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第10話「ありがとう」
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「俺に参ったのか?」
「はい! アーサー様にしてやられました」
「してやられたのは、お前だけじゃない、オーギュスタも。いや、お前のオヤジ殿もそうだ」
「私の父が……してやられた……のですか?」
アーサーから、私の父もたばかったと言われ……
そういえば、そうだと納得する。
父は、相変わらずアーサーを『愚鈍』だと信じているだろうから。
「そうだ! どうせ、アーサーのようなひ弱な男は喰い殺してやれとオヤジ殿に言われ、嫁いで来たのだろう?」
う!
当たってる?
やっぱり鋭い。
この人ただ者じゃない。
ここまで見抜かれていたら、私は肯定するしかない。
「……はい」
「まあ……オヤジ殿にどう命じられて嫁いで来たのか、大方想像は付く。イシュタルよ、お前ひとりでアルカディアが盗れるのなら安い物だとでも言われたか?」
ううう、何でそこまで分かるの!?
私は返す言葉が見つからない。
「…………」
「ははははは、やはり図星か? しかし本当は違うぞ」
え?
何?
違うって?
思わず私は聞き直してしまう。
「え? ち、違うのですか?」
「おう! お前のオヤジ殿はな……実は別離の悲しみに耐え、涙を無理やり隠し、心を鬼にして、愛するお前を送り出したはずだ。……俺はそう思う」
は!?
こ、この人!?
一体、何を?
一体何を言ってるの!?
「アーサー様……」
「イシュタル、お前と話し、愛し合い、俺には良く分かった」
「…………」
「アヴァロン漆黒の魔女と敬い称えられても、お前は全然普通の女子だ」
私は漆黒の魔女ではない、普通の女子……
そうだ!
私は特別な子じゃない!
魔女なんかじゃない!
ひとりぼっちで異国へ来て、怯えていた普通の子だ……
「アーサー様……」
「俺はな、素の優しいイシュタルが大好きだ」
素の私……
優しい私……
「…………」
「だから俺の前では、素のままで居ろ。俺もお前には素のまま、本音で接する。それが一生連れ添う真の夫婦というものさ」
ああ そんなの!
駄目だ!
「ア、ア、アーサー様ぁ! あああああっ!!」
私はもう我慢出来ず、アーサーの胸の中で、号泣していた。
……魔法王国アヴァロンの王家に生まれ育った私は知っている。
王族の男は自国の繁栄存続を第一に考えると。
その為にはなりふり構わない。
身内である姉妹や娘を政略結婚の単なる『駒』に使うのはその為だ。
私は『駒』となってアルカディアへ嫁いで来た。
アーサーも私をそう見ていたに違いない。
でも、私は……
アーサーの想い遣りある言葉が本当に嬉しかった。
涙がたくさんあふれ出る……
護衛役のオーギュスタは居ても辛かった……
私はこの国で孤独だった。
ひとりぼっちだった……
そんな不安を癒すよう、
アーサーはそっと私を抱きしめてくれた。
ああ、私は……
とてもこの人が優しい、そして愛しいとも思う。
アーサーにはコンラッドに比べ、盛り立ててくれるシンパが極端に少ないと、
父から聞いた。
ならば私が妻として「絶対に支えねば」と、強い決意が湧いて来る。
嗚咽する私へ、アーサーは告げる。
「イシュタル、お前はアヴァロンのオヤジ殿から重大な使命を受け、努めて平静を装いながら不安を隠しアルカディアへ来た」
「…………」
「俺のような軟弱且つ大うつけ者に嫁ぐ為にな」
「え? おお、う、うつけ者ですか?」
私は『うつけ』という言葉を知らない。
一体、どのような意味だろう?
「ふん、巷《ちまた》で俺はそう呼ばれておる。だから、よ~く憶えておけ」
「は、はいっ! 憶えておきます!」
「ちなみに、おおうつけ者とはな、からっぽな奴、つまり大が付く馬鹿者って事だ」
うつけって、からっぽ?
大馬鹿者!?
ひ、酷い!
「…………」
「まあ、しばらくは出来る限りそう思わせておけ。それで世の中が平和ならな」
アーサーがうつけと思われれば、世の中が平和って……
あ!
そうか、そうなんだ!
能ある鷹は爪を隠す。
ということわざがあった。
この人はあえて無益な争いを避け、その間じっくり力を蓄える……
そして、いずれ機を見て、大きく羽ばたく。
ああ!
そういう事なんだ。
「…………」
「いつの日か、お前のオヤジ殿が俺を一人前の男として認め、両国が真の同盟国として並び立った時」
「…………」
「イシュタル、お前はこの俺に嫁いで良かったと、心の底から思うはずだ」
アーサーははっきりと言い放った。
私も全く同意。
大きく頷いた。
いつの間にか、私の涙は……止まっている。
今度は私が『想い』を告げる番だ。
「はい、その通りです。アーサー様。私、今はっきりと分かりましたから」
「ん? 何をだ?」
「似ておられます」
「ふん! 誰にだ」
「アーサー様は……私の父にとても良く似ておられます……いえ、父以上にずっとず~っと大きい方です」
「ほう、俺が大きいか」
「はい、器が大きい! ……いつか貴方を父に会わせとうございます」
「俺をそなたのオヤジ殿に会わせてどうする?」
「はい! 思い切り自慢致します」
「何? 思い切り自慢だと?」
「はい! おおうつけなどとんでもない! 私の……イシュタルの旦那様はこんなにも大きな器の人だと自慢致します」
「ふむ……いつになるか確約は出来ない。だが、俺はいずれお前の父に会おう。その時大いに自慢するが良い」
「は、はいっ! アーサー様! ありがとうございますっ!」
私は思わず感極まり「ひし!」とアーサーに抱きついた。
それから……
私はいつの間にか、ア―サーに抱かれながら眠ってしまったらしい。
真っ暗闇の中……
目が覚めた。
見れば、窓の外もまだ真っ暗闇。
そうか、まだ夜が明けていないんだ。
一瞬、ここはどこ?
……って思った。
でも、記憶を手繰り、思い起こして認識した。
はっきりと思い出した。
私は異国アルカディアへ嫁いで来たのだと……
アーサーは?
と見回したら……
居た。
裸のままベッドに座り、窓から外を所在投げに眺めていた。
漆黒の闇を見つめていた。
うん!
いろいろ考えていたら、もう完全に目が覚めた。
「アーサー様……」
「おう、起きたか。まだ眠いだろう? 身体の方は大丈夫か?」
ええっと……
昨夜は……初めての経験ばかりだったから……
でも、正直に言おう。
この人とは私、夫婦……なのだから。
「身体は……ええっと……ちょっと痛いですけど、大丈夫です……」
「そうか、ありがとう」
ありがとう……か。
シンプルだけど、とても心にしみる言葉。
心と身体を元気にしてくれる魔法の言葉。
いろいろな意味があるに違いないけど……
今の私には、最も大きく響く言葉だ。
「いいえ……私こそ、ありがとうございます」
私はそう返すと、再び「きゅっ」とアーサーへ抱きついた。
身体をすり寄せ、甘える私を……
アーサーはまたも優しく、そっと抱きしめてくれたのである。
「はい! アーサー様にしてやられました」
「してやられたのは、お前だけじゃない、オーギュスタも。いや、お前のオヤジ殿もそうだ」
「私の父が……してやられた……のですか?」
アーサーから、私の父もたばかったと言われ……
そういえば、そうだと納得する。
父は、相変わらずアーサーを『愚鈍』だと信じているだろうから。
「そうだ! どうせ、アーサーのようなひ弱な男は喰い殺してやれとオヤジ殿に言われ、嫁いで来たのだろう?」
う!
当たってる?
やっぱり鋭い。
この人ただ者じゃない。
ここまで見抜かれていたら、私は肯定するしかない。
「……はい」
「まあ……オヤジ殿にどう命じられて嫁いで来たのか、大方想像は付く。イシュタルよ、お前ひとりでアルカディアが盗れるのなら安い物だとでも言われたか?」
ううう、何でそこまで分かるの!?
私は返す言葉が見つからない。
「…………」
「ははははは、やはり図星か? しかし本当は違うぞ」
え?
何?
違うって?
思わず私は聞き直してしまう。
「え? ち、違うのですか?」
「おう! お前のオヤジ殿はな……実は別離の悲しみに耐え、涙を無理やり隠し、心を鬼にして、愛するお前を送り出したはずだ。……俺はそう思う」
は!?
こ、この人!?
一体、何を?
一体何を言ってるの!?
「アーサー様……」
「イシュタル、お前と話し、愛し合い、俺には良く分かった」
「…………」
「アヴァロン漆黒の魔女と敬い称えられても、お前は全然普通の女子だ」
私は漆黒の魔女ではない、普通の女子……
そうだ!
私は特別な子じゃない!
魔女なんかじゃない!
ひとりぼっちで異国へ来て、怯えていた普通の子だ……
「アーサー様……」
「俺はな、素の優しいイシュタルが大好きだ」
素の私……
優しい私……
「…………」
「だから俺の前では、素のままで居ろ。俺もお前には素のまま、本音で接する。それが一生連れ添う真の夫婦というものさ」
ああ そんなの!
駄目だ!
「ア、ア、アーサー様ぁ! あああああっ!!」
私はもう我慢出来ず、アーサーの胸の中で、号泣していた。
……魔法王国アヴァロンの王家に生まれ育った私は知っている。
王族の男は自国の繁栄存続を第一に考えると。
その為にはなりふり構わない。
身内である姉妹や娘を政略結婚の単なる『駒』に使うのはその為だ。
私は『駒』となってアルカディアへ嫁いで来た。
アーサーも私をそう見ていたに違いない。
でも、私は……
アーサーの想い遣りある言葉が本当に嬉しかった。
涙がたくさんあふれ出る……
護衛役のオーギュスタは居ても辛かった……
私はこの国で孤独だった。
ひとりぼっちだった……
そんな不安を癒すよう、
アーサーはそっと私を抱きしめてくれた。
ああ、私は……
とてもこの人が優しい、そして愛しいとも思う。
アーサーにはコンラッドに比べ、盛り立ててくれるシンパが極端に少ないと、
父から聞いた。
ならば私が妻として「絶対に支えねば」と、強い決意が湧いて来る。
嗚咽する私へ、アーサーは告げる。
「イシュタル、お前はアヴァロンのオヤジ殿から重大な使命を受け、努めて平静を装いながら不安を隠しアルカディアへ来た」
「…………」
「俺のような軟弱且つ大うつけ者に嫁ぐ為にな」
「え? おお、う、うつけ者ですか?」
私は『うつけ』という言葉を知らない。
一体、どのような意味だろう?
「ふん、巷《ちまた》で俺はそう呼ばれておる。だから、よ~く憶えておけ」
「は、はいっ! 憶えておきます!」
「ちなみに、おおうつけ者とはな、からっぽな奴、つまり大が付く馬鹿者って事だ」
うつけって、からっぽ?
大馬鹿者!?
ひ、酷い!
「…………」
「まあ、しばらくは出来る限りそう思わせておけ。それで世の中が平和ならな」
アーサーがうつけと思われれば、世の中が平和って……
あ!
そうか、そうなんだ!
能ある鷹は爪を隠す。
ということわざがあった。
この人はあえて無益な争いを避け、その間じっくり力を蓄える……
そして、いずれ機を見て、大きく羽ばたく。
ああ!
そういう事なんだ。
「…………」
「いつの日か、お前のオヤジ殿が俺を一人前の男として認め、両国が真の同盟国として並び立った時」
「…………」
「イシュタル、お前はこの俺に嫁いで良かったと、心の底から思うはずだ」
アーサーははっきりと言い放った。
私も全く同意。
大きく頷いた。
いつの間にか、私の涙は……止まっている。
今度は私が『想い』を告げる番だ。
「はい、その通りです。アーサー様。私、今はっきりと分かりましたから」
「ん? 何をだ?」
「似ておられます」
「ふん! 誰にだ」
「アーサー様は……私の父にとても良く似ておられます……いえ、父以上にずっとず~っと大きい方です」
「ほう、俺が大きいか」
「はい、器が大きい! ……いつか貴方を父に会わせとうございます」
「俺をそなたのオヤジ殿に会わせてどうする?」
「はい! 思い切り自慢致します」
「何? 思い切り自慢だと?」
「はい! おおうつけなどとんでもない! 私の……イシュタルの旦那様はこんなにも大きな器の人だと自慢致します」
「ふむ……いつになるか確約は出来ない。だが、俺はいずれお前の父に会おう。その時大いに自慢するが良い」
「は、はいっ! アーサー様! ありがとうございますっ!」
私は思わず感極まり「ひし!」とアーサーに抱きついた。
それから……
私はいつの間にか、ア―サーに抱かれながら眠ってしまったらしい。
真っ暗闇の中……
目が覚めた。
見れば、窓の外もまだ真っ暗闇。
そうか、まだ夜が明けていないんだ。
一瞬、ここはどこ?
……って思った。
でも、記憶を手繰り、思い起こして認識した。
はっきりと思い出した。
私は異国アルカディアへ嫁いで来たのだと……
アーサーは?
と見回したら……
居た。
裸のままベッドに座り、窓から外を所在投げに眺めていた。
漆黒の闇を見つめていた。
うん!
いろいろ考えていたら、もう完全に目が覚めた。
「アーサー様……」
「おう、起きたか。まだ眠いだろう? 身体の方は大丈夫か?」
ええっと……
昨夜は……初めての経験ばかりだったから……
でも、正直に言おう。
この人とは私、夫婦……なのだから。
「身体は……ええっと……ちょっと痛いですけど、大丈夫です……」
「そうか、ありがとう」
ありがとう……か。
シンプルだけど、とても心にしみる言葉。
心と身体を元気にしてくれる魔法の言葉。
いろいろな意味があるに違いないけど……
今の私には、最も大きく響く言葉だ。
「いいえ……私こそ、ありがとうございます」
私はそう返すと、再び「きゅっ」とアーサーへ抱きついた。
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