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第32話「俺に対するシャルロットさんの見送りを受け、声を聞いて、 フェルナンさんは心底うらやましそうにした」
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身分格差問題で、上手く行かないと悩む、フェルナンさんの婚約、結婚問題。
男爵家の3男坊フェルナンさんに対し、恋人は上級貴族、伯爵家のご令嬢。
彼女のお父上は、とある侯爵家長男次期当主との縁談を検討中だという。
絶望感に満ちたフェルナンさんからは協力を求められたが……
単なる同期で親交も浅い俺へ、責任を丸投げするようなお願いをされたので、
冗談じゃないと俺、憤慨。
そうは言っても見捨てるのも忍びないので、
可能な限り俺の出来る範囲内、確約不可の条件で協力を約束。
書面という形の念書を交わさせて貰う事にした。
大げさだと言われるかもしれないが、フェルナンさんの人生にかかわる問題だし、
トラブルはごめんこうむりたい。
念書に、法的拘束力はないと思われるが、
こういう場合、言った言わない、約束した約束しないの行き違いが一番の問題。
内容を事細かに箇条書きにして、日付、サインを記載し、拇印を押して貰った。
念書は大事にしまっておいた。
すったもんだしたが……ひとりで悩んでいたらしいフェルナンさんは、
だいぶ救いとなったようだ。
「エルヴェ君! ありがとう! 本当にありがとう!」
と、大いに感謝され、がっしと手を握られた。
でも俺は釘を刺す事を忘れない。
「言っときますけど、自分で努力して変わらないといけないですよ。他力本願は許さないですから」
「分かっている! 俺も頑張るから!」
「いやいや! 俺もじゃなく! 俺がでしょ? フェルナンさん自身の人生なんですから」
「分かった! エルヴェ君! 反省する! 俺は頑張るから!」
「フェルナンさん、それ絶対に、約束っすよ」
通常運転の口調に俺が戻った事にも、フェルナンさんは安心したらしい。
「豹変した時のエルヴェ君は、凄く怖かったよ」と、言われてしまった。
まあ、それが狙いだったんだけどね。
あのまま不毛な会話を続けても、らちが明かなかったから。
そんなこんなで……フェルナンさんの悩み相談は完了した。
なので、残りの時間を打合せにあてる。
ふたりでお茶を飲みながら。
フェルナンさんは、シャルロットさんが俺へ『ほの字』となっただけでなく、
冒険者家業に自信満々となった事も気になっていたようだ。
コツを教えてくれと言う。
シャルロットさんは魔法使い。
フェルナンさんは元騎士見習いで、戦士。
基本的には俺と同じ。
前衛で戦う事となる。
魔物、肉食獣の出現連絡までは同じだろうが、
シャルロットさんとは、だいぶ違う指導方法になるだろうな。
更に詳しくフェルナンさんに聞けば、
人間と戦うのは平気だが、魔物や動物が苦手らしい。
そんなんで良く冒険者になろうと思ったなと呆れたが、彼女の問題を解決する為には、他に方法がなかったのだろう。
まあ、既に1周したから、コースの勝手は分かる。
俺とフェルナンさんは、『散歩』について時間ギリギリまで、
綿密に打ち合せをしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
12時15分。
出発時間、12時30分より15分前。
元気が出て来たフェルナンさんを連れ、ロッジの外へ出ると、
出発の準備は既に完了していた。
俺の魔法杖は発射分の魔力充填が行われ、
改めてフル20発の風弾が撃ち出せるようになっていた。
今更だが、クランから貸与されたこの魔法杖はえらく高価だ。
何故なら、俺は似たモノを魔道具店で見た事があるが、
これより性能が落ちるものが、金貨300枚もしていた。
俺みたいな貧乏人に手が出せるものではない。
だから、この魔法杖は多分、金貨500枚は行くに違いない。
ちなみに、王都一般市民の年収が金貨250枚から400枚と言ったら、
その価値が実感出来るだろう。
研修が終わったら、くれないかな、これ。
と虫が良い事を考えてもみる。
フェルナンさんとストレッチをしていたら、あっという間に出発時間となった。
バスチアンさん、セレスさん、そしてシャルロットさんが見送ってくれた。
3人の中で、バスチアンさんだけ、俺たちの後をついて来る予定だ。
バスチアンさん、セレスさんは、
「さっさと行け。俺もすぐ出る」
「頑張ってね~」
そしてシャルロットさんが声を張り上げる。
「ふたりとも、いってらっしゃ~い!」
と言い、更に、
「エルく~ん!! 本当に気をつけてねえ!! 私も訓練頑張るからあ!! 早く早く帰って来てええ!!」
うわ!
凄い差別化。
あからさま。
俺に対するシャルロットさんの見送りを受け、声を聞いて、
フェルナンさんは心底うらやましそうにした。
伯爵令嬢彼女の事を思い出したのだろう。
俺はそっと、ささやく。
「勇気を出して、望みを叶えましょう。恋人の彼女の為なら、頑張れるでしょ?」
「お、おお! 頑張るぞ!」
と、フェルナンさんは、俺の静かなる檄を聞き、固く拳を握りしめたのである。
男爵家の3男坊フェルナンさんに対し、恋人は上級貴族、伯爵家のご令嬢。
彼女のお父上は、とある侯爵家長男次期当主との縁談を検討中だという。
絶望感に満ちたフェルナンさんからは協力を求められたが……
単なる同期で親交も浅い俺へ、責任を丸投げするようなお願いをされたので、
冗談じゃないと俺、憤慨。
そうは言っても見捨てるのも忍びないので、
可能な限り俺の出来る範囲内、確約不可の条件で協力を約束。
書面という形の念書を交わさせて貰う事にした。
大げさだと言われるかもしれないが、フェルナンさんの人生にかかわる問題だし、
トラブルはごめんこうむりたい。
念書に、法的拘束力はないと思われるが、
こういう場合、言った言わない、約束した約束しないの行き違いが一番の問題。
内容を事細かに箇条書きにして、日付、サインを記載し、拇印を押して貰った。
念書は大事にしまっておいた。
すったもんだしたが……ひとりで悩んでいたらしいフェルナンさんは、
だいぶ救いとなったようだ。
「エルヴェ君! ありがとう! 本当にありがとう!」
と、大いに感謝され、がっしと手を握られた。
でも俺は釘を刺す事を忘れない。
「言っときますけど、自分で努力して変わらないといけないですよ。他力本願は許さないですから」
「分かっている! 俺も頑張るから!」
「いやいや! 俺もじゃなく! 俺がでしょ? フェルナンさん自身の人生なんですから」
「分かった! エルヴェ君! 反省する! 俺は頑張るから!」
「フェルナンさん、それ絶対に、約束っすよ」
通常運転の口調に俺が戻った事にも、フェルナンさんは安心したらしい。
「豹変した時のエルヴェ君は、凄く怖かったよ」と、言われてしまった。
まあ、それが狙いだったんだけどね。
あのまま不毛な会話を続けても、らちが明かなかったから。
そんなこんなで……フェルナンさんの悩み相談は完了した。
なので、残りの時間を打合せにあてる。
ふたりでお茶を飲みながら。
フェルナンさんは、シャルロットさんが俺へ『ほの字』となっただけでなく、
冒険者家業に自信満々となった事も気になっていたようだ。
コツを教えてくれと言う。
シャルロットさんは魔法使い。
フェルナンさんは元騎士見習いで、戦士。
基本的には俺と同じ。
前衛で戦う事となる。
魔物、肉食獣の出現連絡までは同じだろうが、
シャルロットさんとは、だいぶ違う指導方法になるだろうな。
更に詳しくフェルナンさんに聞けば、
人間と戦うのは平気だが、魔物や動物が苦手らしい。
そんなんで良く冒険者になろうと思ったなと呆れたが、彼女の問題を解決する為には、他に方法がなかったのだろう。
まあ、既に1周したから、コースの勝手は分かる。
俺とフェルナンさんは、『散歩』について時間ギリギリまで、
綿密に打ち合せをしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
12時15分。
出発時間、12時30分より15分前。
元気が出て来たフェルナンさんを連れ、ロッジの外へ出ると、
出発の準備は既に完了していた。
俺の魔法杖は発射分の魔力充填が行われ、
改めてフル20発の風弾が撃ち出せるようになっていた。
今更だが、クランから貸与されたこの魔法杖はえらく高価だ。
何故なら、俺は似たモノを魔道具店で見た事があるが、
これより性能が落ちるものが、金貨300枚もしていた。
俺みたいな貧乏人に手が出せるものではない。
だから、この魔法杖は多分、金貨500枚は行くに違いない。
ちなみに、王都一般市民の年収が金貨250枚から400枚と言ったら、
その価値が実感出来るだろう。
研修が終わったら、くれないかな、これ。
と虫が良い事を考えてもみる。
フェルナンさんとストレッチをしていたら、あっという間に出発時間となった。
バスチアンさん、セレスさん、そしてシャルロットさんが見送ってくれた。
3人の中で、バスチアンさんだけ、俺たちの後をついて来る予定だ。
バスチアンさん、セレスさんは、
「さっさと行け。俺もすぐ出る」
「頑張ってね~」
そしてシャルロットさんが声を張り上げる。
「ふたりとも、いってらっしゃ~い!」
と言い、更に、
「エルく~ん!! 本当に気をつけてねえ!! 私も訓練頑張るからあ!! 早く早く帰って来てええ!!」
うわ!
凄い差別化。
あからさま。
俺に対するシャルロットさんの見送りを受け、声を聞いて、
フェルナンさんは心底うらやましそうにした。
伯爵令嬢彼女の事を思い出したのだろう。
俺はそっと、ささやく。
「勇気を出して、望みを叶えましょう。恋人の彼女の為なら、頑張れるでしょ?」
「お、おお! 頑張るぞ!」
と、フェルナンさんは、俺の静かなる檄を聞き、固く拳を握りしめたのである。
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