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第136話「謎のソウェル」

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 全く臆さず、強気なダンに押され気味の『影』は訝し気に尋ねる。

「な、何? ギブアンドテイク?」

「ああ、そうだ。あんたの希望通り、俺は余計な事は言わない。その代わり、こちらが探している行方不明者に引き合わせてくれ」

 ダンから出た条件提示は……
 相手が、この迷宮における人間失踪に絡んでいると、断定してのものだ。

「行方不明者だと?」

「この迷宮は、俺達の間では、別名人喰いの迷宮……頻繁に人が居なくなる。行方不明者の多発地帯だ。当然あんたらは、良く知っているだろうよ」

「むむ……」

「中でも、俺達が特に探しているのは……少し前に行方不明になったフレイムというクラン、それと俺の義理の兄……いや、ルネという冒険者だ」

 ダンが、ルネというニーナの兄を……
 自分の兄という言い方から、実名へと言い換えたのには理由がある。
 妹ニーナが、ダンと結婚したのを、ルネは知らないと考えたからだ。

「むう~」

 ダンから具体的な名を聞き、『影』は答えられないのか、言葉を濁した。

「一応言っておくが、あんたが小細工したり、俺達が探している者へ下手な事をしたら、無理やり押しかけるぞ」

「小細工? 無理やりだと!?」

「ああ、もし今告げた者を人質に取るとか、罠を仕掛けるとか、姑息な真似をしたら容赦しないという事だ。俺は転移魔法も使えるからな」

「う! や、やはり転移魔法を使えるのか!」

 ダンが魔法で姿を隠すだけではなく、転移魔法も使えると聞き、『影』は完全に圧倒されていた。

「そうだよ。あんたが居る場所はもう特定した」

「な、何!」

「あんたの出方次第では、魔法を使って、直接乗り込んでも構わない。いっそ、その方が早いが、どうする?」

「う……うう……」

「おやぁ? 唸り声しか聞こえないが?」

「…………」

「おい! どうするんだ? 腹を決めろ。俺の方から、すぐ出向いてやる、そう言っているんだ」

「…………」

 とうとう『影』が口籠ってしまった、その時。
 王の間に、大きな笑い声が響く。

「ははははは! ラッセ、その男、お前の手には負えないようだぞ」

「ソ、ソウェル!」

 ラッセと呼ばれた『影』がまたも発した、『ソウェル』
 即座に反応したのは、やはりヴィリヤである。

「ちが~うっ! こんな場所にソウェルは居ないのっ」

 ヴィリヤの叫びを聞いた、『ソウェル』は面白そうに笑う。

「ははは、もう良い。私が相手をしよう。その男には、大いに興味がある。ついでにそのエルフもな」

 まるで火に油を注ぐような『ソウェル』の物言い。
 案の定、ヴィリヤの怒りは頂点に達する。

「ついで? 私がついでって何よ! ごらぁ!」

「どうどうどう!」

 先程とは、立場が全く逆となった。
 今度はエリンが「がばっ」と抱きつき、暴れるヴィリヤを押さえたのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 15分後……

 ダンの魔法もあり、ヴィリヤは「やっ」と落ち着いた。
 ここまで来て、『ボロ』を出したらたまらない。
 『ソウェル』や『影』には分からぬよう、ダンから念話でも諭されたのである。

「私は、リストマッティ。申し訳ないが、君の名を教えてくれないか?」

 『ソゥエル』は意外にも、自ら名乗ってくれた。
 礼を尽くした? 『ソウェル』リストマッティに対し、ダンも名乗る事にする。

「ああ、俺はダン、ダン・シリウスだ」
「私はエリン、エリン・シリウスだよ」
「わ、私は……ヴィリ、じゃない……ゲルダ、ゲルダ・ボータス……よ」

 ダンに続いてエリンも名乗り、ヴィリヤはつい本名を言いそうになり、慌てて訂正した。

「ふむ、ふむ……」

 3人の名乗りを聞いたリストマッティは、記憶を手繰っているらしい。

「成る程……先ほどダン殿が言った人間の冒険者達は確かに居る。そして、こちらとしては争いたくない。平和的にやり取りする事を条件に引き会わせてやろう。これで良いかな?」

 先程告げたダンからの要望を、リストマッティはしっかり覚えていたようだ。
 ダンとしても、普通に話し合いで解決出来れば、何の異存もない。

「ああ、こちらは最初から平和主義さ」

「うむ、ありがたい。ではこちらからも提案がある。ダン殿、貴方が見破ったという、我が方への通路を通って来て貰えるか?」

 我が方への通路……
 ダンが見破った……

 どうやらリストマッティは、何か機会を見ては、ダンの力を試そうとしている。
 ダンも当然、承知しているのだろう。

「それは構わないが、特別な魔法鍵《マジックキー》や合言葉《パスワード》が必要なのだろう?」

「おお、さすがだな。その通りだ。では魔法鍵は開錠し、合言葉も不要としておく。今扉を開くから、そのまま行けるぞ」

「分かった。こちらも安全の為に護衛をそのまま連れて行くが、構わないか?」

「護衛……ほう! もう言葉もない。ずっと見させて貰ったが……やはりダン殿は、火蜥蜴サラマンダーとケルベロスを、自分の意のままに従えているのか?」

「そうだ」

「ふむ、さすがだ……」

 リストマッティは感嘆の息を吐く。
 そしてダンの傍に、火蜥蜴サラマンダーとケルベロスが控えたのを見計らってか……
 『王の間』の一角の、岩壁が魔力を帯び、煌々と光り出す。

 そして、光は扉の形となり、音もなく左右に開いたのであった。
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