3 / 14
第3話「いきなり不在!?」
しおりを挟む
国境沿いのデルフリ村を出てちょうど10日後……
私を乗せた馬車はアルカディア王国首都ブリタニアについた。
馬車の窓からの「ぱっと見」だが……
アヴァロンの王都アーチボルドに比べると、ふたまわりくらい街が小さい。
王家の馬車は目立つらしく……
街中を進むと、人々が注視したり、手を振ったりしていた。
まもなく王宮だ……
そう思うと、私はだんだん緊張して来た。
いよいよ、夫となるアーサー・バンドラゴンに会うのだから。
私はアーサーに、夫となる男に会った事がない。
いくら大人びているとか、アヴァロン漆黒の魔女とか、もてはやされても、
私はまだ16歳の女子。
平静でいろと言われても無理な話。
こんな時は対面に座るオーギュスタがつくづく羨ましい。
彼女は歴戦の勇士として、いくつもの死地を乗り越えて来た。
肝が据わっていて、私のように緊張したりしない。
ちなみに私だって戦闘の経験はある。
父と共に、王国軍付きの魔法使いとして出撃、
後方から魔法で害を為す魔物を多数倒した。
でも敵と直接戦うオーギュスタに比べれば、経験不足が著しいのは否めない。
そうこうしているうちに、石造りで武骨な趣きの王宮へ着いた。
ここがアルカディア王国王家、バンドラゴン家の館である。
この王宮の中に、私専用の部屋が与えられ、新たな生活の場となる。
正門が大きく開け放たれ、馬車が滑り込んで止まった。
やがて扉が開けられ、私を護衛して来た騎士達が整列した。
当然マッケンジー公爵が居り、仕切る立場となる。
私がそっと見やれば……
出迎えらしき『王族』がふたり立っていた。
あれ?
ふたりだけ?
あとふたり、足りない?
国王のクライヴは病に臥せっているから、この場へ来れないのは当然として、
あと4人……
再び見やれば、40代らしき女性がひとり、多分彼女はアーサーの母、
王妃アドリアナに違いない。
もうひとりは……10歳を少し超えたくらいの少年、
彼は第二王子コンラッドだろう。
少しふくよかな体型である。
アーサーはやせ型長身で、私とあまり変わらない15歳だと聞いている。
だから年齢と容姿が合わない。
となれば、私の夫アーサーは?
わがまま小姑エリザベスは?
不吉な予感がよぎったが……
とりあえず出迎えてくれたふたりに、挨拶しなければならない。
馬車から降りた私は、速足でアドリアナ達の下へ。
方針通り、腰を低くして挨拶する。
「アドリアナ様、初めまして、イシュタルでございます。不束者《ふつつかもの》ですが、一生懸命にアーサー様、アルカディア王国の為、尽くす所存でございます。何卒宜しくお願い致します」
対して、やはり低姿勢が好印象を得たのか、アドリアナは優しく微笑んでくれた。
「あらあら、これはご丁寧に。こちらこそ初めまして、私がアドリアナ・バンドラゴンです。長旅ご苦労様。これからは気軽に母と呼んで下さいね」
良かった!
まずは『お姑様』へファーストインプレッションOK!
好感度……アップかな?
続いて……
「コンラッド様、イシュタルでございます。不慣れでご迷惑をおかけしますが宜しくお願い致します」
「いえいえ、こちらこそ! 改めまして、コンラッド・バンドラゴンです。姉上とお呼びしても構いませんか?」
「は、はい……」
「ははは、さすがにアヴァロン漆黒の魔女! お美しい! 兄上には本当にもったいない!」
出発前、父に聞いたが……
アルカディアにおいて、愚鈍なアーサーより、
この第二王子、次男のコンラッドが利発だと、将来を嘱望されているらしい。
アドリアナに可愛がられているのもコンラッドのようだ。
もしアーサーが廃嫡され、コンラッドが後継者となるのなら、
『殺す標的』を変えるよう父からは厳命されている。
しかし良い評判に反して、私が見た限り、コンラッドの第一印象は、
あまり良くなかった。
何となく、生理的に好きではない。
小利口、小賢しいという宜しくないイメージである。
複雑な気持ちとなったが……
ここでアドリアナが、突如謝罪する。
「イシュタル、ごめんなさい」
「え?」
「アーサーは不在です。所用で外出しています」
「は? 不在?」
所用で外出!?
何それ?
私が到着する日時は分かっていたはず。
いきなり夫が不在!?
何なの、もう!
上った梯子をいきなり外された気分……
そして、
「重ね重ねごめんなさい。エリザベスは体調不良で、お出迎えを欠席しますって」
はい、そうですか。
こっちは想定内。
体調不良?
多分仮病じゃない?
って、心が疑心暗鬼。
ダークサイドへ堕ちようとした瞬間。
オーギュスタが進み出た。
「アドリアナ様、私は侍女のオーギュスタです。下々の身ながら、直接お尋ねして構いませんか」
「構わないわ、聞いて頂戴」
「イシュタル様は長旅でお疲れです。担当の者に命じて頂き、お部屋へ案内しても」
「え、ええ。構わないわ。こちらで付けたイシュタル担当の侍女に案内させます」
こうして……
私は夫不在という、大アクシデントに直面しながら……
自室となる部屋へ案内して貰ったのである。
私を乗せた馬車はアルカディア王国首都ブリタニアについた。
馬車の窓からの「ぱっと見」だが……
アヴァロンの王都アーチボルドに比べると、ふたまわりくらい街が小さい。
王家の馬車は目立つらしく……
街中を進むと、人々が注視したり、手を振ったりしていた。
まもなく王宮だ……
そう思うと、私はだんだん緊張して来た。
いよいよ、夫となるアーサー・バンドラゴンに会うのだから。
私はアーサーに、夫となる男に会った事がない。
いくら大人びているとか、アヴァロン漆黒の魔女とか、もてはやされても、
私はまだ16歳の女子。
平静でいろと言われても無理な話。
こんな時は対面に座るオーギュスタがつくづく羨ましい。
彼女は歴戦の勇士として、いくつもの死地を乗り越えて来た。
肝が据わっていて、私のように緊張したりしない。
ちなみに私だって戦闘の経験はある。
父と共に、王国軍付きの魔法使いとして出撃、
後方から魔法で害を為す魔物を多数倒した。
でも敵と直接戦うオーギュスタに比べれば、経験不足が著しいのは否めない。
そうこうしているうちに、石造りで武骨な趣きの王宮へ着いた。
ここがアルカディア王国王家、バンドラゴン家の館である。
この王宮の中に、私専用の部屋が与えられ、新たな生活の場となる。
正門が大きく開け放たれ、馬車が滑り込んで止まった。
やがて扉が開けられ、私を護衛して来た騎士達が整列した。
当然マッケンジー公爵が居り、仕切る立場となる。
私がそっと見やれば……
出迎えらしき『王族』がふたり立っていた。
あれ?
ふたりだけ?
あとふたり、足りない?
国王のクライヴは病に臥せっているから、この場へ来れないのは当然として、
あと4人……
再び見やれば、40代らしき女性がひとり、多分彼女はアーサーの母、
王妃アドリアナに違いない。
もうひとりは……10歳を少し超えたくらいの少年、
彼は第二王子コンラッドだろう。
少しふくよかな体型である。
アーサーはやせ型長身で、私とあまり変わらない15歳だと聞いている。
だから年齢と容姿が合わない。
となれば、私の夫アーサーは?
わがまま小姑エリザベスは?
不吉な予感がよぎったが……
とりあえず出迎えてくれたふたりに、挨拶しなければならない。
馬車から降りた私は、速足でアドリアナ達の下へ。
方針通り、腰を低くして挨拶する。
「アドリアナ様、初めまして、イシュタルでございます。不束者《ふつつかもの》ですが、一生懸命にアーサー様、アルカディア王国の為、尽くす所存でございます。何卒宜しくお願い致します」
対して、やはり低姿勢が好印象を得たのか、アドリアナは優しく微笑んでくれた。
「あらあら、これはご丁寧に。こちらこそ初めまして、私がアドリアナ・バンドラゴンです。長旅ご苦労様。これからは気軽に母と呼んで下さいね」
良かった!
まずは『お姑様』へファーストインプレッションOK!
好感度……アップかな?
続いて……
「コンラッド様、イシュタルでございます。不慣れでご迷惑をおかけしますが宜しくお願い致します」
「いえいえ、こちらこそ! 改めまして、コンラッド・バンドラゴンです。姉上とお呼びしても構いませんか?」
「は、はい……」
「ははは、さすがにアヴァロン漆黒の魔女! お美しい! 兄上には本当にもったいない!」
出発前、父に聞いたが……
アルカディアにおいて、愚鈍なアーサーより、
この第二王子、次男のコンラッドが利発だと、将来を嘱望されているらしい。
アドリアナに可愛がられているのもコンラッドのようだ。
もしアーサーが廃嫡され、コンラッドが後継者となるのなら、
『殺す標的』を変えるよう父からは厳命されている。
しかし良い評判に反して、私が見た限り、コンラッドの第一印象は、
あまり良くなかった。
何となく、生理的に好きではない。
小利口、小賢しいという宜しくないイメージである。
複雑な気持ちとなったが……
ここでアドリアナが、突如謝罪する。
「イシュタル、ごめんなさい」
「え?」
「アーサーは不在です。所用で外出しています」
「は? 不在?」
所用で外出!?
何それ?
私が到着する日時は分かっていたはず。
いきなり夫が不在!?
何なの、もう!
上った梯子をいきなり外された気分……
そして、
「重ね重ねごめんなさい。エリザベスは体調不良で、お出迎えを欠席しますって」
はい、そうですか。
こっちは想定内。
体調不良?
多分仮病じゃない?
って、心が疑心暗鬼。
ダークサイドへ堕ちようとした瞬間。
オーギュスタが進み出た。
「アドリアナ様、私は侍女のオーギュスタです。下々の身ながら、直接お尋ねして構いませんか」
「構わないわ、聞いて頂戴」
「イシュタル様は長旅でお疲れです。担当の者に命じて頂き、お部屋へ案内しても」
「え、ええ。構わないわ。こちらで付けたイシュタル担当の侍女に案内させます」
こうして……
私は夫不在という、大アクシデントに直面しながら……
自室となる部屋へ案内して貰ったのである。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。


世にも平和な物語
越知 学
恋愛
これは現実と空想の境界ラインに立つ140字物語。
何でもありの空想上の恋愛でさえ現実主義が抜けていない私は、その境界を仁王立ちで跨いでいる。
ありふれていそうで、どこか現実味に欠けているデジャブのような感覚をお届けします。

[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる