守る! オヤジやオフクロからも、当然エリザベスからも、だ!」
「はいっ!」
ああ、私には分かる。
この人はちまたで聞く無責任な夫じゃない。
『駒』という道具ではなく、私を『人間』として、
『個人』として認めてくれた。
そして「私を守る」と、はっきり約束してくれたから。
アーサーの言葉を聞き、私の心に安堵と勇気が生まれる。
だから大きな声で返事をする事が出来た。
と、ここでまたまた想定外なサプライズが!
「よし! では、とりあえず着替えよう。夜が明けたら朝飯を食べる。俺とお前、そしてエリザベスと3人で一緒にな」
「え? 3人で一緒に朝食を?」
先ほど微妙な壁があると言ったのに?
まだ「国交は正常回復していない」というのに……
どうして、私と『小姑ちゃんエリザベス』が一緒に食事を?
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