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第93話「一緒に頑張りたいと思うけど、俺から要望を出すわけにはいかないか…… と思ったが、お願いだけする事にした」

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俺とシャルロットが部屋へ戻ってから約1時間後……

ホテルに俺が良く知った気配が、スキル勘働き――索敵にしっかりと捉えられた。

気配は4つ……徐々に近づいて来た。

そして、俺の部屋の扉が、リズミカルにノックされる。

とんとんとん!

「はい」

と返事を戻せば、力強い張りのある声が発せられる。 

「おはよう! ローランだ」

「はい、お疲れ様です! おはようございます! 今、扉を開けます」

一応、カギをかけていたので、駈け寄った俺は、扉を開ける。

のぶを回し、がちゃ、と開けたら、
全員笑顔のローラン様、バスチアンさん、セレスさん、
そしてクリスさんが立っていた。

すかさず、あいさつをする。

「みなさん! おはようございます! お疲れ様です!」

「おう! おはようさん! エルヴェ!」
「おはよう! エルヴェ君♡」
「おはよう! 元気そうだな、エルヴェ君」

索敵の時点で気づいていたが、ローラン様以下4人が発する波動は、
とても好意的なもの。

これは、本契約締結に向け、大いに期待出来る。

「ようこそ、いらっしゃいました。どうぞ、こちらへお座りください」

期待に胸ふくらみ微笑んだ俺は、一行を部屋の応接コーナーへいざなった。

……しばし経ち、全員が座ると、話が始まった。

放つのが良い波動とはいえ、俺は結構緊張する。
そりゃそうだ、人生のターニングポイントなんだから。

最初に口を開いたのは、やはりローラン様である。

「エルヴェ・アルノー君」

「は、はい!」

と俺が少し噛み、返事をすれば、いきなり直球を投げ込まれる。

「早速だが、本題へ入る。全属性魔法使用者オールラウンダーに覚醒した研修の結果も踏まえ、エルヴェ君と本契約を結び、我がグランシャリオの正式なメンバーとする」

お、おおお!!! や、や、やったあああ!!!
本契約締結だああ!!!

これで俺は王国ナンバーワンクラン、グランシャリオの正式メンバーだ!!!

いくら手ごたえがあったといえど、
本契約締結をローラン様から告げられれば、やはり感極まる。
声も震える。

「あ、ありがとうございます!」

「うむ、エルヴェ君、ドラフト一位に違わぬ即戦力ルーキーとして大いに期待する。今後ともよろしく頼むぞ。これが契約書だから、良く読んでサインをしてくれよ」

ローラン様から、数枚つづりの本契約の契約書を渡され、
俺は畏れ多いという感じで、押し頂いた。

「では、シャルロット君、フェルナン君とも話すから、私たちは一旦失礼する。後でまた来るから、それまでに契約書を読み、サインをしておいてくれ」

うお!
思い切り、あっさりしているけど……
これからシャルロット、フェルナンさんとも話すから仕方がないか。

っていうか、ふたりとは本契約を結ぶのだろうか?

契約の可否を、この場で聞くわけにはいかないものなあ。

一緒に頑張りたいと思うけど、俺から要望を出すわけにはいかないか……

と思ったが、お願いだけする事にした。

「ローラン様」

「ん?」

「このたびは本契約して頂きありがとうございます。10日間の研修を終えて、俺、今後もこのメンバーで助け合いながら、全員一緒に頑張りたいと思いました。何卒宜しくお願い致します」

俺はそう言うと、深く頭を下げたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

という事で、ローラン様一行は、ホテルの部屋から出て行った。

この間に、言われた通り、契約書を読んでおくとしよう。

数えてみたら、渡された契約書は5枚つづりで、様々な条項が記載されていた。

ここで箇条書きにするわけにはいかないので、要約すると……

俺は、あくまで冒険者ギルド所属の冒険者という前提で、
クラン、グランシャリオと5年契約を結ぶ個人事業主という立場。

契約は満5年完了後、片方から申し入れがなければ自動的に2年契約が更新される。

気になる契約金は、金貨10万枚10億円
年俸は基本給、金貨1万枚1億円

ランク手当あり。
またランクアップする度に昇給手当。

俺は現在最底辺のランクFだから、更に上を目指して気合も入る。

住宅費、交通費など必要経費は別途支給。

依頼を完遂するたびに、報奨金も支給。
また依頼に伴う必要経費も別途支給。

副業も認められるが、グランシャリオの業務が最優先。

休日は週2回の不定休。

夏季冬季、年末年始の特別休暇あり。

他にもいろいろあるが、たくさんありすぎるので、割愛する。

ちなみに契約内容は全て記憶した。

何かあれば、ぱぱっと思い出せる。

こうして……内容は全ておぼえたが、サインはすぐにせず、
ひとまずペンディングする事にした。

ローラン様たちが戻って来たら、
シャルロットさん、フェルナンさんの合否も明らかになるだろう。

それからサインしても、決して遅くはない。

ふうと軽く息を吐いた俺は、シャルロットと王都デートした際、
買い込んだ魔導書を読み、魔法の勉強をする事にしたのである。
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