騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました!

東導 号

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第16話「予定は未定」

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翌日午後……
騎士隊から派遣された警護の女子騎士2名が、正門でにらみをきかせる、
ラパン修道院では、シスター全員参加による会議が行われていた。
議題は当然、ロゼールとベアトリスがシスター達の意見を基に、
とりまとめた修道院改革案である。

当初は、ロゼールとベアトリス、そして数人のシスターが代表として出席し、
修道院長へ上申する予定の改革案を全員からの要望として出したいと意見が一致。
この会議の状況と相成ったのである。

会議自体もただイエス、ノーとか、賛成、反対のみでなく、
各自が十分に提出案を読み込み、意見を存分に戦わせた。

結果、改革案は成立。
タイムスケジュール、内容に様々な意見が盛り込まれたのである。
最大の変更点は、ストレッチ、トレーニングの導入、任意での、武器の扱いを含めた護身術訓練の導入である。

昨日のオーク襲撃で、大きなショックを受けたのだが、
逆にこの大きな災厄を乗り越えた事が、シスター達の心の絆を、固くひとつにしたのかもしれない。

その災厄の現場となった農園だが……
救援に来た騎士隊、王国軍により散乱していたオークの死骸は片付けられ、
今朝の農作業は修道院長以下、全員で行われ、これまたシスター達の結束を強めていたのである。

改めて記そう。
ラパン修道院の新・スケジュールは下記の通りとなり、
早速、会議3日後から、実施された。

4:00AM――起床
調理担当シスターはこの間に朝食の支度

5:00AM~6:00AM――読書『創世神教聖書』等々
ミサ、朝のお祈り……朝のお祈り後に朝食    

6:30AM~7:00AM朝のトレーニング、ストレッチ中心
7:30AM~10:00AMまで午前の仕事……主に農作業を行う。

10:30AM~11:30AM――教育係担当シスターによる、昼食調理を兼ねた料理指導。または交代で家事指導等を受ける。

0:00PM――昼のお祈り後に、昼食

1:00PM――2:00まで午後の仕事……主にお菓子作り、裁縫作業を行う。
または交代で、教育係担当シスターによる、家事指導等を受ける。

2:30PM~3:30PM――教育係担当シスターによる、読み書き、歌唱指導を受ける。
調理担当シスターはこの間に夕食の支度

4:00PM~5:30PM――担当シスターによる武技、護身術教授

6:00PM~7:00PM――晩のお祈り後に、夕食

7:30PM~8:30PM――教育係担当シスターによる、行儀作法、儀礼指導を受ける。

8:45PM~9:45PM――創世神様に一日過ごせた感謝を捧げる寝る前のお祈り、その後、就寝まで自由時間。

10:00PM――就寝

ロゼール、ベアトリス、ジスレーヌを含め、修道院長まで全員のシスターが新たな思いを持ち、一歩を踏み出したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それから、あっという間に時が流れ、3か月が過ぎた……
改革が為されてから3か月の間に、ラパン修道院の雰囲気は、著しく変貌していた。

これまでは質素を旨とし、創世神教会の厳格な教義に沿って……
シスター達の生活は、無駄な私語を禁じられ、物静かな雰囲気できっちりとスケジュールが定められていたのだが……

改革案が通ってからは、シスター達は明るく自由に話し、勉学は勿論、
日々のトレーニング、護身術習得で食欲旺盛にもなったのである。

シスター達は、毎日元気に。

「おっはよ~!」
「おっはあ!」

「朝のお祈りして、朝ごはん食べよ~」
「メニュー何かなあ! 好物希望!」

「おいっちにさんし!」
「農作業前の準備運動が大事よね!」

「うっわ! お腹ぺこぺこ!」
「今日の農作業、きつかったあ! でもお芋が出来るの楽しみぃ!」

「今日は私、クッキーを焼くの!」
「私は、ハンカチを縫うのよ」

「私、今日は歌の練習!」
「私は夕食の当番! 美味しいお料理作るから楽しみにしてね~」

「今日の護身術はいきなり襲われた時の方法だって」
「よっし! がんばろ~」

「夕食おいし~」
「毎日、3食、おいしいね~」

「行儀作法、しっかりおぼえなきゃ!」
「恥ずかしくないようにね!」

「自由時間、おしゃべりしていよう」
「明日の準備をしようかなあ」

「おやすみ~」
「ぐっすり眠れる~」

などと、会話も弾む。

修道院長も、得意の回復魔法で、シスター達の面倒をよく見て……
ラパン修道院の評判は、ぐんぐん上がり、修道院長の手腕は評価された。
そして再び、花嫁修業希望の良家子女達が、数多来るようになった。

同時にベアトリスから各所へ報告も為され、最終的に修道院長の処遇は、
現状のまま、引き続き、という措置となったのである。

そんなある日……
ロゼールは、ベアトリスの私室へ呼ばれた。
『特別な話』があると。

一緒に戦い、心が通じ合ってから……
身分の垣根を超え、ロゼールとベアトリスは更に仲良くなり……
今では「ロゼ」「ベアーテ」と愛称で呼び合うようにもなっていた。
但し、ロゼールがベアトリスを呼ぶ時は愛称でも様をつけてはいた。

扉を閉めたロゼールにソファへ座るように告げ、ベアトリスは紅茶を淹れた。
そんな事も、今は自然となっていた。 

……特別な話と言われ、ロゼールは大いに気になっている。

「ベアーテ様……特別なお話とは何でしょう?」

「……ロゼ、私、明日でこの修道院を卒業するのよ」

「え? いきなりですね?」

「いいえ、この院の改革をして報告したし。もう充分、花嫁修業も出来たからね。帰宅するわ」

物事には始まりがあり、終わりもある。
ベアトリスは花嫁修業を終わらせ、ドラーゼ家へ戻るという。

せっかく仲良くなったのに……
ロゼールは残念である。
身分こそ違えど、そして年下だけど……
ロゼールにとって、ベアトリスは、自分を理解してくれる、
唯一の親友といえる間柄なのだから。

「……とても、寂しくなりますね」

「うふふ、大丈夫よ、ロゼ。寂しくなんかならないわ」

「そうですか。私の方は後、2か月は……最低でも半年は花嫁修業をすると、両親に約束しましたので……その後、どこかの男性と見合い結婚すると思います。ブランシュ家を継ぐために……」

男爵家のひとり娘として、自分の未来は既に決定している。
その通りに歩むしかない。
ロゼールは寂しそうに顔を伏せた。

しかし、ベアトリスは優しく微笑んでいる。

「うふふ、ロゼ。予定は未定って言葉は知ってる?」

「え? 予定は未定……ですか?」

「ええ、予定など立ててもすぐ変わる。未来は不確定なの」

「予定はすぐ、変わる……未来は不確定……」

「そうよ、ロゼ! 貴女の予定は変更、未来は、がらりと変わったのよ」

ベアトリスは何を言っているのだろう?
ロゼールは全くわけがわからなかった。

「えええ? わ、私の未来が、がらりと変わったとは?」

「ええ、貴女のお父上ブランシュ男爵と、ウチの父が話をつけたわ」

ベアトリスの言葉は次第に話の核心へと向かって行く……

「え? ドラーゼ公爵閣下と私の父が? 一体どういう事でしょう?」

「ロゼ! いえ! ロゼール・ブランシュ!」

「は、はい!」

「ロゼール! 貴女はね、とても才能がある女子よ。もっと適材適所で輝くべき人材なの! それをしっかり自身で理解して!」

「は、はい」

「ロゼール! 無理やりの、愛がない見合い結婚なんかしちゃいけない! 私ベアトリス・ドラーゼが、絶対にさせやしないわ!」

「え?」

「貴女はね! もっと、希望に満ちた、明るい未来をつかみ取るべきなのよ!」

「き、希望に満ちた、あ、明るい未来?」

「そうっ! ロゼール・ブランシュの明るい未来は、ドラーゼ公爵家令嬢ベアトリス・ドラーゼ、つまり私が引き受けたわ」

「え? ベ、ベアーテ様が私の明るい未来を?」

「ええ、そうよ、ロゼ! とりあえず貴女はね、私ベアーテの護衛役、専属騎士にして、おそば係、つまりウチの騎士兼メイドにしたからね♡」

「ええええええっっっっっ!!??」

「という事で、これからも私と一緒! 寂しくなんかさせないっ! 貴女の将来はいろいろ考えてるし、今後とも宜しく! 一緒に幸せになろうね♡」

きっぱり言い切ったベアトリスは、相変わらず柔らかく微笑んでいたのである。
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