上 下
6 / 38

第5話「太郎、転生相手に出会う」

しおりを挟む
 異世界の管理神とうそぶいたロキと別れた後……
 俺は相変わらず大空を飛んでいた。
 奴曰はく……『このまま飛んでけ~』だと。
 飛んで飛んでひたすら飛んで行けば……
 俺が入れ替わって転生する『地方領主の息子』に会えるというけど。
 
 『地方領主の息子』って、一体、どんな人なんだろう?
 さっきロキと話した時に、記憶を手繰ったが……
 ラノベで良く登場する、『お人よしで温厚な貴族の子弟』って感じなのだろうか?

 ロキとは何故か、ぺらぺらと話す事の出来た俺であったが……
 本来の俺は結構なコミュ障である。

 初対面の俺が、上手く話してコミュニケーションをとる事は可能なのか?
 疑問に思ったが、その他の事象を含め、全く説明なし。
 
 ゲームの取説はほとんど読まない俺だが、
 今回は遊びではなく、人生がかかってる。
 予備知識なしでは、大いに不安がある。

 いつものパターンだが……
 とことん考えて、どうにもならなければ、開き直る。

 まあ、いいや。
 何とかなるってと。
 
 それに爆炎の魔法とか、転移魔法とか、一瞬にして回復する治癒魔法みたいに、
 けして派手ではないが、素敵なチートもいくつか貰った。
 
 中でも、常人以上の魔人だといわれたビルドアップされた肉体と、
 俺みたいな戦国マニアには待望の信長スキル。
 死ぬ前に送っていた超裏街道的な人生よりは、ず~っとマシになるはずだ。

 そして転生するのは小なりとはいえ、領主の息子。
 何となくしか想像出来ないが、生活だってガラリと変わる。
 間違いない!
 平民の俺は下級とはいえ、貴族になるんだもの。
 可愛い女性使用人にメイドさんの恰好でもさせようかという、
 ささやかな夢もある。

 とりあえず今は、大空の散歩を楽しもう。
 
 頬を「びしびし」叩く風を感じると……実感する。
 これは絶対に夢なんか見ているんじゃない。
 間違いなく俺は、大空を飛んでいるんだって!
 
 五感を備える身体がないのに、吹き付ける風を感じるのは凄く不思議だけど……
 この状況に焦ったが、よくよく考えれば、なかなか出来ない貴重な体験だ。

 と、その時。 
 
 何か不思議な、得体の知れない強い力が、
 「ぐいぐい」俺をある方向へと引き寄せている。

 ロキが最後に告げたセリフがリフレインする。

『このまま飛んでけ! そしたら奴が待ってる! ノープロブレム! 俺様には分かる! おめえはいきなりの本番に強いタイプだ』

 そうか、分かった!
 転生する相手が居る先へ、導かれてるって事だ。

 そんなこんなで……
 精神体である俺は、成層圏ともいえる、
 雲ひとつない高所を飛んでいたのだが……
 自分の意思ではなく、徐々に高度を下げて行った。
 
 地上へ「ぐんぐん」近付く俺が、ふと眼下を見やれば……
 とある森の中へ、真っすぐに向かっている。
  
 あっという間に森が迫って来る。
 
 ん?
 一頭の小柄な馬が木に繋《つな》がれている。
 
 そして木の根元には?
 誰かが居る!?
 
 ああ!
 男がひとり居た!
 ……倒れているのが見て取れる。
 
 これって……
 もしかしてあの男は木に登っていて、ズッコケ、落ちたりでもしたのだろうか?
 もしそうだとしたら……
 俺とは違う形だけど、なさけない現世とのオサラバ。
 
 まだ、そこそこ距離があるのに……
 ロキから貰った肉体補正のお陰なのか、視力がぐんと良くなった俺には、
 はっきりと見てとれる。
 倒れている男の様子が……しっかりと分かったんだ。
 
 うん!
 倒れている男は……かなり若い。
 多分、俺と同じくらいの年齢、少年であろうかと。
 簡素な仕様ながらも、見た事がない品のある服を着込んでいる。 
 
 これもすぐに分かった事だが……
 少年は既に息をしていなかった。
 可愛そうに、お亡くなりになっていた……
 
 そして、少年の『遺体』の足元には何と!
 俺と同じ精神体……
 
 つまり幽霊らしき者が、「ちんまり」と座っていた。
 どうやら……この『彼』が死んだ少年らしい。
 
 じゃあ、もしかしてこの少年が?
 俺が入れ替わる地方領主の息子?
 
 座り込む精神体の少年は、空を見上げると大きく手を振った。
 自分の方へ飛んで来る『俺』に、気が付いたようだ。
 
 やがて俺が地面に降り立つと、うんざりしたような表情で話し掛けて来る。

『おいおい、待ちくたびれたぞ、ようやく来たのか』

 少年は俺の事を知っていたようだ。
 多分ロキから聞いたのだろう。
 ず~っと待っていたらしい。
 
 改めて見やれば……
 やはり彼は日本人の俺とは全く人種が違う。
 完全に外人である。
 
 中肉中背、茶髪、細面、鼻は低く、唇はやや大きくて薄い。
 ダークブラウンの目が細く、少し垂れていて愛嬌がある。
 どこかの有名な某俳優に似ていると俺は思う。

 良く言えば、フレンドリーな。
 悪く言えば、平凡な。
 でも俺よりはず~っとマシな顔かも。
 
 全然エネルギッシュではないが……
 見る限り、いかにも人の好さそうな、優しそうな面影をした草食系の少年……
 
 だが、外見だけで人間は判断出来ない。
 どんな奴かも分からない。
 散々待たせた理由で、怒らせたらまずい。
 勝手が全く分からないので、ここは念の為……低姿勢&敬語で行く事決定。

 今更ながら日本語が通じるのは……
 『ご都合主義の異世界』という事で許して頂こう。

 閑話休題。

 仕方なく俺は、丁寧に深く頭を下げる。
 無難な対応って奴だ。

『ご、ご、ごめんなさいっ! お待たせてしてしまいまして! お、俺は雷同太郎と申します。それで貴方は?』

 盛大に噛んだ俺に対し、外人の少年は……

『うむ、貴殿が雷同太郎殿か? 話は聞いているだろうが、私がアーサー・バンドラゴンだ』

『アーサー・バンドラゴンさん? よ、宜しくお願い致します』
 
 はたから見れば、相当変だけど……
 
 日本人の俺と外人の少年は死んだ幽霊同士、微妙な雰囲気の中、
 挨拶を交わしていた。

 あれ?
 ついついスルーしちゃったけど……
 アーサー少年が告げた、話は聞いているだろうって何?
 
 いやいや!
 全然聞いてないって!
 ロキの奴、絶対に説明が面倒くさいと思ったのだろう。

 やっぱ、ダメじゃん!
 勝手が全然分からん!
 
 『お前はいきなりの本番に強い!』なんて真赤な大ウソだ!
  
 俺は頭を下げながら、超いいかげんな管理神、
 ロキへの怒りに燃えていたのである。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪魔祓いは性なる技法で

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:55

学園最強の独隠楽生(リタイアライフ)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:104

ダークファンタジア番外編

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,519pt お気に入り:306

【R18】私、痴漢(あなた)のこと、何も知らない。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:51

女騎士と鴉の秘密

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:372

小鬼は優しいママが欲しい

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

異世界物語 ~転生チート王子と愉快なスローライフ?~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:166

処理中です...