上 下
7 / 38

第6話「詰んだ人生、俺に任せろ!①」

しおりを挟む
 ここで俺は何だか違和感を覚える。

 ん?
 正対する幽霊少年が告げた名はアーサー……バンドラゴン?
 中二病の俺には、どこかで聞いた事がある名前だ。
 
 ええっと、ああそうだ。
 思い出した!

 アーサーって……
 あの円卓の騎士とか聖剣、聖杯で超有名な『アーサー王』じゃないか。
 
 でもほんの少し『苗字』が違う。
 
 確か、あっちはフルネームが……
 ええっと、ペンドラゴンじゃなかったっけ?
 
 うん!
 確かフルネームは、アーサー・ペンドラゴンだった。
 
 でも!
 ペンドラゴンじゃなくて、この少年はバンドラゴン?
 そう、アーサー・バンドラゴンだ。
 
 失礼な言い方だが……バッタっぽい。
 というか、名前がベタ過ぎる……
 
 そもそも、小説や映画に登場するアーサー王は、
 強く逞しく凛々しいと3拍子揃っている。
 だから、この少年は、はっきり言って名前負けしている……
 
 だって……
 目の前に居るのは偉大な英雄というより……
 中肉中背、平凡な外人の少年なんだもの。
 まあ、さえない俺よりは、ぜんぜ~ん、ましなレベルだけどさ。

 ……俺は、ここまでの記憶を手繰った。
 死んで、大空を飛んでいた時、
 管理神と名乗る邪神ロキに出逢った。
 
 金髪少年の姿をしたロキは、転生を望む俺を新たな世界へ送ると告げた。
 ダメ元で頼んだ、日本の中世戦国時代へ転生し、
 信長の部下になりたいという希望は、残念ながら却下されてしまったけど。
 
 しかも……
 ロキは転生にお約束の派手なチート能力はくれなかった。
 
 貰えたのは常人の10倍といわれた魔人レベルの頑健な肉体、身体能力。
 加えて『信長スキル』というマニア受けするスキルをくれ、
 サトリ、魔王の威圧というスキルも……
 
 中でも『信長スキル』は俺の臆病で弱気な性格を、剛毅果断に変え、
 信長が得意だった様々な特技もくれるという。
 
『あ、あの……アーサー様』

『何だ?』

『俺達、具体的にこれからどうするとか聞いてます?』

『いや、あまり詳しくは聞いておらん。私は本番に強いタイプだと言われてな』

 はあ?
 俺に言った事と、全く同じ事言いやがって!
 あいつ、ホント超いいかげんな奴だ。

 仕方なく俺は、このアーサー少年に対し、
 自分がここに来た以上の経緯《いきさつ》を簡単に説明する事にした。

『ええっと、貴方と同じ幽霊状態だから分かるかもしれません。実は……俺って、一旦死んだんです』

『だろうな、そこまでは聞いている』

『はい! そうしたら……ロキって名乗る、すっげぇ怪しい奴から、貴方と入れ替わって転生するように言われたんですよ』

『ロキ? ああ、それはもしや神の事か?』

『神? はい、あいつは一応そう言ってました』

『ははは、一応か? まあ確かに、ロキ様は神にしては言葉遣いがハイカラで、とても調子の良い方だったな』

 ロキが神にしては言葉遣いがハイカラ?
 
 いや違う。
 あいつはハイカラなんて言葉遣いじゃない。
 ガラが超悪く、口汚い言葉をマシンガンのようにガンガン放っていた。
 
 そう、俺とアーサーが会ったあいつは、絶対に神じゃない。
 悪魔としか思えない。
 それに凄く横暴、且つ、超いい加減な悪魔なんだって。

 複雑な表情をする俺。
 アーサーは続けて言う。

『うむ、思い出した……ロキ様からは太郎殿の死んだ事情だけはざっくりと聞いた』

 ふ~ん、そうなんだ?
 じゃあ、少しアーサー王子の価値観って奴を探ってみるか。 

『成る程、俺って愚か者ですよね? 事件のとばっちりで、いいカッコした挙句、呆気なく死にましたから』

『いやいやけして愚か者ではない。太郎殿は人質となった女性を救う為、身体を張って戦った末の立派な死に方だ。いわば騎士らしい名誉の戦死だぞ』

 愚か者じゃなく、名誉の戦死か……
 あっちの世間で同情されて、かけられるであろう言葉とほぼ一緒。
 でもこれでアーサー王子が紳士的で真面目な事は分かった。
 
『う~ん……騎士らしい名誉の戦死ですか……』

『いや、太郎殿に比べれば、私なんか本当に情けない。たまには気晴らしにと登っていた木から、誤って落ちた。そのまま死んだ』

『えええっ? 木から落ちて死んだあ? そ、それは何と不運な……超が付くアンラッキーですね』

 ビンゴ!!
 やっぱり、俺の勘は当たった。
 
 だって!
 この人、いかにも運動神経なさそうだもん。
 でも、同じ運動音痴の俺が言ったら「目糞が鼻糞を笑う」って事だ。

 そんな俺に、アーサーは屈託のない笑顔を見せる。
 まあ、苦笑だけど。

『ははは、慣れない事はするもんじゃないな。だが死んでしまったものは仕方がない。それより話を戻そう』

『は、はい……』

『……太郎殿はこのまま私の身体に魂を移し、転生することになる。引き換えに私はもっと良い条件で、次の異世界へ転生出来るそうだ。ロキ様が約束してくれた』

 ロキが約束?

 あっ、そう。
 もう転生の話がついているのね。
 あいつ、ホント手回しが良い事で……

 だが……
 死んだらもっと良い異世界へ行けるなんて……
 
 どうせ、書面にした契約書なんかなくて、単なる口約束だけでしょ?
 詐欺《さぎ》の臭いがプンプンする。
 話がうますぎて怪しい事極まりない。
 
 でも……まあ、
 このアーサーも、俺と同じ状況だったかもしれない。

 「たったひとつしか選択肢がないぞ」とか、ロキから散々脅されたんだろう。
 俺と違って、この人、凄く真面目で素直そうだし……
 つい、「はい!」ってOKしちゃったんだろうな。
 
 そんな事を俺が考えているとは露知らず、
 アーサーは俺に拝むように手を合わせて来た。

『見たところ、太郎殿は私よりずっと恰幅《かっぷく》が良くて強そうだし、頭も切れそうだ。我がバンドラゴン家を盛り立ててくれ、どうか頼む』

 は?
 恰幅が良い?
 物は言いようだ。

 もしかして……
 彼が見る今の俺の見た目が著しく変わっているとか、
 または顔の造作が、少しくらい底上げされたんだろうか?

 それにしても、我がバンドラゴン家ねぇ……
 ロキから聞いた話では……
 確か転生対象は異世界のお気楽な地方領主の息子。
 つまり地味な、下級貴族になるって話だった。
 
 まあ地方で下級貴族の息子ってのも気楽で良いか……
 ラノベでいくつか読んだ気がする。
 退屈な日常かもしれないが、
 中央のめんどくさい政権争いとかは、ほぼ関係ないだろうから。
 
 ……まあ良いや。
 もう少しアーサーに事情を聞いてみるか。

 という事でさりげなく、笑顔で質問。
 今後の事もあろうかと、アーサー少年を少し持ち上げておく。

『えへへ、アーサー・バンドラゴンって、すっごくカッコいいお名前ですよね。でもどこかで聞いたような気がしますけど』

『お、おい! 太郎殿、な、何を言っている! ロキ様から教えられていないのか? 聞いてはいないのか?』

『え、ええ……詳しい事は教えて貰ってません、貴方と入れ替わって、転生しろとだけしか……』 

 お前は、いきなりの本番に強い!
 だから説明無しでも、全然大丈夫とかさ。
 
 俺が事情を全く知らないと認識し、
 アーサー少年は少し不機嫌になったようだ。
 
 つまり『引き継ぎ』がしっかり出来ていないぞって怒りだ。
 でもそれは、俺のせいじゃない。
 転生に際し……頼んでもろくに説明してくれないロキ、
 あいつが超の付くいい加減なせいだ。

『むううう……仕方がない。じゃあ私から改めて太郎殿へ説明しよう』

『す、すんません。宜しく、お、お願いしまっす』

『うむ……我がバンドラゴン家はな、このアルカディア王国を統治する王族……いわゆる王家、私は第一王子だ』

『へえ、そうなんですか、第一王子なんですか、そりゃ大変ですね……って、おいっ!』

『ん? 太郎殿、おいって? いきなりどうした?』

『い、いえ! な、な、何でもありません!』

 お、王国!?
 アルカディア王国ぅ!?
 
 そこの第一王子!?
 このアーサーさんがぁ!?

 うっわ~。
 違う!!!

 あいつから、聞いていた話と全然違う!
 違い過ぎる!

 おいおい!
 確か神を名乗ったロキは、転生して入れ替わるのは、
 『単なる地方領主の跡取り息子』だと言っていた。
 
 それなのに、第一王子って……
 もしかして次期王様?

 と、言う事は……
 俺の運命が劇的に変わる?
 
 平凡でブサな単なる『いち高校生』から、
 王位第一継承者の高貴なる王子様へ、華麗なる転生!?

 うわあっ!
 上がり幅大きすぎ!

 ショックを受けた俺は、期待と不安が交錯し、
 大いに混乱したのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

処理中です...