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第214話「そんなロイク様を、私が癒やせると思えば! 大変嬉しいのですわっ!」

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ルクレツィア様は、

「ジョルジエット、アメリーの申す通りですわ」

と言い切り、笑顔のまま、大きく頷いた。

え?
ジョルジエット様、アメリー様が、俺を『ルクレツィア様の結婚相手の推しメン』
としてプッシュしているのは聞いた。

だが、何をどう具体的に言っているとは聞いていない。

ここはストレートに尋ねてみよう。

「ジョルジエット様、アメリー様がおっしゃる通りとはどういう事でしょう?」

「はい、ロイク様はお強く頼もしいだけではない。お手が温かい、そしてお心も温かい、そうふたりから聞きました」

「ほめすぎですよ」

「いえ、ほめすぎではありません。少し長くなりますが、私の話を聞いて頂けますか?」

ルクレツィア様の表情は真剣だ。
何か大事な話だろう。

こちらも気合を入れ、聞かねばならない。

「お、お聞きします」

「ありがとうございます。ロイク様はご存知ではないと思いますが、私、男子とは肉親、親族以外、手をつないだ事などありません。王宮の晩さん会のダンスもお断りして来ました。何故なら、男子は苦手だったのです」

「男子は苦手……」

「はい、ダンスは勿論、お話しするのさえも苦手でしたわ」

「お話しされるのも……でも自分とは」

どうして平気だったのですか?
と俺は言いかけたが、ルクレツィア様は話を続ける。

「はい。不思議ですわ。こうやって自然にお話し出来る男子の方は肉親、親族以外、ロイク様が初めてです。そして男子がとても苦手なのは、ジョルジエットもアメリーも全く同じでした」

「ジョルジエット様、アメリー様も男子がとても苦手……」

「はい、でもふたりはロイク様に出会って、劇的に変わりましたわ」

「おふたりが劇的に変わった……」

「はい! 幼い頃から長年の付き合いである私には分かります。ジョルジエットも、アメリーも毎日毎日、四六時中、ロイク様のお話ばかり! だから私、ロイク様に、とても興味を持ったのです」

「な、成る程。自分にとてもご興味を……」

「はい! そんな中、私の縁談は進んでいました。男子がとても苦手な私ですが、ファルコ王国の為、そんな事は言っていられません。どこかの国の王族へ嫁ぐものだと覚悟をしておりました」

「ルクレツィア様……」

「どこへ嫁がされるのかも分からない、先が見えない、将来を思い悩む私を見かね、ジョルジエットとアメリーは、心から慰めてくれました」

「心から慰めてくれた……」

「はい、ジョルジエットもアメリーも、貴族の娘。もしロイク様と出会わなければ、自分の意思などない政略結婚になるはずでした」

「自分の意思などない政略結婚に……」

「はい、国内外、結婚相手等、条件は違えど、王族と貴族の政略結婚は本質的には同じですから」

「成る程」

「しかし! ジョルジエットとアメリーは、ロイク様に出会って運命が、そして自身の人生に対する気持ちも、前向きに変わったのですわ」

「…………………」

「日々、明るく活き活きと、前向きに人生に取り組むジョルジエットとアメリー。私は、そんなふたりを見て、凄く凄く羨ましかった」

「…………………」

「私も、そうなりたい、生きたいと心から思いましたわ」

「…………………」

「でも……王女の私は自ら動いて、相手を見つけられる立場にはない」

「…………………」

「この世界のどこかにいらっしゃる、運命の方と出会って、自分の運命が変われば、気持ちが前向きになれれば良いなあと、ひそかに願っていたのです」

ルクレツィア様はそう言うと、手を握ったまま、俺を熱い眼差しで見つめたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

無言の俺に対し、饒舌となったルクレツィア様の話は続いている。

「ジョルジエットとアメリーとは、ロジエ女子学園で公私ともども、いろいろな内容で話すのですが、ある時、ふたりから、私の結婚相手には、ロイク様が適任だと言われました」

「…………………」

「最初は何が何だか分かりませんでした」

「何が何だか……」

「はい、ふたりを暴漢から救ったのがきっかけでめぐりあった、将来の夫君となるべきロイク様を何故私の結婚相手に勧めるのか? 一緒に幸せになりましょう! とか言われても、全く分かりませんでした」

「まあ、そうかもしれませんね」

「はい、でも、いろいろとロイク様のお話を、ジョルジエットとアメリーから詳しく聞き、ロイク様に、とても興味が生じて来た時、お兄様から運命の通達がありましたの」

「陛下から、運命の通達ですか?」

「はい、運命の通達です。ルクレツィア、『お前は勇者たるロイク・アルシェに嫁ぐのだ』とお兄様から言われ、遂に遂に! 私にも運命の方が現れた! 閉ざされていた扉が、とうとう開いた! そう思いました!」

「…………………」

「でも私は、ロイク・アルシェ様に直接お会いした事はない。ここでジョルジエットとアメリーの言葉が思い出されました」

「…………………」

「ロイク様はお強く頼もしいだけではない。お手が温かい、そしてお心も温かい、と! そうだ! とても奥ゆかしいとも言われましたわ!」

「…………………」

「ふたりの言う事が本当なら、とても素敵な良き方だと思いました。しかし、男子が苦手な私はロイク様にお会いするまで不安でした」

「…………………」

「ロイク様と上手く話せるのか、いえ、私みたいな女子を気に入って愛して頂けるのかと」

「…………………」

「しかし! そんな心配は杞憂でした」

「杞憂……でしたか」

「はい、取り越し苦労でした」

「取り越し苦労でしたか」

「はいっ! ロイク様とお会いし、お話しし、お手をつないだら分かって来ました。本当に! 本当に! ジョルジエットとアメリーの言う通りなのだと」

「お分かりになったのですか」

「はい! ロイク様は、お強く頼もしいだけではない。お手が温かい、そしてお心も温かい、と! 落ち着き穏やかになった私は、心の底から安堵しました」

「…………………」

「ロイク様は私の笑顔に癒されるとおっしゃいました。私、本当に嬉しかったのです。そして聞いてください、ロイク様、私、想像したのです」

「想像……ですか?」

「はい、運命の通達を受けた際、ロイク様が大破壊を収束させた経緯をお兄様からお聞きして」

「自分が大破壊を収束させた経緯を、陛下からお聞きしてですか?」

「はいっ! 徹夜で大変な距離を走り抜け、怖ろしいオーガどもと命を懸けて戦う! そんなロイク様の 神々しいお姿を! 私は想像致しましたっ!」

「自分の戦う姿を……」

「はいっ! 私が想像したロイク様は素敵でした! たったおひとりで、5千体ものオーガに立ち向かい戦う! 我がファルコ王国の民の為に! 誰にも成し遂げる事など出来ない! 大変な難行苦行です! 凄い事ですわ!」

「何とか、出来る事をやりました」

「うふふふ♡ ジョルジエット、アメリーの言う通り、ロイク様は驕らず、誇らず、奥ゆかしいですね! そんなロイク様を、私が癒やせると思えば! 大変嬉しいのですわっ!」

ルクレツィア様はそう言うと、キラキラ光る碧眼の瞳で俺を見つめた。

そして、ぎゅ!ぎゅ!ぎゅ!と俺の手を強く強く握ったのである。
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