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第31話「てめえ、いいかげんにしろよ、潰すぞ」

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「そこでだ! 頼む! 一生のお願いだ! 俺がマエストロに認められる為、力を貸して貰えないか! たのむううう!!!!!」

またも涙目になったフェルナンさんは、板の前に土下座し、俺に懇願した。

フェルナンさんの人生がかかった一大事。
ターニングポイントと言って過言ではないだろう。

彼の気持ちは大いに分かるが……

「………………………」

すぐに返事をせず、しばし考え俺は言う。

「フェルナンさん、確かに貴方の考え方は正しいと思います。問題を解決するにはそれしかないでしょう」

「おお、そうか! エルヴェ君は賛同してくれるか? そうだろうな!」

「はい」

と言い、貴方の考え方だけは賛同します。
という言葉を飲み込んだ。

でもこの人、依存症だから、どうだろうか?
と疑念が……

案の定、フェルナンさんは、俺へ責任を丸投げするような発言を放って来る。

「で、では、助けてくれるのか。俺をローラン様に認めて貰えるように! 彼女と婚約し、結婚出来るように! 大丈夫だよな?」

「いえ、大丈夫って、それとこれとは話が別です」

「え? 話が別とは?」

フェルナンさんは、やっぱり理解していないと、俺は呆れ、

「確かに問題解決の方法は妥当だと思うので、同期のよしみとして、協力はします。やれる範囲内でという条件付きでならね。それに成功も確約しませんので」

「そんなあ!! やれる範囲内とか、成功を確約しないとか、そんな馬鹿な! 何とかしてくれよ!!」

「そんな馬鹿な! 何とかしてくれよ!! と言われても、成功の確約は絶対に受け入れませんよ。もしも上手くいかなくて、フェルナンさんが俺のせいにしたり、逆恨みしたら困りますし迷惑ですから」

「う、ううう……」

おいおい、俺フェルナンはそんな事はしないと、断言しないのか?
この人、どこまで他人へ依存するんだ?
ふざけるなよ?
自分の人生だろ?

だから俺は言う。

「貴方にも分かっているでしょう? ローラン様に認められるなんて、超がいくつも付く高難度案件です」

「う、ううう……」

自分でも高難度だと分かっているのだろう。

俺からきっぱり言われ、ぐずぐず泣き出すフェルナンさん。

ああ、もう情けない。
あんた、どこまでヘタレなんだよ。

なので俺は、あんたの願いは、誰にも簡単には履行出来ないと告げる。

「フェルナンさん。俺以外の誰だって、貴方の望みは安請け合いなど、絶対に出来ないですよ。まして俺の力なんてちっぽけなものだし」

「ひ、酷い!」

「全然、酷くないです」

「ここまでお願いしているのに、エルヴェ君は俺を見捨てるのか? 彼女をあきらめろって言うのかあ!」

おいおい、ここまでお願いしたらって、何なんだよ?

寝言は寝てから言えよ。

お願いすれば必ず望みは叶うと思っているのなら、
世間知らずの甘ちゃんにもほどがある。

そもそも、一体何だよ、これ?
人生の相談じゃないの?

痴話喧嘩かよ?
あほらしい。

成功の可否を俺だけのせいにして、フェルナンさんは、自身を省みず、
そんな事を言って来たから、さすがに腹に据えかねた。

そもそも、フェルナンさん自身が変わろうとしなければ、
幸せをつかむ事など出来ないだろうが。 

俺だって、心身を休めたいし、いつまでも不毛な会話をしていられない。

シャルロットさんの時同様、俺はハードモードで行く事にした。

これまでの口調をいきなり、がらりと変え、目つきも冷たくし、
低くどすのきいた声で俺は言う。

「おい、フェルナン・バシュレ」

やはり、俺の豹変ひょうへんにフェルナンさんは驚愕した。

すげえ、きょどる、きょどる。

「な、な、な、な!? 何だよお! い、い、い、い、いきなり呼び捨てにしてえ!!」

フェルナンさんは精一杯虚勢を張り、反論して来たが、俺は更に言う。
容赦なく、小虫でも殺すように殺意を込めて。

「てめえ、いいかげんにしろよ、潰すぞ」

「ひえ!!??」

目を大きく見開き、フェルナンさんは、悲鳴をあげた。

「くそが! 半人前のあほガキみたいに、いつまでもヘタレた事言ってんじゃねえ。てめえの人生だろうが」

俺が言い放つと、逆切れするかと思えば、フェルナンさんは、泣き出してしまう。

「う、ううう……」

「てめえ自身がてめえの力で変わらないと、だめなんだよ。他人にばかり頼るんじゃねえ」

「う、ううう……」

「あまりぐだぐだ言ってると、協力もしねえぞ」

「ご、ご、ごめんなさい」

「よし! さっきの条件なら協力はしてやる。てめえは同期だし、基本的には良い奴だからな。但し、後でトラブルはごめんだから、念書にして貰うぜ」

「わ、わ、分かりました……念書にしますう……」

まあ、同情すべき事情ではあるし、ここまで話を聞き、見捨てるのも心苦しい。

……というわけで、俺はフェルナンさんの恋路に協力する事となったのである。
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