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第161話「お前をナンパしに、客の男どもが来る。5人だ」

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引っ越して来たばかりで、新居は荷物であふれている。

家具は作業員がセッティングしてくれたが、まだまだ未整理の荷物が多く、
本番はこれからだ。

なので今日は冒険者ギルドの講座もお休み。

一日で目途をつける事にした。

引っ越し作業は大体が力仕事。
ここは、シャルロットに指示をして貰い、俺が率先して身体を動かさねば。

という事で、俺はフットワーク軽く、ガンガン働く。

なんやかんや、荷物の大部分を収納し終わったのが午後3時過ぎ。

未整理の荷物もまだあるが、ヤマは越えたって感じ。

朝食を摂っただけで、昼飯抜きのぶっ通し。
腹が減ったので、ここで遅いメシも兼ね、用足しに出かける事にした。

留守番は、昨夜もお願いしたケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟。

さすがに本体はまずい。

体長15m、複数の頭、たてがみは蛇、尾は竜などという真の本体で番をしたら、
「街は大騒ぎさ」となってしまう。

それも1体じゃなく2体。
王都に住めなくなるのは、確実だ。

なので、いかつい体長2mの灰色狼風に擬態し、
玄関先と裏口前で、交代で寝そべり、『番』をしてくれと頼んでおく。

当然、魔獣兄弟には、報酬を払う。

お礼として、肉屋から大量に配達して貰った、巨大な豚の肉塊を10㎏、
それぞれに与えるのだ。

おうおう、1回に肉10㎏?
食費が大変だねえという突っ込みなら心配無用。

魔獣兄弟は、食料がない場合、大気中のマナを変換し、魔力に変えるという。

魔力を満タンにしたら、空腹は満たされるらしいのだ。

ちなみに、普通の肉を食べる事もOKである。

という事で、俺とシャルロットは、魔獣兄弟へ留守を託し、
手をつないで、お出かけ。

まずは冒険者ギルドへ、

引っ越しが終わったので、業務部へ、住所変更届けを出しておく。

ホテルから、新築の一軒家という事で。

ギルド職員から、同居するふたりの間柄を尋ねられたので、
正式な婚約者同士としておいた。

え?
婚約者?
うっそ~とか、このやろ! リア充爆発しろ! と言われそうだが、
これは本当の事。

先日、創世神教会へちゃんと届けを出してある。

これで婚約者として堂々と、シャルロットを守る名目が出来たし、
ミランダみたいなアホに凸されても、きっぱりと排除する事も可能だ。

冒険者ギルドからは、ローラン様の屋敷へ。

用件は、ギルドと同じく引っ越しの報告。

ノーアポで行ったので、残念ながらローラン様は不在。

家令さんへ、新住所記載入りの手紙を託しておく。
当然、俺とシャルロットの連名である。

ここまで用足しをして、午後4時過ぎ。
や~っと昼兼用の夕飯だ。
更に引っ越し祝いもやってしまおう。

ランチタイムなどとっくに終わっているから、
早めのディナー営業を行っている店を探す。

となると、居酒屋ビストロがほとんどだ。

スフェール王国では16歳以上の飲酒を認めているから、
俺が居酒屋ビストロへ入っても問題ナッシング。

腹も減っていたので、俺とシャルロットは、外装が綺麗で、
料理の良い匂いがする、とある一軒へ入ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

看板を見て知ったが、店の名前は、口笛亭というらしい。
テーブル席、カウンター席があり、50人くらいが飲食出来そうだ。

時間がまだ早いせいか、客はまばらである。

「いらっしゃいませええ! おふたりさまですかああ!」

出迎えてくれたのは、メイド服姿の若い女子スタッフさん。

俺たちと同じく20歳になっていないだろう。

金髪碧眼のスレンダー。

結構可愛いけど、俺はシャルロットの方が好みだし、
手をつないだ婚約者の前で、他の女子に色目は使えない。

え?
何?何?
デート中に、きょろきょろ使う奴が居る!?
それ、私の彼だって?

ええっと、彼女さん、そいつ多分、女子に見境なしの外道だから、
付き合いを再考した方が良いと思うよ。

そんなこんなで、スタッフさんに案内されたのは、まだ空いていた事もあり、
奥まった端っこのテーブル席。

とりあえず、エールをジョッキでふたつ頼み、乾杯をする事に。

そんなに間を置かず、スタッフさんはジョッキふたつを持って来てくれた。

メニューを見て、料理をいくつか、そして『お勧め』の料理も一品、
お任せでオーダーした。

「引っ越しの無事な完了にかんぱ~い!」

「素敵な新居にかんぱ~い!」

かち~ん!
かち~ん!

と、マグカップを合わせ、シャルロットと雑談。

彼女とは本当に気が合う。

話題が尽きないや。

楽しくしゃべっていたら、勘働きスキルで感じる不穏な気配が……

ちらと見たら、少し離れた席から、
冒険者らしき男どもが5人、シャルロットをちらちら見てた。

こいつら……立ち上がった。

成る程、こっちへ来るな。

シャルロットをナンパしに。

数に物を言わせ、俺を追い払う気だ。

そしてシャルロットを、奴らの家へ無理やり連れ込む気だ。

ばかやろ~が。
そんな事させるものか!

俺はふっと笑い、声を抑えめにし、シャルロットへ言う。

「シャルロット」

「ん?」

「お前をナンパしに、客の男どもが来る。5人だ」

「え? ナンパ?」

「ああ、以前の市場の時みたいに、威圧のスキルで追っ払うからな。心配するな」

「うふふ、分かった、エル君、了解」

気が付かないふりをして、会話をしていたら、

5人の男たちは、俺とシャルロットの座るテーブルをぐるりと取り囲んだのである。
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