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第13話「イノシシ柴田を仕留めろ!」

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 俺に殴られた宰相オライリーが、「ごろごろ」と床に転がり……
 その場に居た者達は、「到底信じられない!」という表情で呆然としていた。

 俺だって、聞いた事がない。
 ラノベだってそんなシーンは記憶にない。

 第一王子が王宮において、他の部下達の目の前で、
 王、第一王子の次に位置する実力者、
 実質的に王国ナンバースリーの宰相をぶん殴るなんて。
 前代未聞、無茶苦茶である。

 アーサーの母王妃アドリアナも、目を丸くして、
 更に口を「ポカン」と開けていた。

 だが、しばし経つと……全員がショックから立ち直った。
 オライリー麾下の騎士達は勿論、アルカディア王国騎士団団長で騎士達の中心人物、ガレス・シードルフ伯爵が、詰め寄って来たのだ。
 
 詰め寄った騎士は50人以上居た。
 当然、王宮でいきなり暴力を振るった王子たる俺に対しての責めである。

 傍らに居た、マッケンジー公爵が俺の盾になろうとする。
 だが、俺は手で制して前に出た。

 シードルフ伯爵の目尻は興奮と怒りの為か吊り上がり、瞳はギラギラしていた。
 言葉にも怒気がこもっている。

「アーサー王子」

 低い、ドスの効いた声で呼びかけたシードルフ。
 しかし、俺は動じない。
 臆しもしない。
 邪神ロキによって授けられた信長スキルの性格が、
 しっかり補正している。

「おう、何だ?」

「おう? 何だ? ではありません。罪なき無抵抗の宰相に、いきなり暴力をふるうとは何たる事! いくら主筋でもこのシードルフが許しませぬぞ」

 ちなみにシードルフは、アーサーの弟コンラッドの『守り役』でもある。
 つまりコンラッドが織田信行、シードルフが柴田勝家という役回りなのだろう。
 
 西洋人という外見で顔付きなどは全く違うが、
 ロキの奴、『信長設定』には凝ってくれたらしい。

 そして、憤るシードルフの心を『サトリ』によって即座に読めば……
 やはりオライリーの『悪計』にも一枚噛んでいた。
 
 当然、この俺、アーサーを亡き者にするという邪な計画だ。
 もう、何をか言わんやである。
 でもやっぱりこいつは柴田勝家、所詮は猪突猛進で、脇が甘い。

 俺は苦笑して、床にのびているオライリーを顎で指し、逆にシードルフへ問い質す。

「ほう! もう一度申してみよ。こいつには何の罪もないだと?」

「その通り!」

「しれっ」と嘘をつくシードルフを見て、俺は思わず笑ってしまう。

「で、あるか? ははははははははは!!!」

「お、王子っ! な、何が! 可笑しい?」

 部屋中に響き渡る俺の大笑い。
 気色ばむシードルフ。
 
 対して、俺は鼻を鳴らす。

「ふん、……笑止! としか言いようがない」

「むう……笑止とは!」

「このたわけがっ! 俺はさっきちょっとした運動をした」

「ちょっとした運動?」

「おう! 無頼の輩どもを捕えたのだ」

「無頼の輩ども? 一体どういう事でしょう?」

「ははははは! 奴らは徒党を組み、街道で待ち伏せ、俺を襲い、殺そうとした。爺が証人だ」

「…………」

「捕えた首領を尋問すれば、真実が明らかになる。裏でどこの誰が動いていた、とかな」

「…………」

 無言となったシードルフへ、俺はにやりと笑う。

「ふん! 惚けおって! ひとつ聞こう。先月の1日午後2時、お前はオライリーの屋敷で何をしていた?」

「は?」

「何やら、酒を酌み交わし、嬉しそうに何回も乾杯していたな? あれは祝杯か? 確かお前は白ワイン、オライリーは赤ワインでな。つまみはチーズだったか?」

「な、な、なっ!?」

「誤魔化せると思ったか! 貴様とオライリーが俺の居ぬ所で何をたくらみ話していたのか、俺が全て知っておると申したらどうだ?」

「え!?……お、王子が、な、な、な、何を仰っていられるか、皆目……」

 アーサーすなわち俺を謀殺する計画を立てていた癖に……
 惚《とぼ》けまくるシードルフへ、俺は『最後通告』を行う。

「ほう! 俺の言う事に、皆目見当がつかん、つまり心当たりがないと言うのか?」

「あ、あ、ありませぬっ!」

「で、あるか。ならば言っておこう……オライリーにも告げたが、俺はな、つまらぬ嘘が大嫌いだ!」

「…………」

「貴様が吐いた今の言葉が、創世神様に誓って真実だというのであれば、俺は土下座して詫びるがな、どうだ?」

「…………」

 ここまで言われたら、いくらシードルフでも「しれっ」とは返せない。
 遂にダンマリとなってしまった。

 黙秘権の行使も困るので、ここで、俺はもうひと押し。

「だが! もしも俺の言う通りなら、偽証罪により貴様をバカ息子共々、王都の広場にて極刑に処す。不埒《ふらち》な反逆者親子としてな」

「な? わ、私が不埒な反逆者? 息子も?」

「そうだ! お前の息子も罪を犯しておる! 俺が知らぬとでも思っているのか?」

 俺が敢えて息子の話を持ち出したのも『手』である。
 
 アーサーから貰った知識によれば、
 シードルフの息子は、理由《わけ》あって、彼の死んだ兄の子なのだ。
 そして奥さんも、兄の奥さんだった人。
 だからなのか、ふたりに対しては気を遣い過ぎる傾向があるという。

 それを良い事に彼の息子は市中でやりたい放題。
 伯爵子息である事を盾に、無抵抗の民へ暴力をふるい、
 若い女性をからかい、商店からは無断で商品を持って行く。
 大が付く迷惑をかけまくりなのだ。

 シードルフは、息子にとても甘く、
 『悪行』を見逃していたらしい。
 だから揺さぶりを掛けたのだ。

「シードルフ! お前もオライリーも父親失格だ!」

「は? ち、父親失格? な、何の事でしょう?」

 やっと声が出たシードルフであるが……
 もう完全に防戦一方だ。
 
 これ以上「ぐだぐだ」やるのは嫌なので、俺はそろそろクロージングへと入る。
 
 チラ見すれば、オライリー麾下の騎士達も、全員怯えた顔をしていた。
 俺とシードルフのやりとりを見て、負け犬の如く完全に尾を丸めてしまったのだ。

 『とどめ』とばかりに俺はこれまたスキル『魔王の威圧』を軽めに使う。
 騎士達は皆、小さな悲鳴をあげ、身体を強張らせる。
 恐怖から、「ぺたん」と尻モチまでつく者も居た。

 俺は改めてシードルフを見据え、一喝する。

「たわけがっ! もう忘れたのか? 先ほど言ったであろう、父親失格とはお前達のバカ息子の事だ!」

「な、何を仰る!」

「はっ! 俺からわざわざ言わんと分からぬとは、この愚か者めっ!」

「う、ううう……」

「オライリーの息子とお前の息子、バカが2匹つるみ、貴族の子弟である事をかさに着て、この王都の市民に乱暴狼藉を働いている事だ」

「あ!」

 やはりシードルフは、俺を舐めていた。
 俺の暗殺計画なんか、知らぬ存ぜぬで、惚《とぼ》けまくれば良いと考えていたに違いない。
 
 まさか、息子の行状を盾に切り返すとは、全く予想をしていなかったのだろう。
 完全に虚を衝かれていた。

「何が、あ! じゃ! このたわけが! くそバカ息子をいつまでも放し飼いにしおって! 父親として失格! 完全に監督不行き届きだ!」

「…………」

「もう一度言おう。お前とオライリーが俺の居ぬ所で何を話していたのか、相談していたか、全てを知っておるぞ!」

 最後には、暗に匂わせる。
 はっきりとは言わない。
 事が事である。
 俺の『暗殺計画』をここで明るみに出せば、大騒ぎとなるのは確実だから。

「…………」

「お前には心当たりがあろう! だから更生する最後のチャンスをくれてやる。二度はない! オライリーは首謀者ゆえ絶対に許さぬ!」

 息子の件で散々攻めた後で、本題の悪行を問い質す。
 これはもう、様々な角度から攻めた俺の完勝である。
 突っかかって来たシードルフは潔く遂に白旗をあげた。

「………ま、ま、参りましたっ! これ以上言い訳出来ませぬ! も、申し訳ありませぬ!」

「よし! シードルフ! 俺には完全に降参するな?」

「は! 平にご容赦を!」

「ならば、今回だけは特別に許す! 俺にちゃんと仕えるか、否か、今後の行いでしかと見せてみよ!」

「あ、あ、ありがとうございます! アーサー王子の寛大なお心に感謝致しますっ!」

「うむ! 今後は、その脇の甘さ、直せ! あ、息子は勘当とか、勝手に仕置きするなよ。お前共々、再びチャンスを与えてやる」

「は、ははっ!」

「しばしの間、蟄居《ちっきょ》せよ。だがすぐに呼ぶ、それまでしっかり息子を諭《さと》し、教育せよ! 俺が呼んだ時は必ず親子で王宮へ出仕するのだぞ!」

 マッケンジー公爵以上……否、直伝といえる、俺の信長流マシンガントークに、
 シードルフはひたすら恐れ入っている。
 
 またこの場に居た『陰謀賛同者達』も恐れ入っただろう。
 良い見せしめになったに違いない。

「は、ははっ! あ、あ、ありがたき幸せっ!」

 こうして……
 俺がオライリーを殴打した『事件』は、
 なんという事もなく、鎮静し、収束してしまったのであった。
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