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第11話「襲撃②」

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「使い古された言い方だが、攻撃は最大の防御という、ここは反撃、奇襲あるのみだ」

「き、奇襲!?」

 と、驚くマッケンジー公爵へ、俺はきっぱりと言い放つ。

「この辺りは幼い頃から爺と遊んだ『俺の庭』じゃ。地形はしっかり熟知しておるわ」

「た、確かに……その通りでございますな」

「ふん、奴らが潜む場所の見当はついておる。俺に作戦がある」

「作戦?」

「囮を使う! 爺、お前と騎士1名で囮となってくれ」

「え? わ、私がですか?」

「おう、襲撃ポイントまで気付かぬふりをして、並足で行き、手前で回れ右して全速力で撤退せい! 大袈裟なポーズで襲撃に驚いた風を装い、敵をおびき寄せ、油断させるのだ……死ぬなよ」

「して、そ、その後は?」」

「おう! 奴らの狙いは絶対にこの俺さ。だから標的が居ないのを見て、不審に思い、必ずやお前達の後を追うはずだ。その間に俺とエリック、騎士の3名で大きく回り込み、奴らの背後から奇襲をかける」

「な、何と! 大胆な!」

「ふん、奴らは俺達が襲撃に気付いているとは知らぬだろう。その上、少人数ゆえ、反撃するとは思っていまい」

「た、確かに! 手ぐすねを引いてこちらが通るのを待ってるはずだと」

「だな! そして俺が目指すは敵の首領、ただひとり! 背後から襲うのを卑怯だと抜かすなよ、爺」

 呆気に取っられているマッケンジー公爵を尻目に、俺は不敵に笑った。

 ……今日は俺の嫁、隣国アヴァロン王女イシュタル輿入れの日。
 そんな日に夫アーサーは、何故なのか王都郊外の森へでかけ、
 挙句の果てに死んでしまった。

 死んだ云々は内緒だし、ばれないから置いといて……
 アーサーと入れ替わって転生した俺、雷同太郎は部下達と共に一刻も早く王宮へ戻らねばならない。

 しかし正体不明な奴らの待ち伏せがあった…… 
 死中に活を求める……
 そのような気構えで、俺の立てた作戦が開始される。

 囮役のマッケンジー公爵と騎士1名は、街道をそのままゆっくり進む。
 一方、俺はエリックと騎士を率い、待ち伏せしている奴らの背後へ回り込む。

 やがて囮に気付き、追撃しようとする敵の背後から、俺達は奇襲をかける。
 狙うは敵の首領のみ。
 
 これは世に有名な『桶狭間』と同じ戦い方である。
 少数の俺達はまともに長々と正攻法で戦うのは不利。
 
 なので一隊を率いる者を、押さえ、戦闘不能にする。
 首領を確保されれば、奴らは士気を失い、結束は瓦解する。
 そう見たのだ。

 街道から森へ入った俺とエリック、騎士は途中まで、馬で進む。
 そして途中から馬を残し、奴らがマッケンジー公爵を追おうとした瞬間、
 奇襲をかける。

 チート能力『サトリ』の応用により、発して来る気配から敵の位置は掴んでいる。
 この森も手に取るように、勝手が分かる。
 
 俺達は気付かれぬよう大回りして、進み……
 とうとう奴らの背後に回り込んだ。

 改めて見やれば……
 奴らは食い詰めた傭兵、もしくは山賊などの無頼者、
 そういった奴らの混合部隊のようだ。
 誰かに「金で雇われましたよ」感が半端ない。

 俺はエリック達へ告げる。
 声のトーンを落とし、静かに……

「いいか、ぎりぎりまで声を出さず物音を立てるな。静かにし、俺に続け、目指すは首領のみ、奴らのリーダーが誰なのか、俺には分かる」

「はい」
「了解です」

 待機して、約10分が過ぎた……
 俺は軽く息を吐いた、その瞬間!

 奴らから鬨《とき》の声が上がった。
 囮役のマッケンジー公爵達に気が付いたようだ。

 見ていたら、奴らはすぐに移動を始める。
 ばらばらと街道へ……
 計算通り、追撃を始めたのだ。

 こんな時、首領は一番最後に、おもむろに行動すると相場が決まっている。
 加えて、俺にはサトリで相手の素性も分かる。

 頃合いだ!
 俺は手を前に大きく振った。

 さっき、エリック達へ厳命した通り、
 こちらからの攻撃は無言で行う。
 名乗りをあげたりはしない。

 突撃!

 俺は全速力でダッシュする。
 常人の10倍といえる、俺の凄まじいスピードに慌てたエリック達、
 一生懸命に後を追うが、ついて来られるわけがなかった。

 護衛を3人連れ、おもむろに腰をあげた首領、
 さすがに俺が駆け寄るのに気付いたが……
 気付くのも、動きも遅いよっ、遅い、遅すぎるっ!

 俺は護衛3人を素早く殴り倒すと、首領の首を「がっし!」とつかみ、確保。
 左手だけで高々とネックハンギングした。

 パンパンパンパンパンパンパンパン!!!

 そして右手で平手10連発!
 左右の頬を容赦なく打たれ、首領は呆気なく気絶していたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 俺の見立て通りだった。
 首領を取り押さえられ、奴らの結束は完全に瓦解した。

 30人あまり居た半数以上が逃げ去り、残りは降伏したのである。

 結局、俺は首領と幹部ひとりを確保し、残りは放免した。
 全員を連行するには人数も時間もないからだ。
 それに首領の心をサトリで読み、この襲撃を実行させた『黒幕』の正体を俺はつかんでいた。

 そんなこんなで……
 確保した首領達の尋問は後回し、連行をエリックと騎士ふたりに任せ、
 俺とマッケンジー公爵は、急ぎ王都へ馬を走らせる。

 30分ほど走ると、故国となったアルカディア王国王都、
 ブリタニアの古びた街壁が見えて来た。

 アーサーから貰った知識によれば、このブリタニアの人口は約8,000人余り……
 一国の都にしては、大きい街ではない。

 中二病たる俺の知識によれば……
 13世紀のロンドンが8万人、14世紀のパリが10万人の人口を誇っていたから、
ブリタニアは大きいどころか、こじんまりした街だといえるだろう。

 このブリタニアで……
 王族となった俺の全く違う生活が始まる。
 これまでの俺、素の太郎であれば、臆し、ぶるっていたに違いない。

 しかし今の俺は全く違う。
 文字通り生まれ変わった転生者。

 アーサーから受け継いだ知識と経験が根幹にあり、信長スキル等の、
 心強いチートもある。
 勝手や作法もばっちりだ。

 そして、このブリタニアで、
 結婚したばかりである俺の嫁イシュタルが待っている。

 あはは、皮肉なもんだ。
 結婚なんて夢のまた夢。
 キスどころか、デートしたことさえない俺が、いきなり結婚とは……
 現世の太郎のままだったら、一生独身だっただろう。

 ふと幼馴染の『彼女』を思い出した。
 笑顔が素敵な初恋の彼女は、
 いずれお似合いなイケメンの彼氏と結婚するに違いない。

 『単なるコンビニの客』を装って話しても、特別な反応もなく、
 俺と彼女が幼い頃話をした記憶など、もう時の彼方へ消え去っているに違いない。
 
 そして次元と時間軸が違う、遠き異世界へ来た俺は、
 彼女とは二度と会う事はないだろう。

 でも……構わない。
 どこかで幸せに暮らしてくれれば、それでOKだ。

 一方、生まれ変わった俺は、新たな人生へと踏み出す。

「つらつら」と考えた俺は、気が付けば王宮正門の前に立っていた。

 俺雷同太郎が転生したアーサーと、マッケンジー公爵のふたりは……
 馬に乗ったままアルカディア王国王都ブリタニアの街中を一気に駆け抜け、
 王宮へ到着していたのだ。


「開門《かいも~ん》!!! アーサー第一王子と他1名、帰還《きか~ん》!!!」
 
 年齢に似合わないマッケンジー公爵の、張りのある大音声。
 慌てた門番は、王宮の正門を力一杯左右に押し開いたのであった。
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