31 / 38
第30話「城を出て街へ行こう②」
しおりを挟む
俺がこれから生きて行くアルカディア王国を具体的にイメージして貰う為、
少しだけ補足説明をしよう。
アルカディア王国は約150年前、5代前のバンドラゴン王家当主が北の地から魔物を駆逐し、人間が住まない荒野を切り開いて建国した。
王都と定めたブリタニアは、当初モット・アンド・ベリーという様式で造られた簡素で小さな町であった。
これは地球の中世西洋でも良く取り入れられた建築方法でもある。
もう少し詳しく言えば、モットと呼ばれた盛り土部分に城が築かれ、
領主バンドラゴン家が居住し、その周囲に従士達が粗末な家を建てて生活した。
そして町をぐるりと木柵で囲み、魔物や敵軍の脅威を防いだのだ。
代を経て……バンドラゴン家の先々代当主つまりアーサーの祖父にあたる人物は中々の傑物で統治能力に優れていた為、地味ながら国は結構栄えた。
木柵の外部には他領地から脱走した農奴などが住みつくようになり、
ブリタニアの町も著しく発展して行く。
木造建築が主だったブリタニアの町も、この異世界全体の発展と技術の進歩に伴い、石造りの『街』へ変わって行った。
現在のブリタニアは典型的な中世西洋風の街。
中央に大きな広場があり、放射線状に道が延びており、
道に仕切られる形で様々な街区に分かれている。
うん、アーサーから貰った記憶と知識通り。
あと何回か視察すれば完全に勝手が分かるだろう。
街の風景を見ながら、俺が頭の中で、歴史の復習をしていたら……
付き従うエリックが「ぶうぶう」不満を洩らす。
自分の着ている服がボロで気に入らないらしい。
というか完全に嫌がっている。
俺達は今、目立たぬよう、じみ~な平民風の服を着ていた。
そして、王都ブリタニアの中央広場を歩いているのだ。
エリックは手で顔を隠して歩いている。
知り合いには絶対に顔を見られたくないらしい。
普通じゃない変なポーズになっているから、逆に目立っていて、
まるで不審者そのものだ。
おいおい!
そんな事したら、却って注目されるだろう。
俺はついイラっとした。
しかし、エリックはまだ覚悟を決められない。
「アーサー王子、これではあんまりです。遊び人みたいな格好です。品が無さ過ぎます」
ああ、うるさい!
だがここで、厳しく怒鳴りつけたらエリックは委縮する。
まあ信長なら、「たわけ」と罵倒し、いきなり張り飛ばすだろう。
しかし俺は、優しく諭《さと》してやる。
「遊び人? いや俺はそうは思わないぞ」
「で、ですが」
「領主の視察には、目立たず実用的で良い」
「は、はあ……でも」
「あまりぐだぐだ言うと、もう二度と供をさせぬぞ」
「わ、分かりました! も、申し訳ありません」
と、一旦は了解したものの……
また大きくため息を吐き、愚痴っている。
「ううう、本当に情けない。こんな薄汚い格好を弟にでも見られたら絶好のからかいネタに……」
「いいかげんにしろ! 覚悟を決め、黙って歩け。俺はこの街をじっくりと見極めたい」
「はぁ? 今更どうしてです? ここは王子が生まれた街ですよ! 散々見慣れているでしょうに……あ、待って下さいよぉ」
貴重な時間は限られている。
これ以上、エリックの愚痴に構ってなどいられない。
俺は「すたすた」と歩き出す。
説得を諦めたエリックが、大きな溜息をついて俺について行こうとした、
その時。
「おお、そこの恰好良いお兄さん達、良い仕事紹介するよっ」
鈴を鳴らすような可愛い声が俺達を呼ぶ。
「ん?」
「誰だ?」
「こっちですよ、こっち!」
声のする方を見ると栗鼠のような顔立ちをした可憐な少女が、
笑顔で手招きしていた。
ブリタニアの中央広場には、ささやかながら毎日市が立っている。
風体からすると、少女はどこかの店主らしかった。
「ふむ、結構可愛い子じゃないか? あんな女の子がどのような商売をしているか興味がある。少し見てやろう」
俺が乗り気になったのを見て、エリックが驚く。
「えええっ!? 王子、やめておきましょう、凄く怪しいですよ」
俺が構わず歩きかけたので、エリックは両手を広げて制止した。
まあ、その忠義は一応評価しておこう。
さてさて!
遠目に見ると少女は柔和な笑顔を浮かべている。
だが、普通の客引きではなく何か思惑がありそうだ。
「いや、ちょっと面白そうな女子だぞ」
「面白そうな女子って……王子は世間知らずでいらっしゃいますね」
「俺が世間知らず?」
「そうですよ! あんなに可愛い子があのような不自然な笑顔で私達を誘うとは……話がうますぎます。美人局《つつもたせ》か、何かかもしれません」
「エリック、会って話してもいないのに変な先入観を持ってはいけないな。とりあえず、行ってみよう」
俺は嫌がるエリックを諭すと、少女の店へ向かったのである。
少しだけ補足説明をしよう。
アルカディア王国は約150年前、5代前のバンドラゴン王家当主が北の地から魔物を駆逐し、人間が住まない荒野を切り開いて建国した。
王都と定めたブリタニアは、当初モット・アンド・ベリーという様式で造られた簡素で小さな町であった。
これは地球の中世西洋でも良く取り入れられた建築方法でもある。
もう少し詳しく言えば、モットと呼ばれた盛り土部分に城が築かれ、
領主バンドラゴン家が居住し、その周囲に従士達が粗末な家を建てて生活した。
そして町をぐるりと木柵で囲み、魔物や敵軍の脅威を防いだのだ。
代を経て……バンドラゴン家の先々代当主つまりアーサーの祖父にあたる人物は中々の傑物で統治能力に優れていた為、地味ながら国は結構栄えた。
木柵の外部には他領地から脱走した農奴などが住みつくようになり、
ブリタニアの町も著しく発展して行く。
木造建築が主だったブリタニアの町も、この異世界全体の発展と技術の進歩に伴い、石造りの『街』へ変わって行った。
現在のブリタニアは典型的な中世西洋風の街。
中央に大きな広場があり、放射線状に道が延びており、
道に仕切られる形で様々な街区に分かれている。
うん、アーサーから貰った記憶と知識通り。
あと何回か視察すれば完全に勝手が分かるだろう。
街の風景を見ながら、俺が頭の中で、歴史の復習をしていたら……
付き従うエリックが「ぶうぶう」不満を洩らす。
自分の着ている服がボロで気に入らないらしい。
というか完全に嫌がっている。
俺達は今、目立たぬよう、じみ~な平民風の服を着ていた。
そして、王都ブリタニアの中央広場を歩いているのだ。
エリックは手で顔を隠して歩いている。
知り合いには絶対に顔を見られたくないらしい。
普通じゃない変なポーズになっているから、逆に目立っていて、
まるで不審者そのものだ。
おいおい!
そんな事したら、却って注目されるだろう。
俺はついイラっとした。
しかし、エリックはまだ覚悟を決められない。
「アーサー王子、これではあんまりです。遊び人みたいな格好です。品が無さ過ぎます」
ああ、うるさい!
だがここで、厳しく怒鳴りつけたらエリックは委縮する。
まあ信長なら、「たわけ」と罵倒し、いきなり張り飛ばすだろう。
しかし俺は、優しく諭《さと》してやる。
「遊び人? いや俺はそうは思わないぞ」
「で、ですが」
「領主の視察には、目立たず実用的で良い」
「は、はあ……でも」
「あまりぐだぐだ言うと、もう二度と供をさせぬぞ」
「わ、分かりました! も、申し訳ありません」
と、一旦は了解したものの……
また大きくため息を吐き、愚痴っている。
「ううう、本当に情けない。こんな薄汚い格好を弟にでも見られたら絶好のからかいネタに……」
「いいかげんにしろ! 覚悟を決め、黙って歩け。俺はこの街をじっくりと見極めたい」
「はぁ? 今更どうしてです? ここは王子が生まれた街ですよ! 散々見慣れているでしょうに……あ、待って下さいよぉ」
貴重な時間は限られている。
これ以上、エリックの愚痴に構ってなどいられない。
俺は「すたすた」と歩き出す。
説得を諦めたエリックが、大きな溜息をついて俺について行こうとした、
その時。
「おお、そこの恰好良いお兄さん達、良い仕事紹介するよっ」
鈴を鳴らすような可愛い声が俺達を呼ぶ。
「ん?」
「誰だ?」
「こっちですよ、こっち!」
声のする方を見ると栗鼠のような顔立ちをした可憐な少女が、
笑顔で手招きしていた。
ブリタニアの中央広場には、ささやかながら毎日市が立っている。
風体からすると、少女はどこかの店主らしかった。
「ふむ、結構可愛い子じゃないか? あんな女の子がどのような商売をしているか興味がある。少し見てやろう」
俺が乗り気になったのを見て、エリックが驚く。
「えええっ!? 王子、やめておきましょう、凄く怪しいですよ」
俺が構わず歩きかけたので、エリックは両手を広げて制止した。
まあ、その忠義は一応評価しておこう。
さてさて!
遠目に見ると少女は柔和な笑顔を浮かべている。
だが、普通の客引きではなく何か思惑がありそうだ。
「いや、ちょっと面白そうな女子だぞ」
「面白そうな女子って……王子は世間知らずでいらっしゃいますね」
「俺が世間知らず?」
「そうですよ! あんなに可愛い子があのような不自然な笑顔で私達を誘うとは……話がうますぎます。美人局《つつもたせ》か、何かかもしれません」
「エリック、会って話してもいないのに変な先入観を持ってはいけないな。とりあえず、行ってみよう」
俺は嫌がるエリックを諭すと、少女の店へ向かったのである。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます
空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。
勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。
事態は段々怪しい雲行きとなっていく。
実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。
異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。
【重要なお知らせ】
※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。
※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
異世界で【配達スキル】を使ってダンジョンまでデリバリーしたいと思います。
黒猫
ファンタジー
日本でアルバイトでデリバリーの仕事をしたらトラックに跳ねられてしまった。
でも、神様のイタズラなのか目を覚ますと僕は異世界に着ていた。
神様からもらった[配達]のスキルを使ってこの世界でもお金を稼いでみせる!
でも、まさかトラブルの連続に僕の異世界ライフはどうなってるんだ!?
攻撃力ゼロでも配達のスキルで生き抜くファンタジーをお届けします!
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる