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第76話「セレスさんは、茶化しながらも、俺とシャルロットさんの仲を祝福しているはず」

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翌朝、俺とフェルナンさんは、いつも通り午前3時に起床した。
最近は叩き起こされなくとも、自然に起きるようになったのは愛嬌。

 手早く準備し、いつものようにバスチアンさんから、剣技の稽古をつけて貰う。

このところ、いつもそうらしいが……
昨日も、俺たちが昨日も、俺たちが夕食の準備をしている間、
ローラン様、バスチアンさん、セレスさん、クリスさんの4人は、
情報共有と打ち合わせを済ませていたようだ。

だから夕食の際も、俺が魔法剣士として覚醒した事が話題となった。

ローラン様が『お墨付き』を出し、ランクFの俺は既にランクB以上、
ランカーの実力があるとまで言い切ってくれたのだ。

そのせいか、今朝のバスチアンさんは稽古の際、
魔法を織り交ぜ戦う事を求めて来た。

「おい! 新人1号!」

「はい」

「今朝は俺へ、魔法剣士としての戦い方とやらを見せてみろや」

「了解っす」

軽くOKの返事をしたが、本気で戦うわけにはいかない。

これ決して驕りなどではない。
もしも俺がフルパワーで魔法を使ったら、
バスチアンさんといえど、ただでは済まないと思う。

こんな事を言えるようになると、全く思わなかったけど。

……と、いうわけで、申し訳ないが、バスチアンさんに対し、手加減する事にした。

いつもの通り、準備運動とストレッチ。
そして。一番リラックス可能な深呼吸イコール、
魔法使いには必須の呼吸法を行う。

す~は~、す~は~、す~は~、す~は~、す~は~、

呼吸法を行う事で、精神を集中しつつ、均衡化し、体内魔力を活性させる。
そうする事で、魔法を円滑かつ正確に行使する事をしやすくするのだ。

でも今の深呼吸は自己流。

後で改めて調べて勉強し、自分にとってベストな呼吸法を見つけ、
習得するつもりである。

さてさて!

準備が完了し、俺とバスチアンさんは向き合い、対峙する。

絶対に油断はしない。

一昨日、昨日の朝と、
ギアを上げ、本気モードへ入ったバスチアンさんに苦戦はした。 

だけど、今の俺に負ける要素は何もない。

日々の鍛錬で、剣技、格闘、防御、身のこなしが、
格段にパワーアップしている事に加え、今の俺には攻撃魔法が6種類もある。

バスチアンさんの身体の動きの癖も、完全に把握しているし。

その上で、必殺のスキル勘働き――先読みの能力を発揮すれば、
バスチアンさんといえども圧倒出来るはずだ。

「エルヴェ! いきま~す!」

気合を入れた俺は、だん!と勢いよく、大地を蹴ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それから約2時間後……時間はまもなく午前6時。

「ま、ま、参った! し、新人1号……いや、エルヴェにはかなわねえ!」

練習用の雷撃剣を手放して、座り込み、両手を挙げるバスチアンさん。

俺の事を新人1号ではなく、エルヴェという名前で呼んでくれた。

これ、バスチアンさんが、認めてくれたって事なのだろうか?

俺の事を……もしそうだったら、凄く嬉しいけど。

そう、俺は風の習得した風の攻撃魔法の3種、風弾、小嵐、竜巻を使いながら、
30分間、バスチアンさんの自由を奪い、翻弄。

散々に雷撃を浴びせ、遂に降参を引き出したのだ。

対して、バスチアンさんの攻撃は1回も当たらなかった。

こうなると負けず嫌いのバスチアンさんも、敗北を認めざるをえなかったのである。

そんな俺とバスチアンさんの戦いで、
フェルナンさんの稽古の時間がなくなってしまった。

バスチアンさんが熱くなり、切り上げなかったのが原因だが、
俺はフェルナンさんへ、「申し訳ない」とお詫びした。

しかし、フェルナンさんはショックのあまり硬直して、固まってしまっていた。

俺がバスチアンさんを圧倒したのにびっくりし、声も出ないようだ。

どうやら俺の謝罪の言葉も耳へ入っていかないらしい。

と、そこへ、ローラン様、クリスさんが、
そしてセレスさん、シャルロットさんの女子組が起きてやって来た。

「おはよう!」
「おはよう!」

「おはよう!」
「おはようございます!」

4人のあいさつに対し、バスチアンさん、俺、
そして、ようやく硬直が解けたフェルナンさんが、あいさつを返した。

ここでセレスさんが俺を認め、ダッシュ。

「エルヴェく~ん!」

と大声で叫び、駆け寄って来た。

「おはよう!」

と、上機嫌にっこにこであいさつする。

「おはようございます!」

と、元気にあいさつをしながら、俺の心の中では、
昨夜シャルロットさんが言っていた言葉がリフレインする。

「違うの……私、セレスさんとエル君がくっつかないか、心配なの」

「だって、だって! 今日の訓練中もセレスさんったら、エル君の事、すっごく褒めてたのよ」

「うん、エル君は才能に満ちあふれた素敵な男子だって」

……いやいや、まさか。

セレスさんは、茶化しながらも、俺とシャルロットさんの仲を祝福しているはず。

やはり、絶対恋愛対象としてじゃない、教師的な評価でしょ。

でも、シャルロットさんに、やきもきさせない為、言動には充分注意しよう。

そんな決意をした俺へ視線を感じる。

これは、シャルロットさんの視線だ。

そう、にっこにこのセレスさんの少し後方、
俺を凝視するシャルロットさんは、とても不安そうな視線を送っていたのである。
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