異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!

東導 号

文字の大きさ
上 下
219 / 257

第219話「私は考え直し、決断したのだよ」

しおりを挟む
「開門!」
「かいも~ん!」
「開門するぞお!」

大きく張り上げる警護騎士達の声。

午前10時30分となり、王立闘技場の正門他いくつかの門が開けられた。

その瞬間!

ドドドドドドドドドっという地響きと、

「「わあああああああああ!!!!!」」

「「おおおおおおおおおお!!!!!」」

という叫び声が入り乱れ、大勢の人々が押し寄せたのが、音と気配でも分かった。

「危ないぞお! 押さないで! そこ! ちゃんと! 一列に並べえ!」
「ほらほらあ! 前の者と一定の間隔を取り、ゆっくりと進めえ!」
「ごらあ! 慌てるなあ!」

再び飛び交う、怒号に近い警護騎士達の注意と指示の声。

まあ、俺が来た時から……
王立闘技場の周囲は、進路を示すロープが幾重にも張られ、
老若男女身分を問わず、開場を待ちわびる数多の王国民が居た。

彼ら彼女達は、衛兵、兵士に交通整理され、マナーを守り、順序良く並んでいたのだ。

え?
俺が彼ら彼女達のそばを通っても、大丈夫だったかだって?

ノープロブレム!
問題なし!

成し遂げた事は国内中に有名となったが、
ど平民の俺の顔は、知られていない事が幸いした。

傍らを通り抜けても、「あいつだあ!」などと騒ぎ立てる者は居なかったのである。

……開門し、王立闘技場の中に入った王国民はどう誘導されたかといえば、
観客席でなく、緑の芝生鮮やかなフィールドへ。

ロープ越しで、フィールドに並べられたオーガ3千体を間近で見物。
ひとまわりして、観客席に入るという段取り。

そして、ボドワン・ブルデュー辺境伯と避難した領民達へ義援金を募るという趣旨で、頑丈な鋼鉄製の大型募金箱がフィールド通路の最後に設置されていた。
この募金箱は、闘技場内、何か所にも設置されているとの事だ。

やがて、フィールド内は、俺に討伐された3千体のオーガを眺める王国民で、
いっぱいとなった。

おびただしいオーガの死骸を眺める王国民は皆、安堵し、嬉しそうな表情だ。

……俺はといえば、関係者出入り口の陰から目立たないよう、
その様子をじっと見守っていた。

と、その時。

!!!

知った気配が、俺の背後へそっと近付く。

気配の主は、ぽん!と軽く俺の肩を叩いた。

普通はグレゴワール様、もしくは先ほど握手をしたバシュラール将軍だと思うでしょ?

しかし、違った!

肩を叩いたのは何と! 

ファルコ王国の長、ルクレツィア様の兄君、
国王アレクサンドル陛下だったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

まあ、アレクサンドル陛下から肩叩きされたといっても、
王国執行官を、解雇されるという意味ではない。

アレクサンドル陛下は主君であり、直属の上司でもあり、
そして義理の兄にもなる方。

俺の肩に置いた、アレクサンドル陛下の手は温かい。
親愛の情が伝わって来る。

「見よ、ロイク。大破壊が収束し、王国民達の安堵した嬉しそうな表情を」

「はい、良かったです」

「うむ、ロイク。お前が頑張ったお陰だ」

「いえ、バシュラール将軍の後詰があるからこそ、自分は単身で戦う事が出来ました」

「ふむ、相変わらず、奥ゆかしいな」

「いえ、事実ですから」

「うむ、グレゴワールより普段からお前の話は良く聞かされていた。お前と出会い、やりとりする事により、自分の偏見、狭量さを思い知らされたとな」

「グレゴワール様が、ご自身の偏見、狭量さを思い知らされたのですか?」

「そうだ。グレゴワールは元々、お前のような冒険者に偏見を持ち、毛嫌いしておった。下品で、金に意地汚い者どもだとな。初めて会った時の、あ奴の対応を思い出したら、分かるはずだ」

まあ、確かに……最初グレゴワール様には『塩対応』された。

ジョルジエット様、アメリー様をお助けした俺に、グレゴワール様は、
金を渡してバイバイしようとしたから。

それも直接会おうとせず、家令のセバスチャンさん経由だもの。

でも、そこまでアレクサンドル陛下へ本音で話すなんて、
陛下とグレゴワール様は、信頼し合っているんだなあ。

納得する俺に対し、アレクサンドル陛下の話は続く。

ここはバシュラール将軍との会話のように、俺は聞き役に徹した方が良いだろう。

「それが今や、グレゴワールはロイクを大変可愛がり、一番の理解者となっておる。ジョルジエット救出の件はあったにせよ、とんでもない変わりようだ、はははは」

「はあ、まあ」

「バシュラール将軍もそうだ。自分と部下達のメンツを守ってくれたお前に対して、とても好意的だ。いや、惚れ込んだといっても過言ではない」

「ありがたいです」

「そして私もそうだ。お前を大いに気に入ったよ」

「それは光栄ですね」

「うむ、だが当初は私もグレゴワールとほぼ同じであった」

「陛下が、グレゴワール様とほぼ同じ」

「うむ。初めてグレゴワールからロイクの話を聞いた時、凄い者が居るな、というくらいの認識しかなかった。竜を10体倒したと聞いても、グレゴワールの言う通りだなと驚き、納得するくらいであった」

「そうでしたか」

「うむ、迷いに迷っていたルクレツィアの縁談、嫁ぎ先の件もそうだ。ルクレツィアの幸せを考えたら、他国へは嫁がせたくない。だがな、グレゴワールが勇者と称えるロイクの存在は、選択肢のひとつでしかなかった」

「自分の存在は、選択肢のひとつでしかない……」

「うむ、そうだ。ロイクの存在を知っても迷っていた。お前がいくら誠実且つ、強くて優秀だと言っても、所詮は平民。王女たるルクレツィアの幸せと国益を考えたら、結婚相手として有望ではあっても、バランスと決め手に欠けたのだ」

「自分は、ルクレツィア様の結婚相手として有望ではあっても、バランスと決め手に欠けましたか」

「ふむ、しかし今回の大破壊収束の経緯を聞き、その後のお前の言動を聞き、グレゴワールがルクレツィアの結婚相手としてお前を猛プッシュした」

「猛プッシュ、そうなんですか」

「ははは、グレゴワールにはびっくりしたよ。自分の娘ジョルジエットの結婚相手を……娘を第二夫人にしても構わないとまで言い張り、ルクレツィアの夫として勧めたのだからな」

「はあ、まあ」

「だが……初対面のバシュラール将軍までが、ロイク、お前の実力と人柄にほれ込むのを見て、私は大いに考え直し、きっぱりと決断したのだよ」

アレクサンドル陛下はそう言うと、俺の肩をぎゅ!と握ったのである。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...