上 下
123 / 257

第123話「確かに俺でも『そういう判断』をするかもしれない」

しおりを挟む
さあて、どう切り出そうか。

俺は軽く息を吐き、ふたりへ微笑んだ。

前世の営業経験で学んだ。

こういう場合は、遠回し過ぎてもいけないし、ストレートすぎてもいけない。
メリハリつけて、段階を踏み、簡単明瞭に伝える。

「実は、冒険者ギルドのとある依頼を完遂しまして、その際、魔物を討伐しました」

「魔物を討伐?」
「それが当商会と何か、関係がありますか?」

「はい、大いに関係がありますので、順を追って説明します」

「成る程」
「お聞かせください、ロイク様」

「はい、討伐したのは結構な大物クラスでして、結果、Aへのランクアップは確定と言われました」

「ほうほう! ロイク様がランクAですか! 素晴らしい!」
「おめでとうございます! ロイク様も超一流冒険者の仲間入りですね」

「ありがとうございます。それとギルドからはオファーも頂きました。サブマスター就任のオファーです」

「サブマスター?」
「それは凄い! 幹部職員ですね!」

「はい、でも、ランクアップは受けますが、サブマスター就任のオファーは、丁重にお断りしようと思います」

「ほう、ロイク様はサブマスター就任のオファーを断ると? それはなぜでしょう?」
「もしや、当商会との契約を優先して頂けると?」

「はい、理由はそうです。サブマスターになると、毎日、煩雑な事務仕事や会議があり、御商会との契約遂行は困難です。俺は現状のフリー個人事業主が性に合っていますから」

「成る程、しかし、はいそうですかと、ギルドも簡単には矛を収めないでしょう」
「会頭のおっしゃる通りです。だから私達と会いたいと、急ぎアポイントを入れられたのでしょう?」

まあ、もっともな突っ込みだ。

ここで、トリッシュさんから預かった書類の提示だ。

俺も熟読したが、今回のオファー、待遇、そして理由などが列記してある。

オファーに関しては伝えてあるし、待遇はふ~んという感じだろう。
焦点は、『オファーを出した理由』に尽きる。

ここで俺が冒頭に告げた、「魔物を討伐しました」というコメントへ、
セドリック会頭とオーバンさんが、突っ込むタイミングだ。

「え!!??」
「こ、こ、こ、これは!!??」

でも……
やはりというか、セドリック会頭、オーバンさん、驚いて目をまん丸。

対して、俺はしれっと言う。

「はい、書類に記載されてある通りです」

「ド、ド、ドラゴン!!??」
「じゅ、じゅったい!!??」

「はい! おふたりのおっしゃる通り、俺はドラゴン10体を討伐しました」

少し自慢チックになってしまったが……
俺は、はっきりと、言い切ったのである。 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

情報のすり合わせが終わり……
俺はセドリック会頭とオーバンさんへ、答えも提示した。

「冒険者ギルドのサブマスター就任のオファーを断り、ルナール商会との契約を優先させる」と。

トリッシュさんから言われた、
「サブマスター就任のオファーを強要するつもりが、ギルドにはない」
事も伝えた。

後は、ルナール商会の判断次第、セドリック会頭とオーバンさんのふたりが、
どうしたいのか、判断待ちである。

ルナール商会と冒険者ギルドとの兼ね合い……
『力関係』は、俺には分からないから。

じ~っと考え込む、セドリック会頭とオーバンさん。

ここで、セドリック会頭から質問。

「ロイク様は、グレゴワール様とのご契約がありますね。あちらとの話はどうなっておりますか?」

そう、この前の、ジョルジエット様、アメリー様、護衛任務の日。
このルナール商会の『買い物』で締めとしたからなあ。

「はい、グレゴワール様にはアポイントを申し込みましたが、まだご返事を頂いておりません。当然、今回の件は何も告げておらず、これから話し合いですが、同じ内容の話をするつもりです」

「成る程! では私どもも、グレゴワール様のご判断に合わせましょう」

おお、そう来たか。
横へならえという奴か。
確かに俺でも『そういう判断』をするかもしれない。

冒険者ギルドは国境を越えたワールドワイドな組織だが、
グレゴワール様がどう判断し、ジャッジするのか、俺も興味がある。

果たして……
ファルコ王国宰相とギルドの力関係はどうなのだろうか?

そして、ルナール商会が、グレゴワール様の判断に合わせるというのも無難な答えだ。

当然、商会の本音は「俺との契約続行」だろう。
会頭の言質を取るのがベストだが、俺には分かる。
敢えて尋ねるほど、空気が読めないアホではない。

最後に、「討伐したドラゴンのうち、2体をルナール商会へ売却するという希望をギルドへ出した」という話をしたら、

「おお! それは嬉しいですぞ!」
「当商会にとって、大きな売り上げと利益が見込めます」

と大喜び。

オファーの内容を見せたギルドへ話をする際、
フェアに、「ルナール商会側の契約内容もオープンにして構わない」
という許可も得た。

こうして……
セドリック会頭、オーバンさんとの打合せは和気あいあいで、終わったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...