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第75話「散々裏切られたから、逆に裏切って、信頼を失いたくない」

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風属性は、小嵐、竜巻、
水属性は、濁流、凍結、

それぞれ、2種類ずつ、4種類の属性魔法を習得し、
風弾、水弾と合わせ、都合6種類の属性魔法を習得。

複数属性魔法使用者マルチプルたる魔法剣士としての能力を、
著しくアップさせた。

少し補足すると、小嵐は人間を直立が不能にするレベルの強風、
竜巻は高速な渦巻き状の上昇気流。

濁流は、人間を直立が不能にするレベルの水流、
凍結は、大気中や物質に含まれる水分を凍らせる。

ちなみに凍結は、あのミランダの得意な魔法である事が少し癪だ。

しかしこれで、魔法剣士としてやって行くめどがついた。
そう、言い切れる。

そして、習得までは行かなかったが……
不死者アンデッドに対し、優位に立てる葬送魔法のとっかかりをつかんだ。 

…と、いう事で今日の訓練も終了。
文句なしで万々歳、大収穫の一日だった。

ローラン様と一緒にロッジへ戻ると、既にシャルロットさんたち、フェルナンさんたちは帰還済み、俺たちは一番最後だった。

合同ミーティング前のひと時。

ホクホク顔というか、浮き浮き気分が俺の表情に出ていたのであろうか、
シャルロットさんが、駆け寄って来る。
彼女も機嫌が良さそうな、にこにこ顔である。

「うふふふ♡ エルく~ん! 私にはわっかるよお! 何か良い事あったでしょ?」

ここは素直に肯定しよう。

「ああ、シャルロットの言う通りだ、凄く良い事があったよ!」

「うふ♡ やっぱ、そうでしょ! すぐ分かっちゃった! だってエル君の彼女だもん♡」 

超が付く上機嫌のシャルロットさん。

俺は、更に切り返す事にもした。

「でも、シャルロットもそうだろ? 良い事あっただろ?」

「うふふふ♡ やっぱり分かるう? エル君は、私の彼氏だけの事はあるね!」

「ああ、分かるよ、訓練に進捗しんちょくがあったんだよな」

「ピンポーン! あった! あった! 聞いて! 聞いて! 私、風弾がすっごく上手く撃てるようになったよ」

「ああ、俺もそうだ」

「うふふ♡ 嬉しい! 一緒だね♡ それとね、初歩の回復魔法、『手当』も習得したの! 褒めて! 褒めてえ!」

「おお、褒めるよ! シャルロットは凄い、凄い!」

「えっへん! 凄いでしょ! 後でたっぷり手当を行使し、愛を込めて癒してあげる♡ それでエル君は?」

「ああ、俺はまず水弾を習得し、風属性の、小嵐、竜巻、水属性の、濁流、凍結も習得したよ。だから都合6種類の攻撃魔法を使えるようになった。それと葬送魔法も練習中だ」

「あはははは! 盛り沢山! エル君最高♡」

なんて、バカップルのようなやりとりをしていたが、

「くっそ! 相変わらず、リア充しやがって! 俺だって、剣技が格段に上達したぞ!」

と、お約束でフェルナンさんが怒りの乱入。

フェルナンさんへ聞けば、今日はバスチアンさんのフォローなし、
単独でゴブリン、オークに無双したらしい。

俺たち同期3人は各自が成長の跡を見せ、全員で盛り上がったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そして、いつもの通り、合同ミーティングが行われる事に。

本日も進行役はローラン様である。

ローラン様は俺たち新人3人を見て微笑む。

「新人はエルヴェ君以下3人とも、順調に結果を出しているようで何よりだ」

そしていきなり、指導担当変更の発表が為される。

「いきなりだが、明日は指導役を一部変更する。私はシャルロット君を、セレス、クリスはエルヴェ君を受け持つ。フェルナン君だけは、引き続き、バスチアンが受け持つ。そして訓練メニューは明日、各指導役から指示がある」

その発表を聞き、フェルナンさんはぶうぶうと言わんばかりの不満顔。

さすがにローラン様へは反論出来ず、無言だが。

「………………………」

しかしバスチアンさんが、フェルナンさんをにらみ、

「ああ? 新人3号! てめえはよ、俺が徹底的に鍛えるぞ。実際、今日も結果が出ただろ!」

論より証拠と、正論でねじ伏せられると、やはり反論出来ず、無言のままであった。

そして、シャルロットさんも遂に憧れのローラン様と訓練出来て、
これは大喜びと思いきや、

「………………………」

意外にも、口をへの字にし、頬を少しふくらませ、不満顔である。

やはりフェルナンさん同様、反論はしなかったが。

そんなこんなで、ミーティング終了後……

いつもの通り、夕食の支度を俺たち新人3人でする事に。

予備棟ロッジの厨房で、準備にいそしむ。

俺はどうして不満なのか、早速シャルロットさんへ尋ねてみる。

「どうした? シャルロット。ローラン様から教えを受けられるようになって、良かったじゃないか」

「う~」

しかし、シャルロットさんはすぐに答えない。

「何か、不満があるの?」

引き続き俺が尋ねると、シャルロットさんひと言。

「心配……」

と、つぶやいた。

「心配? 何が? 大丈夫だよ、ローラン様はしれっと厳しいけど、教え方自体は優しいよ。パワハラとか皆無だし」

対して、2日間、ローラン様から指導を受けた俺がそう言うと、
シャルロットさんは、ふるふると首を横へ振る。

「違うの……私、セレスさんとエル君がくっつかないか、心配なの」

な、何それ?
おいおいおい、何言ってるの?

驚いた俺は、シャルロットさんの言葉を繰り返した上で、質問する。

「は、俺とセレスさんが? くっつくう!? どうしてそう思うの?」

「だって、だって! 今日の訓練中もセレスさんったら、エル君の事、すっごく褒めてたのよ」

「え? セレスさんが俺の事を?」

「うん、エル君は才能に満ちあふれた素敵な男子だって」

才能に満ちあふれた素敵な男子?

いやいやいや、褒められて嬉しいけど、絶対恋愛対象としてじゃない、
教師的な評価でしょ。

それに俺は浮気シタオになる気は全くない。

散々裏切られたから、逆に裏切って、信頼を失いたくない。

「おいおい、シャルロット。セレスさんは単に、指導役として俺を認めるって事だと思うよ」

「でも……」

「俺はふらふらしない。シャルロット、お前の方が心配だよ」

「え? 私?」

「そう! ローラン様は王国民全員が憧れる英雄だし、イケメン。実力も地位も顔も俺は絶対に敵わないから」

そう俺が言うと、シャルロットさんは再び、ふるふると首を横へ振る。

「私も大丈夫! 単なる憧れと愛は違うから!」

きっぱりと言う、シャルロットさん。

そんな俺たちのやりとりを聞き、

「お前ら! 勝手にリア充やってろ!」

と、フェルナンさんは呆れたように言ったのである。
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